聖女にお仕置きされる大悪魔
「ところで、マレフィクスさん」
「なんだ」
「私のことは、おまえではなく、フランシーヌと名前で呼んでください」
「冗談ではない。私は悪魔。誰が人間の小娘ごときの名など……」
「ぐわわわ……」
マレフィクスの体中に電流が流れる。
しかも、並みの強さではない。
大悪魔でも口から泡を吹くくらい。
いや。
骨が見えるくらいに。
「お、おい。おまえ……ぐわわわ……」
再びの電流。
そう。
これは、「セルウス」によってマレフィクスが負った枷のひとつ「主である術者の命に従わないときに自動的に発動するお仕置き」である電流責め。
「もしかして、これが先ほどの説明で『お仕置き』と言っていた罰なのか」
「そうなります」
さすがに毎回これを食らうわけにはいかない。
心の中でそう呟くと、マレフィクスは口を開く。
「フ、フランシーヌ。長いな」
「仕方ありません。名前ですから」
「わかった」
「先ほどの電流。あれは私……」
「私はダメですね。子供なのですから、俺か僕で」
「くそっ。こんなことまで命令されるのか。さすがに僕とは言えない。では、俺で」
「先ほどの電流。俺が悪魔でなければ死んでいるぞ」
「大丈夫。お仕置きは相手に合わせて自動調整されるようですから。ちなみに、強さは対象者が死にたくなるくらいの痛みだそうです。魔術書にはそう書かれていました」
「魔術書?」
「はい。子供の頃、宮廷魔術師の方に魔法適正を鑑定したもらったところ、私は大魔法のひとつ『セルウス』の保有者であることが判明しました」
「その時、教えていただきました」
「大魔法保有者は他の魔法は覚えることができない。ですが、逆に他の魔法を扱える魔術師は大魔法を所有できない。そして、所有する大魔法は生涯に一度しか使用できない」
「だから、その魔法についてよく知り、その使う時を考えなければならないと」
「そこから私は過去に『セルウス』を所有した方々の記録を調べたというわけです」
「おい、おま……フランシーヌ」
危なく三度目のお仕置きを食らうところをギリギリで回避したマレフィクスは大きくため息をつくとフランシーヌを見やる。
「大魔法が一回しか使えない。これは私も……俺も知っている」
「だが、知識を手に入れて決めたその使用場所があれだったのか?」
「いいえ。あれは気が動転して、思わず」
そして、今度はふたり分のため息がフランシーヌの部屋に響く。
「とにかく、おまえの不注意で……ぐわわわ……」
先ほどはどうにか回避したものの、結局僅かの間に三度目となる「骨のご披露」をした大悪魔は涙目になりながら自身の主となったらしい少女を恨めしそう見やる。
そして、先ほど言えなかった言葉を言うために口を開く。
「とにかくフランシーヌの不注意によって起こったこの状況が続くことは確定している。そうであれば、状況の改善を考えるべきだろう」
「私もそう思います。ですが……」
「今の言い方では私だけが悪いようではありませんか。たしかに私が魔法を口にしたために起こったことではありますが、そもそも、マレフィクスさんがノックもせず私の部屋に入り、着替え中の私の下着姿を見なければこのようなことにはならなかったのですから、原因の大部分はマレフィクスさんにあると思います」
「冗談ではない。言っておくが、私はおまえのパンツなど見たいなど……」
そして、起こる四度目のお仕置き。
「ぐわわわ……死ぬ……」
しかも、今回はこれまでにない強さ。
間違いなく、マレフィクスの言葉に負の要素が入っていたのだろう。
むろん、これで死ぬことはないのだが、そう言いたくなるくらいの痛みということである。
「くそっ。とにかく、俺はおまえのパンツを見たのでなく、見せられたのであって……」
「ひどいです」
「ぐわわわわ……」
さらに強い一撃。
「なんとかならないのか?このお仕置きは」
「魔術書には、術者の尊厳を傷つけるような言動は自動お仕置き発動の条件になっていますのでどうしようもないです」
「くそっ」
五度目のお仕置きで身体から湯気を出しながら大悪魔はぼやく。
そして、呼吸と精神を整える。
「これ以上のお仕置きが御免だ」と呟きながら。
「問題のひとつは、俺がフランシーヌの視界から離れられないことだ」
「むろん、透明化の魔法を使えば、他の者を欺くのは難しいことではないし、それによって王宮内を歩くこともできる」
「ですが、王宮内には多くの結界があります。それに宮廷魔術師も」
「問題ない。現に、ここに来るときも結界を突破してきた」
「なるほど。では、何が問題だと?」
「決まっている」
「俺もこの部屋で暮らすことになるということだ」
「そ、それは困ります。色々と」
「それはこっちのセリフだ」
「どうしましょう」
「知らん」
「とりあえず、ベッドをもうひとつ用意しろ。そうでなければ、一緒に寝ることになるぞ」
「悪魔は寝なくても大丈夫ということはないのですか?そうでなければ立って寝るとか」
「ないな。少なくても俺が知る悪魔は横になって皆寝る」
「わかりました。ですが、どのような理由でベッドを入れましょうか?」
「もしかして、それを考えるのも俺の仕事なのか?」
「お願いします」
実をいえば、大悪魔マレフィクスはいたって真面目。
そして、律儀。
そこに罰則付きの義務が加わっている。
こうなると、普通にいい人になってしまう。
いや。
騙すことがないのだからある意味人間より信用できる存在かもしれない。
そして、そもそも人間ではなく悪魔であるのだが。
「どうですか?」
「まあ、無難なのは世話役か付き人。そのような類の者なら必要となるのだろう」
「ですが、そのような者はすでにおりますし、彼らの寝室は別となります」
「となると、友人となるのだが、そのような者には相応の部屋が用意される」
「はい」
「そうなると……」
「ないな。諦めて同衾せよ」
「ぐわわわわ……」
再び発動されたお仕置き。
結局、マレフィクスは床で寝ることになる。
「くそっ。これでは世話役どころか従者、下僕ではないか」
マレフィクスはそう言ってフランシーヌを睨みつける。
「まさか、入浴にも立ち会わねばならないのか?」
「たぶんそれは大丈夫だと思います。近くにいてくれれば」
「できればそう願いたいな。裸を見られたなどと謂れのない疑いでお仕置きされるのは避けたいからな。だいたい私は貧相な胸の小娘の陳腐な裸などに興味がない。つまり、こちらから願い下げ……ぐわわわわ……」




