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貫き通せ我が騎士道  作者: 神木ユウ
第3章 清風国ウィンド
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第99話 人工妖精ライラ・メルダ

 この国、清風国ウィンドは昔から魔法道具開発に力を入れてきた。でも、以前は現在ほど飛びぬけた技術力はなかったんだよ。

 それが変わったのは、今から200年以上も前のこと。そう、



 魔法技術局が、人工的に妖精を作ろう、という研究を始めたんだ。



 妖精というのは自然の魔力から生まれる、体が魔力で出来た生命体だ。

 魔力なら人間にだって流れている。だったら、人間の魔力からでも妖精が生み出せるのではないか。

 自然の妖精なんてほとんどいないから研究は困難を極めた。自然の魔力を採取して、環境を整えて、少しずつ研究を進めていたんだ。



 その研究で完成したのがウチって訳だね。



 ただ、その研究はウチを生み出して終了になった。

 何故かと言えば、ウチが生まれる瞬間に周囲にいた人間たちから根こそぎ魔力を吸い取って殺してしまったから。

 人が自分の意思では使用できない、奥深くの生命に関わる部分まで含めて、全て吸い尽くしてしまったんだ。

 もちろんウチの意思じゃないよ。そこまで吸ってようやくウチという生命が生まれるほどに至ったんだ。



 さて、そもそもこの研究は何の目的で行われたか。もちろん魔法道具開発を進めるためだ。

 自然の魔力から生まれる妖精は、自然に強い親和性を示す。だったら、人の魔力から作られた妖精は、人工物、魔法道具のスペシャリストとして生まれてくるのではないか、という予想がされた訳さ。


 それは大当たりだった。ウチは魔法道具開発に尋常じゃない適正を示した。


 具体的には、現在当たり前のように使用されている魔力送受信技術。あれは全てウチが生み出したものだ。

 魔力通信やテレビといったものは、ウチなくして生まれなかったってこと。いや、もしかしたらその内天才が生まれて開発したかもしれないけれどね。



 その功績で魔法技術局はどんどん発言力を増していった。何せ国のあり方が変わるほどの大発明だからね。

 いつしか国は、魔法技術局が発明したものに合わせて政策を考えるようになった。

 現在のこの国の法は、とても魔法技術局に都合が良い物になっているんだよ。


 一つ例を出すなら、魔法技術局のみ道具開発独占を許可する法、なんてものがある。

 生み出した魔法道具は必ず国に提出する義務があるんだけど、魔法技術局だけはその義務がない。

 だからこの国で魔法道具開発をしようなんて考える輩はいないんだ。苦労して作っても、その技術が国中に公開されてしまうから。局以外はね。

 魔法道具関係の利益は必ず全て局に入ってくる。なんとも局に都合が良い法さ。



 こうなってくると、魔法技術局はウチを絶対に手放したくない。

 今では全体の技術力も向上してかなり開発が進められるようになったけれど、それでもウチが優れた開発者であることに変わりはないからね。


 少し話は変わるけど、妖精ってとても悪性魔力に弱いって知ってるかい?

 この世界に漂う少量の悪性魔力でもそれなりに影響を受けてしまうんだ。

 悪性魔力が噴き出す場所に近づかなければなんとか正気で生きてはいられるけれど、この世界が生きにくいことに変わりはない。

 だからウチは、生まれた時からずっと悪性魔力を防ぐ道具を使っている。ほら、このブローチがそうだよ。



 これのオンオフを操作するスイッチはね、局長が管理しているんだ。



 自分で似た道具を作ろうにも、ウチは悪性魔力に触れられないから、悪性魔力関連の道具は作れない。

 だからウチは局の奴隷同然なんだ。ひたすら道具開発をするように命令されてる。

 でも、実はさ、道具開発って膨大な魔力を使うんだ。何度も検証と失敗を繰り返してようやく完成するものだからね。

 その上、局の職員は魔力量に応じて、国中に魔力を送るためのタンクに魔力を入れる仕事がある。

 ウチはかなり魔力量が多いから、この仕事で課されるノルマも多いんだ。



 で、ウチは妖精だから……あまり多くの魔力を使うと、消えてしまうんだよ。

 正直、最近はかなりキツイ。毎日ひたすら開発してるからね。



 今の局長はかなり強欲な奴でね。自分が局長の間に少しでも多くの成果を上げて、自分の名を知らしめようと考えてるんだ。

 だから、ウチが消えても構わないと思っている。今後の発展より、自分の名を上げることを考える愚か者なんだ。

 スイッチを奪おうとしたり何か反抗すれば、すぐにでもブローチのスイッチをオフにしてくるだろう。




「という訳で、ウチは今なかなか大変なことになっている。でも、ウチを助けようと思ったら、局に逆らわないといけない。それはこの国に喧嘩を売るも同然だ。だから、放っておいてくれて構わない。ウチは嫌な奴だろう? 命を懸けてまで助ける価値はないよ」


 確かに、魔法技術局局長に反抗するというのは、この国に逆らうことなのかもしれない。でも、


「悪性魔力に弱いという問題点は今すぐ解決出来る」


「へ……?」


 ヴィラを抜く。適応剣の能力が悪性魔力にまで適応できるというのは確認済みだ。恐らくこれで問題ないはず。


「この剣は適応剣ヴァイラデント。あらゆる環境に適応することが出来る剣だ。その能力で、悪性魔力に適応することが可能だ」


「そ、そんな都合が良い物がある訳……」


「まあ試してみろって」


 ヴィラを渡して、能力を使うように促す。


「これで……何か変わったのかな? いまいち変化を感じないけれど」


「これを取ってみれば良いッス」


「あっ!? ちょっと!?」


 エイミーがライラからブローチを取り上げる。ちゃんと悪性魔力に適応できていれば、問題ないはず。


「……なんともない。え、こんなにあっさり……?」


「これで自由になれるか?」


「……いや、悪性魔力は平気になったけど、逃げられないよ。今度は武器を使って脅してくるだけさ。局には最新の装備を持たせた特殊部隊がある。そうでなくても、局の一声で罪をでっち上げられて犯罪者にされたりとかね。流石にそう簡単にでっち上げられたりはしないはずだけれど、そう怪しい行動は出来ない」


 罪をでっち上げられるほどなのか。流石に何もしていない人を犯罪者に仕立て上げられるほどではないと信じたいが、逆に言えば何かすれば簡単に犯罪者になってしまう。

 例えば、逃げ出す、とか。奴はこんな罪を犯した! だから逃げ出したのだ! という言が簡単に信じられてしまうんだろう。

 しかしだからと言って、このまま放置すれば遠からず、ライラは消えてしまう。ずっと局に縛り付けられていたのに、最期が酷使された上での消滅なんて、あまりにも救いがない。


 どうにかできないか……。



「陛下に頼めば……もしかして……」



「どういうことだ?」


「そもそもなんだけど、局と王族は別に仲が良い訳じゃない。局の発言力が高まり過ぎて上下が逆転しているだけで、王族だって自分たちで国の舵取りをしたいとは思っているんだよ」


 王族が望んで局の道具開発に合わせて国を動かしている訳ではないんだな。

 ということは、何か明確に局に落ち度があれば、そこを突いて発言力を落とすことも出来るのか。


「で、ウチ個人は王族と仲が良いんだ。もうかなり昔のことになるけれど、当時の王子に求婚されたことがあってね。断ったんだけど、それを知った当時の局長が、好意を利用して更に有利な法を作らせられないか画策したことがあって」


「え……それで法が出来てしまったんですの……?」


「いやいや、流石に無理だよ。そこまで私情で法はできない。でも、その時のこともあって、局も城に行く分には結構あっさり許可をくれるんだ。気分転換にしょっちゅう城に遊びに行ってるから、王族と仲が良いって訳」


「だったら最初から王族に助けて欲しいってお願いすれば良かったんじゃないッスか?」


「城に行く許可がもらえるとは言ったけど、流石に自由って訳じゃないんだよ。外では常に盗聴されながら活動してるんだ。局にいる時は盗聴器をオフにしても許される」


「それ……この部屋も別の方法で盗聴されていると考えるべきではありませんの?」


「それはないよ。ウチを甘く見てもらっちゃ困る。ウチに気づかれずに盗聴器を仕掛けるなんて絶対に不可能だよ。だから、盗聴器は外にいる時だけオンにすれば良いなんて妥協を引き出せるのさ」


 なるほど。今までは王族に助けを求めれば、すぐにばれてブローチをオフにされる状態だったんだな。局長をどうにか出来ても、結局悪性魔力で正気を失っては意味がない。


「今までは迂闊なことをすればすぐに悪性魔力に晒される状態だった。でも今ならそんなことを恐れる必要はない」


「……国と局で戦争でもする気か?」


「いやいや、そうじゃない。もっと穏便にやるよ。君たちにも協力して欲しいんだけれど……駄目かな?」


 そう言って不安そうに見上げてくる姿は、本当に幼い女の子にしか見えない。これは素でやっているんだろうか。

 そんなに不安そうにしなくても、最初から言ってるはずなんだがな。



「絶対助ける。そう言った」



「……うん、ありがとう。やっぱり君は英雄だね」


 そう言って笑った彼女の顔は、今までの偽悪的な表情ではなく、心の底からあふれ出すような、とても可憐な笑顔だった。

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