第105話 閑話:ガルジュ・ヴィード
閑話3話のラストです。次回から本編に戻ります。
ヴィード侯爵家は昔は武術の家系として有名だったらしい。その武術で王族を守る側近だったようだ。
今は見る影もない。魔法道具開発の技術が進歩して銃が台頭してくるにつれて、肉体を使った戦闘技術はどんどん廃れていった。
両親も5つ上の兄も、全く武術の鍛錬をしない。やっても無駄だと諦めて、勉学に力を入れている。
父は宰相だ。その勉強も無駄ではなかったということなんだろう。だが、初級から上級まで、初心者用から超人用まで、武術教本が揃っているんだぞ?
なぜ鍛錬しない?
銃に負けるから?
馬鹿が! 銃に負けるのは鍛え方が足りないからだ!
俺はガルジュ・ヴィード、5歳。日々武術の鍛錬を欠かさない。必ず極める、そう決めた。
「ガルジュ、今日はお前も城についてきなさい」
「城へ?」
「そう。お前と同い年の王子の友達になって差し上げなさい」
友達になって差し上げる?
「嫌だ」
「お、おい……」
「友達ってのはなってあげるもんじゃない! なってるもんだ!」
「そ、そうか……。じゃあ一度会ってみなさい」
「わかった」
城に行くのは初めてだ。そもそもあまり外に出ていないから仕方がないけど。
武術の鍛錬をするのは当然として、父に勉強させられるから更に時間がなくなってしまう。
外に出てる暇なんてないんだ。
「ほら、あの方がバーダルド殿下だ。お前と同い年なのにもう難しい論文を理解出来る天才なんだぞ」
城の図書室で本を読んでいるのは、全く鍛えてなさそうなヒョロいガキだ。
あれが王子か。気が合いそうにはないな。
本を読んでいる王子の前まで行って挨拶する。
「よお、俺はガルジュ。ガルジュ・ヴィードだ。よろしく」
「ちょっ!? 馬鹿! ちゃんとした言葉遣いを……!」
王子はこちらをチラッと見ると、
「バーダルド・リーズトルストだ。俺は今本を読んでいて忙しい。わかったら別のところで遊べ」
へぇ、気が弱そうな見た目してるのに、こんなにはっきり邪魔だと言ってくるのか。
思ったより面白い奴だ。
「なあ、バータルド。何読んでるんだよ」
「バーダルドだ。お前のような脳筋にはわからん」
「脳筋?」
「脳みそまで筋肉でできていそうな奴のことだ。お前にぴったりだな」
脳みそまで筋肉? それは良く鍛えられてるってことか?
「おう! サンキュー!」
「フッ、やはり脳筋だ。たわけが。褒め言葉ではないわ」
「そうなのか。バートルドも少しは鍛えた方が良いぞ。ヒョロすぎて突いたら折れちまいそうだ」
「バーダルドだ。なぜ王族が体を鍛えねばならんのだ。それは警備部隊がやるべきことだ。王族は知識を蓄え、国を動かすのが役目なのだからな」
そういうもんか? 鍛えるに越したことはないと思うけどな。だって、
「警備部隊が裏切ったらどうすんだよ。あと部隊が負けたりとかさ」
「……ふむ。なるほど、一考の余地はあるか」
「お、鍛える気になったか? よし、バーダルト、俺が武術を教えてやろう」
「バーダルドだ。誰が貴様なんぞに教わるか。ちゃんとした教師に教わった方が効率的に決まっているだろう、たわけが」
「なにぃ! わかった、なら勝負だ! 俺の方が強くなるからな!」
「なぜ俺がそのような勝負をしなければならんのだ、馬鹿者が。勝手にやっておれ」
「じゃあ勝手にやってやるよ! また来るからな! バーデルド!」
「バーダルドだ」
ヴィード家の武術の強さを教えてやる!
それから3年、俺は城に通い続けている。
「オラオラオラァ! 逃げてばっかりかぁ!」
「ふん、俺の勝ちだ」
「はぁ? 何言って……どわぁ!?」
急に足元に穴が開いた。それに足を取られて転んだ俺の頭に、王子の銃が突きつけられる。
「ほれ、降参しろ」
確かに普通なら降参するしかない。でも、
「撃ってみろ」
「はぁ? 死にたいのか、たわけが」
「大丈夫だって。撃ってみろよ」
「……後悔するなよ?」
瞬間、頭に衝撃。目がチカチカして、意識が飛びそうになる。
血が流れて、鍛錬場の地面に落ちた。
「いっっっってええぇぇぇぇ!!」
「……なんだそれは」
「ぐうううぅぅぅぅ……。こ、これが武術だ……!」
「いや、わからん。どれが武術だ?」
「だから、これが武術だ!」
「…………筋肉ではなく脳で考えてくれるか」
なんでわかんねーかなぁ。
時は流れて、俺と王子は15歳になった。
最近は、奴は王になるための勉強が忙しくなったとかで、あまり鍛錬の相手をしてくれなくなった。
今日は時間があるだろうか。また城に行ってみよう。
城まで来たが、なんだか様子がおかしい。
普段は門番をしているはずの警備部隊がいない。そして、城内から響く何かが壊れる音。
明らかな異常事態。駆け出す。
すぐに警備部隊と思われる男と遭遇。
「おい、何が……」
あった、と声をかけようとした瞬間、
衝撃。頭が仰け反る。
撃たれた。それを理解した瞬間、
足で床を踏みしめ、
肘を敵に向けて、突貫!
「剛鉄槍!!!」
その肘は敵が持つ銃を粉砕し、その勢いのまま胸を穿つ。
吹き飛び動かなくなったのを確認して、構えを解いた。
「いってぇな、クソッ。なんなんだ……」
額から血が流れてくるのを拭いながら、城内を駆ける。
出会う警備部隊がどいつもこいつも銃を向けてきやがるので、全て薙ぎ倒しながら、味方を探す。
「誰かいねぇのか!?」
「大声を出すな、たわけが」
「その声、バーダルドか!」
廊下の角から顔を出したのは、バーダルドだった。良かった、無事なようだ。
「大声を出すなと言っている。チッ、何で出会うのが貴様なんだ」
「何が起きてる」
「警備部隊への指示出しや管理を行っているジェルス・フロー伯爵が襲撃を企てていたらしい。王族がいなくなれば完全に魔法技術局が国を動かせるとか言って、襲ってきた。なんとも頭が悪い話だ」
「そいつはどこだ!?」
「知るか。襲ってきたのは部隊の連中だ。伯爵本人がこんな場所にいるわけなかろう」
「そうか? だって指示を出すなら近くにいた方がやりやすいだろ?」
「やりやすいからと言って、わざわざこんな危険な場所に来る訳が……」
「見つけたぞ! バーダルド王子だ!」
現れたのは、ちょうど話していたフロー伯爵だ。ほら、いるじゃねぇか。
「殺せ!!」
そして、指示を出す貴族がここにいるということは、部隊もここに集まっているってことだ。
「チッ! 一度逃げるぞ!」
「剛靭心体!!!」
「ば、馬鹿! 銃を持った部隊相手に生身で突撃する気か!?」
「今度こそ教えてやる! これが!」
武術だ!!!
迫る銃弾を全て体で弾き、突撃。
そして、
「剛破弾!!!」
殴る!!
その一撃でジェルス・フローは吹き飛び、気絶した。
「まだやるか?」
周囲の部隊に問いかける。
「お、俺たちの負けだ……」
「ふん、情けねぇな。やり始めたなら最後までやれよ」
「お、おい! 無事か、ガルジュ!」
「あ? 何が?」
「血まみれになっているが、大丈夫なのかと聞いているんだ、馬鹿者が!」
「ああ、何でもねぇよ。気にすんな。バータルド」
「バーダルドだ。まだ覚えていないのか……」
「いや、覚えてはいるけどよぉ。言いにくいんだよ」
「ならバードで良い。ちゃんと呼べ、たわけが」
「おう、サンキュー! バード!」
「ふん、さっさと城内を制圧するぞ」
謁見の間までやってきた。指示を出している伯爵は捕まえたけど、まだ部隊長がいないんだよな。
もう大体探したと思うんだが……。
「部隊長! ここか!」
「! これは……」
謁見の間の扉を開けた先に、いた。警備部隊の部隊長だ。
そして、
「親父ぃ!!」
「父上!!」
俺の親父と王が血まみれで倒れている。
「おや、まだ生きていたのですか、王子」
「貴様……! 貴様がやったのか!!」
「ええ、王族は殺せとの命令だったので。宰相は邪魔だっただけですが」
「お前……! 邪魔だっただと……!」
「……もうお前たちに命令を出すフロー伯爵は捕らえた。大人しくしろ」
「ふむ……」
何か考え込む部隊長。
何の前触れもなく、額を打ち抜かれた
「!!!」
「……おや? 君、なぜ生きているんです?」
「剛空衝!!!」
「がっはぁッ!!」
拳を振り抜いた。その衝撃を飛ばすことで、離れている奴を吹き飛ばす。
「舐めやがって……! 絶対に許さんぞ!!」
「ごふっ……ぐっ……はぁ……無茶苦茶ですね……」
「消え失せろ」
バードが銃で部隊長を撃ち抜く。それで終わりだった。
「親父! 大丈夫か!」
駆け寄る。そして触れた瞬間、理解した。
もう、死んでいる……。
「父上……」
この騒動で、王と宰相、他にも多数の死者が出た。
魔法技術局は、全てはジェルス・フローが勝手にやったことだとして、調査を拒否。それに多くの貴族が賛同したことで、内部調査を行うことが出来なかった。
もしかしたら嘘は言っていないかもしれない。伯爵本人も自分の独断だと言っているし、局が黒幕だったとしたらあまりにもお粗末だ。
この騒動を受けて、現在の警備部隊の全員を処刑、または追放。新たに編成した警備部隊を宰相が直接指揮することになった。部隊長もなし。宰相が部隊長も兼ねる。
その宰相というのが、
「ガルジュ・ヴィードを宰相に任命する」
「ありがたき幸せ」
俺だ。なぜ兄を差し置いて俺が宰相なのかというと、その兄が推薦したからだ。
曰く、自分では新たな王、バーダルド陛下のお役に立てない。
その意図は俺にはわからない。だが、俺が宰相になった。
俺は俺なりのやり方で、国を良くするだけだ。
親父、見ていてくれ。




