前編
「いつも思うが、君はパッとしないな」
婚約者ディヴェールオンは私を自宅へ呼び出すと平然とそんな言葉を投げつけてくる――そして。
「ということで、決めた。君との婚約は破棄とする! 呆れるくらい有意義でないこの関係、もうおしまいにしよう」
関係の終わり、築いてきたものの終焉を、宣言してきた。
「アリス、君は並な女だろう。すべてにおいて。そういう女と結婚し生涯を共にするなど絶対に無理だ」
「本気で……仰っている、のですね」
「ああ。絶世の美女でなく、特別な加護を受けた聖女であるわけでもなく、奉仕の精神がずば抜けているわけでもない、そんな君と生涯を共にする理由は俺にはない」
「そうですか……何を言っても、無駄なのですね」
「もちろん。我が心は既に決まっている。誰も、何も、俺の決定を覆すことなどできはしない」
そうした言葉を発する時、ディヴェールオンの表情は冷たさに支配されきったものであった。氷で作られた剣の先を突き付けるかのような視線、感情など一切見せることのない顔つき、そのすべてが冷ややかさに染まりきっている。
ああそうか、もう、戻れはしないのか……。
彼の目つき。
彼の表情。
一瞬でも見ればすぐにそう察してしまえるほど。
その時の彼は私への愛など欠片ほども抱いていないようだった。
「ではな、アリス。……さらばだ」
深い愛などなくても、形だけの関係だとしても、共に歩む道を選ぶことはできただろう。けれども彼はそれを選ばなかった。想いのない相手と結婚するという選択をしない彼は、ある意味では、誠実な人だったのかもしれない。
だが、それでも、できるなら共に行く道を模索してほしかった。
運命の導きによってこうして巡り会えたのだから、ぎりぎりまで、共に行ける方法を見つけようとしてほしかった。
……でも、無理なんだ、そんなことは。
いきなりの婚約破棄は悲しいけれど、いつまでもその悲しみに縛られていてはいけない。
終わってしまったものは終わってしまったものなのだから、どうにもできない――ならば、私は私で、自分の道を歩み出さなければ。
こうして、ディヴェールオンとの婚約は破棄となったのだった。
◆
婚約破棄された直後から、お菓子作り教室へ通うようになった。
悲しい思いを抱えて家でじっとしていると憂鬱になってしまう。用事がないと心はどこまでも沈んでいってしまいそうで。なので、何か新しいことに挑戦してみようと考えて、たまたま近所にあった教室に入れてもらったのだった。
そこで、私は、思わぬ成功の道を歩み出す。
教室に通うようになって半年も経たないうちに先生から評価され、お菓子作りの大会に作品を出すように勧められた。で、初めて参加した大会にて、最優秀賞を受賞することとなる。色々経験してみよう、と、軽い気持ちで参加したのだけれど、まさかの高評価。その出来事によって、先生からの高い評価に間違いはなかったのだと気づくことができた。これからも通ってほしいから持ち上げているというわけではなかったのだと理解することができた。
「アリスちゃん、最優秀賞おめでとう~」
「すっごいよね! 尊敬する! あたしなんてさぁ、十年くらい通ってるのに大会になんて参加したことないし。レベルが違うね!」




