大悪魔の助言をおかげで命拾いをした聖女は王都の救世主となる②
「……王都救援に向かう?」
混沌の地となった王都アルセンシアとは無縁の存在である「薔薇の離宮」。
むろん、現在の度々襲撃は計画されているものの、悪魔と天使という違和感だらけのタッグによって常に封殺されていた。
その「薔薇の離宮」の主であるフランシーヌ・ファンドリアーノが口にした言葉に大悪魔マレフィクスが顔を顰める。
「この件についておまえの意見を聞こうか。アンゲルス」
そう言ったマレフィクスが目を向けたのは、まるでここで自宅であるかのようにくつろぐ若者だった。
「言っておくが、おかしなことを言ったら貴様がその先頭に立ってもらうからな」
「わかっているよ。それくらい」
クギを刺しに来たマレフィクスの言葉を軽く受け流したその若者、いや、大天使は視線をこの国の王女へと動かす。
「一応、大悪魔様のご指名なので答えさせてもらえれば……」
「触らぬ神に祟りなし、だと思うけど」
「なんですか?その言葉は?」
「どこかで聞いた言葉なのだが、余計な手出しをするなという意味だよ」
「王都の混乱。それはあなたの兄弟たちの内輪もめから始まったもの。当然その尻ぬぐいは本人たち、またはその父親がやるべきもの。事実上、彼らと縁を切った王女がそれをおこなう必要はないと思うよ。つまり……」
「僕もマレフィクスと同じ意見だということ」
「だけど……」
「誰も動かないのだろうね。そこは謎だ」
「まったくだ」
「確かに……」
アンゲルスの言葉にマレフィクスは大きく頷き、フランシーヌも同意する。
だが、ふたりとフランシーヌでは意図するところは大きく違う。
フランシーヌは単純に王都の住民を助けに行かないことへの疑問だった。
だが、アンゲルスは言外の言葉で指摘し、マレフィクスが同意したのはもう少しきな臭いものだった。
ここで王都救援に行けば、株が上がる。
少なくても王都の住民たちの評価は。
それなのになぜ動かない?
だから、アンゲルスは自身の言葉に同意したフランシーヌを一瞬だけ胡散臭そうに見たわけなのだが、すぐにフランシーヌが同意した理由に気づき、薄く笑う。
「……僕はこの国の王が誰になるかなど興味はないし、それに関して助力はもちろん、関わりも持つ気はなかったけど……」
「少しだけ気が変わった」
「もしかして、君も同じなのかな?マレフィクス」
「さあな」
「私は愚かな天使どもがどこかの馬鹿王子の王位継承の手伝いをするのではないかと心配しているだけだ」
「なるほど」
「では、約束しよう。そう動く天使がいたらやめさせる」
「そんなに王になりたければ、他人の力などアテにせずすべて自力でやればいい。それよりも悪魔はどうなのかな。君らこそ誰かの助力をする気ではないのか?」
「見てのとおりこちらにやってきている悪魔はフランシーヌの世話が忙しい。しかも、そこに余計な奴まで仕事が増えている。それどころではない」
「結構。せいぜい励みたまえ」
「ふざけるな」
いつもどおりの喜劇を一通りこなしたところで、マレフィクスはフランシーヌを見やる。
「まあ、そういうことで我々も天使も王都の騒乱は動くべきではないという意見なのだが」
「おふたりの言いたいことはわかりました。ですが、それはあくまで一方の都合。実際に困っている王都に住む方には手助けが必要なのです」
「あ~~~」
これぞ異口同音。
しかも、悪魔と天使。
世の中でこの光景を見た者はそうはいないだろう。
「だそうだ。それで、どうする?マレフィクス」
「まあ、私はフランシーヌの手伝いをする約束している。当然やる。それで、おまえは高みの見物か。アンゲルス」
「まさか。困っている人を助けるのは天使の仕事。当然やるよ」
「貴様たち天使が人助けを生業にしているなど初耳だが、とりあえずわかった。では……」
「なあ、マレフィクス」
「せっかく人助けをするのだ。多少の褒美をもらうというのはどうだ?」
「褒美?どこから」
「本来ならば国王からもらうところだが、ここまで王都が荒れているのに動かないくらいだ。当然何も出ないだろう。だから……」
「フランシーヌからもらうつもりか。貴様」
「まさか王女には世話になっている。そこまで悪党ではない」
「僕が言っているのは……」
アンゲルスの視線の先にいるのはフランシーヌ。
「どうかな?」
「アンゲルスとは思えぬ上策。採用だ」
「では、決まり」




