第102話 収束する力
「阿呆共が! ここは儂の城じゃぞ!」
そう言って何かのスイッチを押すモルス。すると部屋の天井や壁から、銃口が顔を出す。
そして一斉に射撃を始める。
「絶界!」
クラリスが結界を張り、視界を埋め尽くすかの様に迫る魔力弾から俺たちを守る。
しかし、みるみるヒビが入っていく。
「これは!? 絶界・三重奏!!」
「そこで一生撃たれていろ!」
魔力弾の隙間から、モルスが逃走するのが見える。悪あがきをしやがって。ここから逃げたところで処刑を逃れる術なんてないっていうのに。
「かなり威力が高い。恐らく国中に送るための魔力タンクから魔力を使っているね」
「ライラ、止められないか?」
「流石にここから止めるのは無理だよ」
「大丈夫ですわ! このまま追いかけますわよ!」
そう言って結界を維持したまま走り出すクラリス。俺たちもそれに合わせてついていく。
「おお、凄いな! 結界を維持したまま動くことが出来るのか!」
「宰相、行くよ」
モルスが出て行った扉を開け、部屋から出る。部屋の外に出ると、射撃が止んだ。
廊下を見渡してもモルスはいない。どこへ逃げた?
「あっちッス!」
エイミーが指差したのは、階段だ。それも、上り階段。
「上に行ったんですの? 何で……」
「今は良い。追いかけよう」
階段を駆け上がる。そして屋上に出る扉に手をかけようとした瞬間、
「待って!」
エイミーの静止の声。
「この先、何か危険なのか?」
「物凄い魔力が一箇所に集まってるッス。何かヤバそうッス」
物凄い魔力か。何か強力な武器だろうか。
「私が行きますわ」
「大丈夫かい? さっきの射撃でも結界を砕かれていただろう」
「問題ありませんわ。行きます!」
クラリスが扉に手をかけ、一気に開ける。その瞬間……!
「消え去れええぇぇぇい!!」
モルスが持つ土管のように太い筒から、魔力光線が放たれる! それは屋上の床を赤熱させながら迫り……
「転地反鏡・里返!!」
「なにぃ!?」
反射する。それは、モルスのすぐ横を通り、彼方まで飛んでいった。
「あら、直接お返しするつもりが、押されてズレてしまいましたわ」
「ほう、反射する結界か。面白いね」
いつの間にそんな結界を習得していたんだか。相変わらずクラリスは成長速度が凄い。
「この……! こうなれば、タンクが空になるなど知ったことか! リミッターを解除して……!」
「徒花・鏡花水月!!」
一瞬で駆け寄り、その手から筒を叩き落す。そして、ヴィラを額に突きつけた。
「俺は今、お前の命を握っている。わかるか? 俺の意思一つでお前を殺せるってことだ」
「くっ……!」
「理解したか? 他人に命を握られる恐ろしさを。ライラはもうずっとそんな感覚を味わい続けている」
「し、知ったことか! 偉大なる儂の栄光の礎になれるのだから、喜ぶべき……」
ヴィラを少し押し込む。モルスの額から血が流れた。
「少しは人の痛みを知ろうとしたらどうだ。今まさに、お前が人に与えてきた痛みを味わっているというのに」
「……申し訳ないことをした」
「……理解したか?」
「…………悪かったと思っている。儂はただ……」
「ただ?」
「貴様をぶち殺したいだけじゃあああぁぁぁ!!!」
モルスが叫んだ瞬間、取り出した銃を俺に向ける。
俺は反射的にその銃を蹴り上げた。
「阿呆め! もう準備は整った!」
モルスの背のかばんから、指向性を持った魔力が噴き出す。その勢いで俺から離れ、宙に浮かぶ。
結局、ライラの痛みを理解するつもりなんて、これっぽっちもないってことか……。
「モルス! 諦めろ! 既に王から命令が出ているんだ! こうして俺が、宰相が来ているんだからわかるだろう!」
「黙れ黙れだまれえええぇぇぇ!! 貴様のような小僧に命令される謂れはないわ!!」
モルスは叫びながら、建物の外に向かって飛んでいく。
「儂を受け入れてくれる貴族なんぞいくらでもいるんじゃ! 阿呆共め、覚えておれよ!!」
「阿呆はどっちか、教えてあげるよ」
ライラが取り出したのは、片手で持てるサイズの銃。さっき俺がモルスの手から蹴り飛ばしたのと似た物だ。
「馬鹿め! そんな拳銃がここまで届くものか!」
「ウチはね、収束魔法がとても得意なんだ」
さっきモルスがばら撒いたお陰で、この屋上には膨大な魔力が散っている。
それが、全て、ライラの手の銃に集まっていく。
「イレイザー」
ライラが指を動かした。その瞬間、
音が、消えた
その極大砲撃は、モルスには当たらず、そのすぐ横を通過する。
「ば、ば、馬鹿め……! 外しおったな! これで儂の……」
「そう。これでお前の負けだよ」
膨大な魔力に晒されて、モルスが背負うかばんが煙を上げる。噴射していた魔力がなくなり、モルスが落下していく。
「あ、ああああああぁぁぁぁ!!?」
「エイミー」
「はいはいッス」
エイミーがワイヤーナイフを射出。そのワイヤーでモルスを絡め取って確保した。
陛下にモルスの身柄を引き渡した。反逆罪で処刑は確定だが、まずは取り調べをしなければならない。
今までどんな悪事を働いてきたのか、それを調べなければならないからな。
「ご苦労だったな。これで魔法技術局を好き勝手させていることがいかに悪いかを示すことが出来る。法も改善していかねば」
「貴族の動向にも目を向けないとな。もしかしたら考えなしの輩が襲撃してくるかもしれん。しばらくは城の警備部隊を増やすか」
「魔法道具開発の進歩は遅くなるけどね」
「いや、そうとも限らん。在野の人材が台頭してくるかもしれん。そのための法整備だ。局以外の者も積極的に開発する気になるような形にしたいところだな」
局の悪事を公開することが出来れば、今まで法整備を邪魔していた貴族も黙らせることが出来る。
局に有利なだけで、国としては何の得もない法を正すことが出来る。
時間はかかるだろうが、ただでさえ魔法道具で豊かな暮らしをしているこの国が、更に良くなる訳だ。
「良いですわね。ユーリさん、旅が終わったらこの国に住みませんか? 一番暮らしやすそうですわ」
「お、ウィンド国民になるか? 今回の騒動で貴族の席が空くから、一つやるぞ?」
「お前が決めるな、たわけ。とはいえ、確かに何らかの褒美は取らせねばならんな。本当にこの国に住むと言うのなら、貴族の席も考えないではないが?」
「少なくとも今すぐは無理ですよ。バーンにも行って、ガイアに帰って任務を達成した報告をして、どこに住むかはそれから考えます」
そもそも今回の騒動は、俺はあまり役に立っていないからな。どちらかというとエイミーかクラリスの方が褒美をもらうのに相応しいかもしれない。
「エイミーちゃんとクラリスちゃんはどう? 君たちも褒美を受け取る権利はあると思うけど」
「あたしに貴族は無理ッスよ。それにあたしは兄さんについていくんで、兄さんがどうするか次第ッス」
「私はアクアで果たす責務がありますから難しいですわね。その後はユーリさんのところに行きますけど」
「ぷっ……。じゃあ、ユーリ君。頑張ってね……ふふ」
ライラが笑いをこらえながら応援してくる。頑張れと言われてもな……。
「まあ良いだろう。貴族の席ではない何らかの褒美は後日、正式に今回の件が公表されてから渡す。しばらくは、この街でのんびりしていけ」
「わかりました」
「そういえば宿を取ってくださっているのですわよね? まだ一度も行っていませんでしたわ。行ってみましょう」
「そういえばそうだったッスね。すっかり忘れてたッス」
国が用意してくれた宿なんて良い宿だろうから楽しみだ、と思っていたのに、すっかり忘れていた。
この街にも見るものはいくらでもあるだろうし、言われた通りしばらくのんびりしていこう。
明日から閑話を3話投稿します。




