第19話:ちょっといいお店
イアンちゃんのおすすめのお店に連れて行ってもらう。だが、少し血の匂いが残っている以上、まずは身支度を整えるのが先だ。イアンちゃんも一旦血の匂いを落としてから行きたいとのことなので、家へお互い戻って体を拭いてから再合流することになり、イアンちゃんに迎えに来てもらうことになった。
セルフィと宿に戻る途中で夜の鐘が鳴る。これは急がないといけないな。急いで宿に戻って、メリーさんに湯を二人分頼む。部屋に戻ると、ベッドがもう一つ運び入れられていた。どうやらセルフィ用にもう一つ運び入れてくれたようだ。ありがたいことだな。寝床をどうしようか少し悩んでいたところだ。
「私のベッド……ちゃんと用意してくれたんですね」
「さすがに一緒に寝る……というのはな。それに言われる前に用意してくれたようで、後でお礼を言っておこうな」
「はい」
しばらく今日使ったショートソードや防具の手入れをしていると、メリーさんが湯を持ってきてくれた。
「セルフィ、向こう向きな。背中はやってあげよう。ただ前と……それ以外の部分は自分でやってくれ。さすがに年齢的にまずいだろうしな」
「わかりました。では、背中お願いします」
髪を洗うのは最後でいいな。セルフィの長い銀髪を軽く持ち上げて縛り、邪魔にならないようにしてから背中を拭いてやる。「あう……」と気持ちよさそうな声が聞こえるので、しばらく体も洗えていないんだろう。奴隷とはいえ、ある程度綺麗にしておかなきゃ売り物にもならないとは思うんだが、その辺は良いんだろうか。
セルフィの背中を拭き終わった後、背中合わせになってお互い自分のあちこちを綺麗にしていく。ふと、湯を掬うための手ぬぐいを洗うタイミングが一緒になり、手が触れ合う。ビクッとびっくりしたセルフィだったが、すぐに俺の手だと気づいて元に戻る。後一年こんな関係が続くんだから慣れていかないとな。
血の匂いが落ち着き、体も綺麗になったところでセルフィの髪を洗ってやる。体を拭いた後の湯なので綺麗だとは言いがたいが、今のままの髪で居るよりはよほど綺麗になるはずだ。髪を梳いてやるには櫛やシャンプーなんかが必要だろうが、俺の知能でどこまで実現させてやれるかはわからない。
一応こっちへ来る前に「これだけ詰め込め! 異世界に行ったときにチートできる知識100選」みたいな本を読んできたので、似たような性質のものを見つけてうまいことやってしまうしかないな。さて、髪を洗ってやったところで服を着なおして、外に出かける準備は万端。一階に降りて食堂の横を通ると、リンカちゃんとばったり出くわす。
「今から食事ですか? 今日もいつものメニューですけど」
「いや、なんかイアンちゃんが他のお店も教えてくれるらしくて。今日はそっちに」
「それは残念ですね。でも、イアンちゃんのおすすめというと……豚は出荷亭ですかね。ミニボア料理がおすすめのお店なんですよ。うちではミニボアはめったに取り扱わないですからね。多分ですけど、ミニボア狩りにでも行ってたんですかねえ」
「そうなんだ。セルフィが大活躍でな。おかげで今日の分も無事に稼ぎきることができた」
「セルフィちゃんとタカナシさん、すっかり仲良しですね」
リンカちゃんにそう言われ、確かに気が付けば仲良しになっているな。
「ああ、そうだ。ベッドありがとうね。運んでもらわなきゃ二人同じベッドで寝るところだったよ」
「ベッドがちょうど一つ余っていたのでサービスです。これからも長期宿泊してくれるかもしれないお客さんには、できるだけよくしておかないと」
ありがたいことだな。期限が来てもまた十日伸ばしてここに宿泊させてもらうことにするか。それが借りる側のありがたみってものだろう。
食事をしないのに食堂で待っているのも悪いので、部屋に戻って待っていると、しばらくしてイアンちゃんが到着した。
「お待たせしました。それでは行きましょう」
イアンちゃんに連れられてしばらく歩くと、「ブタハシュッカテイ」の文字。どうやら本当にここらしい。というかこの店の名前はなんだろう。どことなく親近感がわく。これも、異世界の前の住人が残した名前だったりするのだろうか。
「さあ、ここでお勧めです。銅貨15枚の一匹丸ごとコースがお勧めですね。ただ、セルフィちゃんにはちょっと量が多いかもしれませんが」
「がんばる! 」
「あー、頑張らなくていいぞ。金銭的な意味ではなく、もったいないの意味で。二人で一匹丸ごとコースを頼んで、まだ足りなかったらもうちょっと注文するってこともできるかな? 」
「できますよー。そっちにしますか? 私は定食を頼みます」
席に座り、丸ごとセットと定食を注文。しばらくして、ミニボアの各部位をそれぞれの味で仕込んだ丸ごとセットが届いた。
特製ソースのかかったもも肉をまずは味わう。量は少ないが、一番ヘルシーらしく、ほとんどいわゆる赤身肉の部分を茹でて出してきたように見受けられる。ソースの酸味が程よく中々に美味しい。
もも肉の次は塊で出てきたステーキだ。一枚肉をニンニクのような香りのするソースがかけられ、これもまた美味しい。ニンニクは……厨房を眺めてみると、厨房の上の棚に吊るしてあるのが見つけられた。ほぼにんにくの形をした物体が見える。あれがそうだな。
厨房の主がもぎ取って、かけらを取り出した後分厚い包丁でペシンと叩いてつぶして、そのまま刻んでいる。どうやらニンニクで間違いないようだ。さて、次は……ロース肉っぽい部位の半生……これ大丈夫なのかな。
「ミニボアって生でもいけるの? 」
「大丈夫ですよ。モンスターには寄生虫などは寄り付かない……というより、モンスターにはそういった部類のものは憑りつけないんです。寄生虫が仮に憑りついても、モンスターの性質……これは説明すると長くなるんですが、その性質上寄生虫も死んでしまうので安心して生でも食べられるようになっています」
イアンちゃんが大丈夫だというので大丈夫なんだろう……と、セルフィは普通に生で食べているな。生ハムみたいなものだと思って食べてみよう。ソースをつけて……ああ、生だとマヨネーズが欲しいな。
かじりついてみるが、噛み切るのにちょっと難儀する以外は美味しい肉だった。これが今日の成果だとすればなかなか悪くない。あと、やっぱり生よりも焼いてあるほうがなんとなく安心するのも確かだな。
さて、次は……
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