第110話 清風国の未来
襲撃の翌日。宿の部屋で休みながらテレビを見ていると、もう昨日の事件がニュースで報道されている。
早いな。王都の住民に起こった出来事、襲撃犯が四天王であること、俺たちやライラ、陛下、宰相が戦ったこと、清風剣を奪われてしまったこと。
全て隠さず国中に知らせているようだ。隠し事が難しいこの国ならではの習性かな。
陛下自身がテレビに出て詳細を語っている。そして、清風剣を奪われてしまった責が自分にあり、申し訳ないと頭を下げた。
陛下は悪くない。敵が一枚上手だっただけだ。でも、誰かが責任を取って頭を下げないといけないんだろうな。
立派に戦った陛下に頭を下げさせてしまった。俺がもっと早く駆けつけることが出来ていれば、なんて考えは傲慢だが、そう思わずにはいられない。
「ユーリ君。起きているかい? 城まで来て欲しいんだ」
部屋の外からライラの声がする。城まで? 何の話だろうか。
拒否する理由はない。出かける準備をしよう。
ライラに連れられて、エイミー、クラリスと共に城に来た。
以前にも来たことがある会議室に通される。部屋の中には、既に陛下と宰相がいた。
「よく来た。座ってくれ」
テーブルを挟んで向かい合うように置かれているソファの片方に座る。隣にエイミーとクラリスも座った。
陛下も宰相も目に隈がある。まさか、昨日から寝ていないのか? あんな戦いがあったのに、休むことも出来ていないなんて。
「大丈夫ですか? もしかして休んでいないのでは?」
「ああ……まあ、な。王都中が絶望に囚われた。早々に状況説明をしなければ民の不安が大きくなってしまうからな。休んでいる暇はなかった。だが、大丈夫だ。これくらいでどうにかなるようでは、王は務まらん」
「ユーリ、今回お前に来てもらったのは、これからについて話すためだ」
「これから……ですか?」
「ああ。今回の襲撃で清風剣が奪われてしまった。もし、これで全ての剣が奪われたのだとすれば、魔王の封印が解かれ、その被害は世界中に及ぶだろう」
「そこで相談なんだが、ユーリ。お前たち、しばらくこの国に残ってくれねぇかってことだ」
この国に残る? それはどういうことだろうか。旅を止めてこの国にずっと滞在して欲しいってことか?
「ずっととは言わない。出来れば1ヶ月、最低でも1週間、この国に残って、もし封印が解けたら共に戦って欲しい。そういうことだ」
なるほど。魔王の封印が解けたらどうなるのかはわからないが、何らかの影響が世界中に及ぶのは確実だろう。
その時、その影響を退けるために戦って欲しい、そういうことか。
バーンが今どうなっているのか、それがわからない。だから、封印の様子をしばらく見て、大丈夫そうなら旅を再開しても良いって話だな。
しばらく滞在するのは構わないと思う。だが、やはりバーンの状況が気になるところ。
「1週間、この都市に滞在しようと思います。もしバーンがまだ無事であるのなら、剣を守るために戦えるかもしれない。なので、あまり長くは止まっていられない。そう考えます」
「そうか……。いや、1週間でも良い。感謝する」
「いえ……。協力できず申し訳ありません。しかし、魔王の復活を阻止出来るのなら、それに越したことはないと思います」
「そうだな。それが一番に決まってる。……良し! 大丈夫だ! この国は俺が守る! ユーリ! お前は自由にしてくれて良い!」
宰相にらしさが戻ってきたようだ。とはいえ、一度言ったことを覆すつもりはない。1週間はこの都市に滞在しよう。
「お二人もしっかり休んでください。いざという時にお二人が動けないようでは、この国は大変なことになってしまいますよ」
せめて睡眠くらいはしっかり取って欲しい。特に宰相。昨日の戦いで全身極光に焼かれていた。クラリスが回復魔法をかけたとはいえ、万全には程遠いはずだ。
「ああ、そうだな。もう事件の詳細は国中に伝わったし、我々も休むとしよう」
「ふああぁぁぁ……。ねみーぜ……。じゃ、俺は帰って寝る」
「我々も戻ります。お疲れ様です」
「ああ、ユーリ。もし余裕があれば、また王子たちの剣を見てやってくれ。気が向いたらで良いからな」
「そうですね。時間はあるのですから、またお教えすることにします」
「ではな。宿はそのまま使ってくれて大丈夫だから、ゆっくりして行ってくれ」
会議室を出る。どうするか。王子たちの様子を見てから帰るべきかな。
「俺は一度鍛錬場に顔を出そうと思うけど、エイミーとクラリスはどうする?」
「あたしたちは戻るッス」
「ええ、申し訳ないですけど、鍛錬場には1人で向かってくださいな」
「ん? ああ、わかった。気をつけて帰れよ」
何か用事でもあるのだろうか。何となく寂しい。鍛錬場に向かおう。
鍛錬場に来た。王子二人が剣の素振りをしているのを、王妃様が見ている。
「精が出ますね。調子はいかがですか?」
「ユーリさん! 見に来てくれたのですか?」
「大丈夫です。昨日の影響は特に残っていませんよ」
二人とも元気そうだ。まあ俺より早く起きていたもんな。きっと心が強いのだろう。
「ユーリさん……あの……」
「いかがなさいましたか?」
なんだか言いにくそうに王妃様が話しかけてきた。
「この子たちが……絶対に安全に暮らせる方法はないものでしょうか……?」
絶対安全に暮らせる方法? 正直思い浮かばない。王族である時点で命を狙われる可能性はある。どこかに身を隠すにしても、それが逆に危険に繋がることは充分考えられることだ。
「申し訳ありません。わたしには思いつきません」
「そうですか……。昨日、私はこの子たちが目の前で血まみれで倒れている様を見せ付けられたのです。あれが幻であることは理解出来ているのですが、どうしても頭から離れなくて……」
なるほど、そういうことか。明らかに王子二人を大切にしているこの人のことだ、それは辛い思いをしたのだろう。
出来れば不安を取り除いて差し上げたいが……どうしたものか……。
「母上! 大丈夫です!」
「僕たちは強くなります。だから、そのように不安に思うことは何もありません」
「え……?」
「ユーリさんから剣の扱いは教わりました。ユーリさんは旅に出てしまうかもしれないけれど、鍛錬は続けます」
「これから、強くなる。母上だけじゃない。この国を僕たちが背負うんです」
「だから、見ていてください! 母上のそんな不安は、僕たちが取り除きます!」
「デュール……ボレス……! 強く……なったのね……!」
「どうやら心配はいらないようです。きっとこの国全てを守れるくらい強くなって、その不安を取り除いてくださいますよ」
「ええ……。ええ……!」
涙が止まらなくなってしまった母親に駆け寄る王子たち。強くなる、じゃなくてもう強いのかもしれないな。
今日は帰ろう。また明日以降、剣の鍛錬に付き合って差し上げるとしよう。
この国の未来は明るい。だから、その未来を守るためにも、
清風剣を取り戻さなくてはならない。
明日から閑話を4話投稿します。




