聖女と同じ魔法を使う大悪魔
「ところでマレフィクスさん」
「先ほどナビエ伯爵とフェルナン兄さまに使った魔法ですが……」
「セイウスではないのですか?」
そう。
マレフィクスはナビエとフェルナンに自身の意に反する行為を行った場合死ぬ魔法をかけた。
まさにマレフィクスがフランシーヌに受けた呪いセイウスそのもの。
だが、その時、マレフィクスはその魔法を口にしなかったため、同じものなのかはわからなかった。
「どうなのですか?」
「我々悪魔が使う魔法にも同類のものはある。セクゥエーレというものだ。だが、それは一時的なもので永続的な効果はない」
「では……」
「いや。あれはフランシーヌの言うとおりセイウスに近い。と言っても、そのものではない」
「私、いや俺は大悪魔。受けた魔法の再現できる。私の場合、その八割。これはシミレというもので魔法というより能力といえるもの。そして、先ほどふたりにはそれを使った。インエペリウムという名を与えて」
「ですが、先ほどは別の名を……」
「アクス・ユーラーレ。あれは通常尋問に使うもので効果時間はわずか。だが、私は偶然セイウスを手に入れた。そこにインエペリウムの効果も付与した。それによって効果は人間の寿命程度なら十分に永遠といえるくらいの効果が与えられた」
フランシーヌは正統的な魔術師ではないので魔法に詳しいわけではない。
だが、知っている。
複数の魔法を同時発動させることがどれだけの技量がいるのかを。
ひとつめの魔法を発動させ、それを維持ししたまま、次の魔法を発動させる。
それがその手順。
だが、目の前の魔法はひとつの魔法に他の魔法を付与という形であっさりとそれをやってのけた。
おそらく、これは人間の魔術師の誰も辿り着いていない至高の技。
「付与という技があるのですか。ちなみに、マレフィクスさんはどれくらいの魔法を重ねて使えるのですか?」
「さあな。限界がどれくらいなど試したことはないのでわからない。だが、これまでおこなったのは三つ、いや、四つだったか。そういくつも付与させなければならないものなどないから。まあ、同時に展開させたということならさらに多い場合もあるのだが」
「つまり、魔法の同時発動はいくつかでも可能なのですか?」
「制限があって困ったことはない。ちなみに、今も魔法を使用している」
「そうなのですか?」
「ああ。聞き耳を立てているメイドが三人ほどいるので、内部の音が聞こえないようにする簡単な魔法を使用している」
「そのような使い方をしていると魔力が減るのではないですか?魔術師の方はいつもその点に気をつけ、多くの時間を休憩に使って魔力の回復と保持を」おこなっていますが」
「それはご苦労なことだ」
「だが、そのような心配は私には無用。魔力など回復させるものではなく、使うものなのだから」
フランシーヌはため息をつく。
「すごいですね」
「まあな。だが、そうであれば、そのすごい俺を下僕にしたフランシーヌはもっとすごいということになる。もしかして、それが言いたかったのか?」
「ち、違います」
顔を真っ赤にするフランシーヌを薄い笑みで眺めていたマレフィクスだったが、少しだけ表情を変える。
「ところで話は全く変わるのだが……」
「王族という者は王城内に住まわねばならないものなのか?」
マレフィクスからの突然の質問にフランシーヌは戸惑いの表情を浮かべる。
そして、少々考える。
実を言えば、それは彼女にとっての常識であり、それについて考えたことがなかった。
「……現王の子については王城内に住んでいます。婚姻、または独立したら王都内の屋敷に住むことになると思いますが」
「では、王都に住まぬ王族は?」
「王族と言っても裾野は広いです。直系からかなり遠い王族の方は領主として地方に住んでいる方もいらっしゃいますが、直系やそれに近い方は王都の屋敷に住んでいらっしゃいます」
「それがどうかされたのですか?」
「そう難しいことではない」
「もし、わた、俺が王位を狙う者であった場合、王城を吹き飛ばし、現王一族を根絶やしにしたうえで自身が玉座に座ると思っただけだ」
「ですが、それは難しいかと」
「王城には宮廷魔術師と近衛兵がおり、魔法攻撃はもちろん、剣による攻撃でも王城を落とすのは……」
「難しい?」
「そういうことです」
「なるほど。だが……」
「自分たちの能力でことだろう」
「俺なら、王城どころか王都だって吹き飛ばすことが可能だ」
「そして……」
「王都全体なら少々難しいかもしれないが、王城程度なら、私でなくてもできる。中級悪魔。またはそれと同等の力の持つ者なら」
「王都にいない王族の誰かが悪魔と手を組みそれをおこなうかもしれないということですか?」
「いや。王都にいないと限定しなくてもいい。自分が安全な場所にいるだけでいいのだから」
「たとえば、王位継承者レースの三位の者がいたとする。そいつがお調子者と手を組み、偶然を装い、王都を離れたところで王城を吹き飛ばす。そうなった場合、父王、レースの上位ふたりだけではなく、自分より下位の者もまとめて消し去る。残ったのは自分だけ。当然王位は自分のところへ転がんでくるというわけだ」
「フランシーヌが王位に興味がないのはわかっている。だが、そんなことはそいつには関係ない。むろんフランシーヌは俺の魔法で助かるだろう。だが、その後にやってくるもめ事には必ず巻き込まれる。そのひとつは、どうやって助かったのかという疑問。そこから疑われる。あれだけの惨状で助かったのだ。やったのはフランシーヌだと。そうならないように、今から手を打っておくべき」
「つまり?」
「王都を出ろとまでは言わない。だが、せめて王城からは離れるべきだろう」
「父王に、市中を巡回するのに便利だからとでも言って、小さな屋敷を宛がってもらえばいい。その後のことはすべてやってやる」




