第101話 愚か者の悪あがき
「さて、行くか」
宰相を含めて5人で、魔法技術局に来た。相変わらず途方もなく高い建物だ。
早速建物に入るため、扉に近づく。近づくだけで勝手に開く、仕組みがよくわからない扉だ。
「兄さん!!」
エイミーの慌てた声
開いていく扉、その奥に見える特殊部隊
一斉に放たれる魔力弾
それらは狙い違えず、俺に直撃した
「ば、馬鹿な……!」
その声を上げたのは、特殊部隊の1人だ。まあ驚くよな。
弾が直撃したはずの俺が、その場に立っていれば
「ユーリさん! 無事ですの!?」
「無事とは言えないな。命に関わるほどじゃないが、かなり痛い……」
エイミーの声を聞いた瞬間、俺は反射的にソルを取り出していた。もともと敵があまりにも愚かだった場合、何をしてくるかわからないと警戒していたのもある。
しかし、無傷とはいかなかったようだ。あの伝説では無傷で魔力弾を弾いていたはずだが、恐らく技術力の向上で、銃の威力も上がっているんだろう。
一発毎に少しずつ表皮を削られた。それが何発も直撃したんだから、結構血まみれだ。見た目ほど酷い怪我ではないはずだが。
「皆は無事か?」
「こっちは兄さんがくれたネックレスの結界で守ったッス」
誕生日に贈ったやつか。俺に警告しながら結界も張るなんて、良い仕事してる。
「治しますわ。動かないでください」
「いや、とりあえず後で良い。今はあの連中を片づけて……」
「待ってくれ、ユーリ君」
そう言ってライラが前に出てくる。
「お、おい。危ないぞ」
「君たち! 今、何をしたのかわかっているのかな?」
ライラが特殊部隊相手に呼びかける。何をする気だ?
「我々は命令に従い射撃を行っただけだ!」
「その射撃を行った相手がどういう立場なのかわかっているのかい? と聞いているんだ」
「どういう立場か、だと?」
「ウチが公爵だとかそういうことじゃないよ。宰相、見せてあげてよ」
「ん? ああ、命令書のことか」
宰相が取り出したのは、陛下に書いていただいた命令書だ。一枚の公式文書として、形式も整えてある。
「これは陛下直筆の命令書だ。わかるかな? 君たちは今、反逆罪を犯した、と言っているんだ」
「な……!? ま、待ってくれ! 我々は局長に命令されていたんだ! 局を襲撃しようとしている輩が来るから、合図を出した瞬間に一斉射撃しろと! 相手が誰なのかは確認していなかった!」
いや、仮に襲撃があるとしても、撃つ相手くらい見てから射撃しろよ。
なんだこいつら。流石に愚かというだけでは違和感があるな。
「もし反逆罪で処刑されたくなければ、大人しく銃を下ろし、道を開けるんだ。我々は局長に用がある」
「あ、ああ。わかった」
連中が大人しく道を開ける。
「じゃ、行こう」
騙し討ちを警戒したが、特に何もされることなく、俺たちは昇降機に乗り込んだ。
「大丈夫かい? ゴメンね、ウチが巻き込んだせいでそんな傷を負わせちゃって」
昇降機の中でクラリスの回復魔法を受けていると、ライラに謝られた。
「いや、気にするな。見た目ほど酷くはない。それより、さっきの連中だが」
「うん。あれは局が抱える特殊部隊だよ。ただその実態はね、ウチみたいに何らかの理由で逆らえない人たちで構成された、局長の意のままに動く私兵なんだ」
「そんなもんまで作ってやがったのか! ったく、もっと早く無理矢理にでも突撃しておくべきだったぜ」
「そもそも確実に犯罪があるってわかってなきゃ、命令書なんて書けないでしょ。このタイミングしかないんだ。今なら、例え証拠を隠されたとしても、反逆罪で処刑出来る」
その時、昇降機が止まった。
「な、なんスか!?」
「落ち着いて。予想はしてた。敵が昇降機の動作を止めたんだよ」
「予想はしてたって……。なら何で昇降機を使ったんですの?」
「そりゃもちろん、ウチは性格が悪いからさ」
そう言って、ライラはニヤリと笑った。
「昇降機は止めた。今のうちに証拠を隠して、逃走の準備を……」
忌々しい小娘が。それに王と宰相もじゃ。
なぜ儂が、あんな小僧共に屈さねばならん。儂はこの魔法技術局の局長じゃぞ?
今までどれだけ長い期間、この国に貢献してきたと思っておるんじゃ。
この儂の名が最も偉大なものとして語り継がれるのは当然のこと。その礎となれるのだから、あの小娘も感謝すれば良いのだ。
「魔法技術局局長、モルス! 大人しくしろ!」
「な、なんじゃと!? 早すぎる!」
さっき昇降機を止めたばかり。昇降機の扉を開けて、階段でここまで上ってきたとして、なぜこんなに早い? ここは40階だというのに……。
「ウチがいるのに、昇降機を止めただけで足止めなんて出来る訳ないじゃないか。ただ上昇するだけの足場があれば、ここまで来るのは容易いって言うのに」
「この……小娘がああぁぁぁ!!!」
こいつのせいか! 円盤のようなものを取り出して見せてくる。あれに乗ってここまで来たのか。
忌々しい……! そもそもこんな小娘が儂より高名であることが許せんのに!
「小娘って……。おい、小僧。ウチはあんたが生まれる80年以上前から生きているんだけどね」
「黙れ!! 生きた年月など問題ではないわ! 貴様のような引きこもりと、多くの物を見聞きしてきた儂とでは経験が違うんじゃ!」
この立場に上り詰めるために、儂がどれだけ苦労して知識を集めたか。こんな奴にわかってたまるものか!
こうなれば、この場で撃ち殺して……
「黙るのはお前だ」
「……なんじゃと? なんじゃ貴様は」
「そんなことはどうでも良い。今、引きこもりと馬鹿にしたのか? ライラに対して」
「だったらなんだというんじゃ! そやつは引きこもり以外の何者でもないじゃろうが!」
「お前が閉じ込めていたんだろうがっ!!!」
「っ! だ、だからなんじゃ。儂は魔法技術局局長じゃぞ? ずっとこの国に貢献して」
「ライラはずっと! 貢献したくもないのに貢献させられていたんだ! お前のような奴のせいで!」
150年。俺には想像することすら出来ない。こいつがいつから局長になって、いつからライラに開発を強要していたのかは知らない。
だが、ライラがどれだけ苦しんできたのか。それを考えようともせず、くだらない自己顕示欲でライラを、他の人たちを食い物にしているこいつは……!
「黙れ! 貴様から撃ち殺してくれるわ!!」
「やれるものならやってみろ。お前に食い物にされた人たちの恨みを思い知らせてやる」
ただ処刑するだけでは駄目だ。こいつは全くわかっていない。
理解させなくてはいけない。ライラの苦しみを、悲しみを、恐怖を。




