後編
同じ教室でお菓子作りを習っている人たちは皆とても温かい人なので、歴の浅い私が受賞しても冷ややかな目を向けてくることはなく、むしろ純粋な視線を向けながらお祝いの言葉を贈ってくれた。
「こんなすごい人と一緒に習えているだなんて、嬉しいわ。これからも頑張ってね。同じ教室に通っている人間として、いつまでも応援しているから。どんなことがあったとしても、ずっと味方よ」
「前、味見し合った時、アリスさんのものはとても美味しかったでごわす」
「これからもサァ! ずーっと、よろしくナァ! 親友にはなれなくても、遠くから見守ってっからサァ! てことで、応援させてくレェイ!」
お菓子作りという新たなる舞台を見つけた私は、その道を極めるべく、歩み出すこととなったのだった。
◆
あれから十年ほどお菓子作りの世界で生き続けていたのだが、とあるイベントで知り合った裕福な青年に想いを伝えられて婚約し、先日ついに正式に結ばれた。
結婚式用に作ったケーキも大好評だった。
最後は参加してくれた人たちに配ったのだけれど、好評意見がたくさん集まり、勇気を貰うことができた。
そして、夫となった彼カールスも、美味しいと言って食べてくれた。
「アリスさんにはこれからもお菓子作りの道を歩んでほしいんだ」
「ありがとう、理解を示してくれて」
「貴女が好きなだけその道を突き進めるよう協力するからさ。必要なサポートがあったら何でも言ってね」
かつての婚約者ディヴェールオンは私のことを『パッとしない』だとか『すべてにおいて並』だとか言っていた。
当時それは事実だった。
あの頃の私は、何か特技を持っていたわけでもないし、どこにでもいるようなただひたすらに平凡な普通の女でしかなかったから。
でも、今はもう違う。
お菓子作りという道に出会い、その道を真っ直ぐに突き進んだ結果、称賛を浴びられる居場所を手に入れた。
それはつまり、生まれ変わったようなものだ。
行くべき道を見つけられたために、人生が拓け、取り巻くすべてのものが大きく変わった。
「でもねカールス、もし言いたいことがあったら遠慮はしないで」
「どういうこと?」
「私のために、って思って、自分の思いを呑み込むようなことはしてほしくないの。私たちは夫婦で対等な関係なのだから。言いたいことは言い合える、そんな関係でいたいの」
「分かったよ。言いたいことは言うようにするね。アリスさんも、言いたいことがあれば何でも言って。心を隠し合うような関係には僕もなりたくないし」
そして、その果てで、結婚という幸福までも手に入れることができた。
「じゃあ早速……これからも、いつまでも、アリスさんが作った美味しいお菓子が食べたいな!」
「それ、いつも言っているわね……」
「駄目かな?」
「いいえ。食べたいって言ってもらえるのは嬉しいことよ、感謝しているわ」
「これから先もアリスさんのいろんなお菓子に出会えると思ったら、ワクワクするなぁ。本当に。すごく夢があるんだ、アリスさんのお菓子の世界って」
どんな時も温かく見守り寄り添ってくれるカールスには感謝している。だからこそ、これからも、たくさんの美味しいを味わってほしい。私が彼のためにできることなんてそのくらいしかないから。
楽しさと美味しさが花開く世界を堪能してほしい。
だから私は世のためだけでなく彼のためにもお菓子を作るつもりだ。
大切な人の笑顔が見たいから……。
ちなみに元婚約者のディヴェールオンはというと、私との婚約を破棄した後に職場で知り合った年下女性からアプローチされ、なんとなく流されてしまい、そのまま結婚するに至ったそうだ。
結婚後は毎月のようにお金のかかる旅行を企画することを強制されていて、それに使うお金は全額ディヴェールオンもちだということで、ディヴェールオンは年中金欠になってしまっているらしい。
また、どうしようもなくなって「お金がないから今月は旅行は無理」と言うと暴言を吐かれたうえ多数の嫌がらせを受ける、といったような、かなり理不尽な状況に陥ってしまっているのだとか。
人格否定の言葉を息をするように吐かれ続けてきたディヴェールオンは、徐々に心を病んでいっており、近頃は自室から出られない体調の日も増えてしまっていて――それによって奥さんはさらに怒り――彼の家庭はどうしようもない状態になってしまっているそうだ。
◆終わり◆




