第二ステージ
残り四人。
通路は、足元だけ青いライトで照らされている。
「誰が……こんなこと」
もう一人のセミロングが呟いた。
「映画マニアの殺人鬼じゃないの? "やぁ、ゲームをしよう"とかの。豚のマスクとか、人形とか使ってさ」
「『ソウ』? ま、デスゲームじゃそれが一番有名だな」
ハーフアップとポニーテールがそれに返す。回復の早いことで羨ましい。
「でも、目的が」
私の疑問を、ポニーテールが握り潰した。
「映画や漫画みたいに、大層な御題目があるわけねえよ。こんなのあたしらが死ぬとこ、怯えて泣き喚くとこ、そういうの監視して愉しんでんだよ。変態のお遊びだよ、糞が」
ポニーテールは壁の一部を蹴り飛ばそうとして、やめた。
「壁に仕掛けがあるかも知れねえな」
そうして歩いていると、今度は緑一色の部屋に出た。
四面の壁に、同じ絵が掛かっている。その上にデジタルタイマー。
『一人一つ選べ。脱落者一名。ゲームスタート』
タイマーが作動した。残り八分。
「全部同じ……何よ、運ゲーってこと!? さっきも順番だけじゃん!!」
ハーフアップが怒鳴る。
だが、そんなもんだろう。こんな不条理な状況で、ゲームだけが論理的なわけが……。
壁に近づく。
額の下にあるのは、番号が記された札だった。
「"19990420"」
「え……と、"20110722"」
「こっちは、"19660801"」
「"19380521"……日付、かな」
日付……何かの記念日?
残り七分二十秒。
「一つ……一日だけ、二十一世紀よね」
そうだ、"20110722"。
だが、脱落者が一人なら──。
「……どうせわからないでしょ? 調べようにも何もないし」
「いや」
ポニーテールが、険しい顔で言う。
「わかる……あたし、わかるぞ」
一同がポニーテールに注目する。
残り六分三十二秒。
「"19990420"……一九九九年四月二十日、これはアメリカ、コロンバイン高校で二人の生徒が銃を乱射して……犯人含めて十六人が死んだ日だ」
何……それ。
「ポニテ、あんた何でそんな……」
「聞け。"19380521"は日本だ。岡山県で起きた"津山三十人殺し"。"19660801"はアメリカ、"テキサスタワー乱射事件"。"20110722"はノルウェーで大規模なテロが起きた日だ……全部マス・マーダーが起きた日だ、畜生が」
「で、どこで仕入れたのよ? そんな知識。キモいんだけど」
ハーフアップがポニーテールを見る目が、氷のように冷たい。
残り五分四十秒。
「全部映画なんだ。『ボウリング・フォー・コロンバイン』、『八つ墓村』、『ウトヤ島、7月22日』……テキサスタワーの事件については、もう何本も撮られてんだ」
語る目が、まるで記録を読み上げるキャスターのようで、逆に恐怖を覚えた。
「あ……あ、そう。で、そっち系のポニテ様の見立ては?」
「一番犠牲者が出たのは……ノルウェーの事件だ」
ハーフアップは、"19380521"の前に立った。
「脱落者……一人なんでしょ」
「てめえ、マジで糞だな」
ポニーテールは、"19660801"。
私は"19990420"。
もう一人のセミロングは、"20110722"を選ぶしかなかった。否、彼女のは選択ですらなかった。
「なんとでも言えばいいわ」
残り三分。
「なあ」
ポニーテールが口を開く。いつの間にか、彼女が実質リーダーになっていた。
「ここに来る前、あたしらどこにいた?」
そうだ。私は、彼女たちに見覚えがない。
そもそも、ブレザーなんて着ているが、私達は本物の女子高生なのか?
記憶が霧の中で、何故かどうでもいい知識の断片が飛び交っている。
「わかんない……わかんないよう……」
もう一人のセミロングが、恐怖に膝を屈しかける。
残り一分三十秒。
「わからないのは、皆一緒。薬か何かじゃないですか?」
「……だな」
「でも、今はとにかく、生き延びる。生き延びることだけ考えましょうよ」
私は、セミロングに向けてのつもりで言った。
残り一分。
セミロングの、崩れかけの呼吸が響く。
残り三十秒。
「やだああああ!! 死にたくない!! 死にたくないいいいっ!! いやああ」
耳をつんざく轟音。
吹き飛んだのは……ハーフアップの上半身だった。
胴から下だけになったハーフアップ、彼女を吹き飛ばした物の正体は、壁が開いた先にあった。
私の脳内で、一つの単語が浮かぶ。
──|アンチマテリアルライフル《対物ライフル》。
なんで……どうしてこんなこと知ってんの? 私。
三人になった私達は、先へ進んだ。
ハーフアップの遺体を置き去りにするのに、彼女の振る舞いを考えても罪悪感が湧いた。




