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今回もR-15的表現があります。お気を付けください。
リサは唖然としています。理解はしました。そして理解したからこそ唖然としてしまいました。言ってることは、正しいです。ですが、なんでしょう。この世界の常識が少し怖いです。自分のいた世界との常識のギャップに唖然としてしまいます。ですが、ここまできたなら、最後まで聞かなくてはです。理解しましたと宰相に目でつげ、続きを促します。
「わが国の離婚と結婚についてご理解いただけたようなので、何故、あなたに今晩陛下と一夜を共にしてほしいと私どもが言ったのかの説明をしたいと思います。まぁ、今までの流れからわかっていただけた通り、離婚という話にまずなって頂きたくないが私たちの前提にあります。民の模範となるべき王族が国で減少している問題を起こすなどあってはならないのです。それに、元来王族というのは個人的な思考云々で行動できないという事情もあります。
そしてもうひとつお世継ぎ問題があります。そもそも私たちが血眼になって陛下の縁談相手を探したのもこのお世継ぎ問題が根底にあったからです。このままでいきますと、陛下は一生独身か、はたまた体だけの関係の女を作りお世継ぎだけを手に入れるという、なんとも最低な野郎になってしまう可能性がありました。まぁそれはリサ様のおかげで解消いたしましたが。
それでですね、陛下とリサ様が一緒になるにあって、早くにお世継ぎがほしいという意見がでてくるのです。しばらくは新婚生活を満喫したいとか二人っきりでしばらくいたいわとかの意見は1年位なら大目に見ましょう。ですが、やはりやることはやっていただきたいのですよ。後から「見た目は好みだけど体の相性は悪いなー。子供作る気になんねー」などのセリフはききたくないんです。それならばいっそ「顔は好みじゃないけど、体はいいなー。子供作って後は放置だな」の方が王族の考えて的にはいいのです。どんなに陛下が最低野郎になったとしても国の、王家の繁栄の為には正解なのです。
よって、今回陛下好みの見た目のあなたに体まで陛下の好みかどうかを見極められてほしいのです。ですからさっそく今夜から陛下の夜枷の相手となっていただきたいのです」
凄い理由でした。ただ単に意地悪とか宰相の変態趣味の為ってわけではなかったみたいです。王族というか、王家にとっては中々真っ当な話でしたね。だがしかし、一般市民でしかも日本から来たリサが許容できる話では全くもってありませんね、これは。まぁ知るかって感じですよね。そっちの事情にこっちを巻き込むなと言いたくなります。さぁリサはどうするんでしょうか。
「お話しは納得したかは置いておいて、一応わかりました。でも、その、一夜を共にする前に、一度お会いするとかはできないんですか?少し話したりとか、そのどんな人なのか見極める期間が私にもほしいといいますか・・」
「それは残念ながら、できかねません」
「えっ、どうしてですか・・?」
「それは・・・・・陛下がリサ様に惚れてしまう可能性が大きいからです・・」
「はぁ?」
言っている意味が分からないです。なぜ惚れてしまうのがダメなんでしょうか。結婚させたい二人なんですから、惚れさせた方が順調にことが進みそうな気がします。宰相の言っている意味が全くもって全然理解できないです。
「いえ、ですから、事前にお会いしてしまうと陛下がリサ様に惚れてしまう危険性があるのです。ですから、事前に会わせることはできません」
「だから、言っている意味がわかんないんですけど。結婚させたいなら惚れさせた方がいいのでは、ないんでしょうか?」
「いえ、確かに惚れさせた方が結婚にはいいのかも知れませんが、もし事前にお二人が会って、陛下だけがリサ様に惚れたらどうなると思います?リサ様の方は全く陛下に心動かされなかったとします。そうしますと、まずリサ様は陛下との夜伽は拒否なさるでしょう。そしてこの王宮にいる意味もないのでそうそうと下町に帰りたくなることでしょう。そうしますとどうなります。陛下は一応英才教育を受けた紳士でございます。人の目もあることです。貴方様の願いを無下になさるお人ではございません。きっと貴方の願いを聞き入れ下町にそっと帰してくれることでしょう。そして王宮に残った陛下は貴方様への思いを募らせ、他の女性を妃に娶られることなく、生涯独身をつらくのです。とまあこんな感じの想像をわたくし達はしてしまうのです。だから陛下があなたに惚れることを拒否しなくてはならないのです」
・・・・重い理由でした。若干陛下のいい人エピソードが入っていた感じはありましたが、なんとも重い話でした。そしてとっても責任重大な気がどんどんしてきました。思えば、とんでもなく軽い感じで馬車に乗って来てしまいましたね。やり直せるならやり直させてあげたいと思いますね。ですが現実はゲームのように甘くはないのです。
「理由は、はい、わかりました・・。でも、夜陛下と会っても結局同じじゃないんですか?あたしが陛下を好きになれなきゃ、どっちみち下町に帰ることになるんじゃ・・・・」
「いえいえ、何をおしゃっていますか、リサ様。陛下と一夜を共にしたお方ですよ。おいそれと我々が逃がすわけないじゃないですか。もしかしたらその体には、もうすでにお世継ぎがやどっている可能性があるんですよ。下町なんて危ない場所に帰すわけないじゃないですか」
「お世継ぎって!?な、なに言ってるんですか。そんなお世継ぎが出来るようなことなんて一切なかったかも知れないのに!」
「そうですねぇ。ですが、それは誰が証明できるんですか?寝所のことは誰が何と言おうと外側から見たことが事実となります。だって、中、内側のことは当人同士しか把握できないのですから。それこそ、第三者の目は一切ありません。我々臣下が信じることは外側のこと。即ち、陛下とリサ様が一緒の部屋でお休みになられたこと。朝まで二人とも出てこなかったこと。それが我々の認識になるのです。たとえ中で二人が喧嘩してようと、仲良くトランプやっていようと、ベッドとソファーで寝ていようと、大人な世界の感じになっていようと我々が思うことはただ一つ。一夜を共に過ごした、即ち陛下の奥方候補であるということです」
あまりの言い分に返す言葉が見つからなくなりました。さすがです。やっぱり腹黒宰相だったんですね。考えも丸め込み方も最強です。もはや、リサを逃す気はゼロですね、こりゃ。うまいこと、優しいことを沢山述べていましたけど、事実は一つですね。別に本当に相手を今日しろとは言わない。ただ既成事実だけは作れ。そういうことですね。やっぱ宰相只者ではありません。