第100話 王と宰相
「先ずは陛下に一筆したためてもらおう。局長が悪で、ウチらが正義だってね」
結局ライラを助けるためには、局をどうにかしないといけない。
そのためには、立場が高い人間、局長を逮捕し、ライラの首輪が外れたこと、反撃の意思があるということ、危害を加えれば犯罪になることを、局全体に知らしめる必要がある。
これからはライラの自由を奪わない、と約束させなければならない。
そのための、王直筆の書状だ。いくら局の発言力が高くとも、最高権力者が王であることに変わりはない。
王に事情を説明し、魔法技術局局長が犯罪者であることを証明してもらう。
「今から城に行って陛下と話すけど、盗聴器は切っておく。だから、局長にウチの反抗がばれるはずだ。君たちには念のため、ウチの護衛をお願いしたい」
「私たちだけで話しに行けば良いだけではありませんの?」
「流石に今日会ったばかりの君たちの言葉で局長を逮捕しようと動けるほど、王の立場は軽くないよ」
それで局長を逮捕しようと動くようなら、別件でとっくに誰かが訴えてそうだしな。
発言力が高いってことは、そう簡単に捕まえられないってことでもある。重大な犯罪でなければ、局に追従する貴族たちから反発されるからだ。
そう考えると不安もあるな。
「ライラを無理矢理使い潰そうとしているのは確かに悪だが、それを貴族たちが納得するのか? 貴族たちの反発を恐れて王が助けてくれない可能性もあるんじゃないか?」
「それは問題ない。ウチはこれでも公爵なんだ」
「公爵!?」
貴族の最上位じゃないか。ライラから全くそんな感じはしないのに。
「公爵って、ライラさんが王の親類ってことはありませんわよね?」
「ウチは昔から功績を重ね続けているからね。それこそ、王子に求婚されるくらいには、王族と近しいんだ。公爵位は王が特別に重用する貴族に与えられることもあるんだよ」
「公爵に手を出したから逮捕するって言えば、貴族も反発は出来ない訳だな」
「そういうこと。問題があるとすれば、局の発言力が落ちることかな。正常な状態になると言えばそうだけど、間違いなく魔法道具開発の進歩は遅くなる」
「そんなことで躊躇うな、と言いたいが、国のことを第一に考えるべき王としては、魔法道具開発の進歩を優先すべきなのか……」
「いえ、貴族を見捨てる行為は他の貴族からの信頼をなくしますわ。そこを強調して話せば協力してもらえるはずです」
なるほど。結局は王の考え方次第ってことか。というか、
「アクアには貴族制度がないのに、ずいぶん詳しいな」
「……一応政治能力を教育する学校に通っていたんですけど。私のこと馬鹿だと思ってません?」
「いや、頭良いと思ってるぞ」
「なら良いですけど」
「要するに、王様に話して局長を逮捕すれば良いってことッスよね?」
「ま、簡単に言えばそうだね。陛下が協力してくれさえすれば、何も問題はないはずだよ」
ライラがいれば簡単に城に入ることが出来る。早速城内に入った俺たちは、謁見の間ではなく、小さめの会議室に通された。
どこに局の耳があるかわからない。ライラの反抗はばれているにしても、具体的な動きを知られたくはない。あまり多くの人間がいるところでは話せない。
この会議室にいるのは、俺たち4人と陛下と宰相の計6人だ。
バーダルド・リーズトルスト王は30歳ほどの緑髪の男性だ。王にしては若い印象だな。そういえば、謁見の際にいた王子たちもまだ10歳くらいに見えたな。
宰相ガルジュ・ヴィードは、緑髪で何と言うか、戦士って感じの人だ。190センチはありそうな筋肉質な肉体は、それだけで強そうに見える。年齢は多分陛下と同じくらいか。
ライラの口から直接、経緯が説明された。
「……話はわかった。長年の付き合いだ、嘘はないだろうとも思う。だが……」
「おい、バード。確かに長年公爵を害してたってのは重大な事件だが、証拠もなしに部隊は動かせんぞ」
「陛下と呼べ、馬鹿者が。わかっておるわ。だから考えておるんだろうが」
魔法道具開発が遅くなることなんて全く気にしていないように見える。ライラの信頼が大きいのかな。いや、局の発言力を削いで国を正常な状態にしたい思いが強いのかもしれない。
というか、ずいぶん気安い関係なんだな。昔からの友人とかそんな関係だろうか。
「この2人はいわゆる幼馴染ってやつだよ。昔から仲が良いんだ」
「誰が仲が良いって? ただの腐れ縁だ。まったく、なぜこんな筋肉ダルマが宰相なんぞに……」
「うるせぇな。てめーがヒョロいんだよ」
「誰がヒョロいか。貴様がデカイのだ、脳筋め。宰相なら少しは頭を使わんか」
なるほど。確かに仲が良い。でも、喧嘩してないでこれからどうするのかを決めて欲しい。
「ふん、簡単だ。部隊が動かせないんだから、俺が行けば良いだろうが」
「ああ? 貴様1人で局に向かう気か?」
「俺1人なら視察だとかそれっぽい理由で入れるだろ。で、証拠を見つけてとっ捕まえりゃ良い」
「それが出来ないから今まで野放しになっていたんだろうが、脳筋ダルマ」
「ああ? 何で出来ねーんだ」
「お前は……。局に追従する貴族は山ほどいる。そいつらが局は問題ないと言っているんだ。それなのに視察なんかしたら、信用してないのかと反発されるだろう」
「いや、公爵に手を出したんだから、貴族は抑えられるでしょ?」
「そういう問題ではないのだ。連中は自分が問題ないと言っていることを覆されることに反発してくる。公爵に手を出したうんぬん以前のところに文句をつけてくるのだ。局が不正をしているのを何とか隠そうとするからな」
「そんなの知るか! 実際に局は犯罪行為をしてるんだ。だったら入っちまえば証拠は出てくる。今までは確実じゃなかったから入れなかったんだろうが。これで反発してくる貴族なんざ、全員爵位を剥奪してやれ!」
物凄い豪快な人だな……。こちらとしてはありがたいが、それで国は大丈夫なんだろうか。
「ふむ……。悪くないかもしれん」
陛下まで乗り気になっている。いや、それは流石に……
「よろしいのですか、陛下。そのようなことをすれば、どれだけの貴族がいなくなるかわかりません。国が混乱するのでは」
「ユーリ、そう素直に考えては国は動かせぬ。良いか? まず、局に追従する貴族というのは、あまり性格がよろしくない者が多い。局の不正を見逃し、局が儲けた金をすすろうという奴らなのだから、道理だな」
「ええ、それは理解出来ますが……」
「つまり、局の不正が暴かれるという段階になれば、離れる者が多いのだ。今までは甘い汁をすすらせて貰っていたのに、本当に大変になったら逃げる。そんな連中なのだよ」
局の不正を暴くことが出来れば、反発してくる貴族はそこまで多くはないってことか。なるほどな。
「それだけじゃないよ。その段階になっても局から離れない貴族っていうのは、要するに離れることが出来ない連中だ。それはつまり、一緒になって不正をしていた奴らさ」
「なるほど。局の不正を暴き、そういう本当に爵位を剥奪すべき者からは爵位を剥奪も出来る、そして局の発言力が落ち国が正常になる。素晴らしいですわね。最高の結果を導くことが出来ますわ」
「反対が出るだろう事実を無視して強行突破なんて、思いつかなかったよ」
「おうよ! どうだ、俺が正しいだろう?」
「貴様はそこまで考えて発言していないだろうが。むしゃくしゃするから突撃だ! などという脳筋作戦が奇跡的に一石二鳥の完璧な作戦になったからと言って、調子にのるな、たわけが」
辛辣だなぁ。これでずっと仲良くここまで来ているんだから、宰相もこう見えて温厚なのかもしれない。
「じゃあ陛下。協力してくれるんだね?」
「ああ、こうなればとことん追い詰めてやる。魔法技術局の視察を行うという命令書を作ろう。王の命令で動いていることを示せば、迂闊に反抗もしてこないだろう」
王の命令である視察を拒否すれば、それは反逆罪だ。その時点で明確な局の落ち度。この状況になった時点で、こちらの勝ちと言って良い。
ライラの件だけじゃない。恐らく他にも犯罪まがいのことや、紛れもない犯罪行為があるはずだ。
そうでなければ、おかしいんだ。だって、いくら苦労して作った技術が国中にばら撒かれるからと言って、誰一人道具開発を行わないなんてあり得ないんだから。
それなのに、もうずっと国に道具の提出がない。きっと裏で、局からの圧力に屈したんだと考えられる。
それらを、全て白日の下に晒す。
「よし、行くぞお前ら!」
「命令書が出来るまで待たんか!」
……大丈夫だよな?
もしかしたらわかりにくいかもしれないので、あまり良くないですが、後書きで解説を。
ライラは助けを求めるのを非常に躊躇っていました。こんなにあっさり解決するなら、あんなに悩まなくても良くない? と思われるかもしれません。
しかし、本来はライラが悪性魔力に耐えられるようになるなんてあり得ないんです。当然、ライラは自分が悪性魔力に耐えられない前提で話します。
その場合、助けるために動く人はライラと無関係を装わなくてはいけません。ライラの関与がばれた瞬間、局長にブローチの動作を止められてしまいますからね。
そうなると、王や宰相の協力は得られません。何の後ろ楯もなく局に喧嘩を売ることになります。つまり、局の不正を暴かなければ、ライラを助けようとする人はただの犯罪者になってしまうんです。
更に局には、最新の装備で武装した部隊があります。それと戦っている間に、局長が貴族に助けを求めたりすれば、誇張でなく国と喧嘩することになります。
つまりライラは、そんな無茶な戦いを、嫌々ではなく、正義のためならと喜んで突撃するような異常者以外に、助けを求める気はなかったんです。
もちろん絶対に正面から戦わなくてはいけないという訳ではないので、暗殺したりする方法もありますが、何事も最悪を想定するのは基本ですからね。




