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残光が、ゆっくりと空気の粒子に溶けて消えていく。


先ほどまで視界を真っ白に染め上げていた白銀の輝きが収まったとき、儀式の間の中央には、一人の少女が座り込んでいた。


床に流れる淡い色彩の髪は、まるで月の光を織り込んだかのように細く、柔らかな光を帯びている。透けるような白い肌に、桃の花びらを散らしたような頬。


それは、過酷な浄化を知る者たちにとって、あまりにも現実離れした「理想の聖女」だった。


少女は困惑したように、長い睫毛に縁取られた大きな瞳をぱちぱちと瞬かせ、周囲を見回す。

その瞳は、磨き上げられた宝石のように、儀式の間にある灯火を反射してキラキラと輝いていた。


「……ここ、は?」

静まり返った広間に、透き通った鈴の音のような声が響く。


その一言が、堰を切った。


「おお……!」

誰かが漏らした感嘆の声が、起爆剤となった。

「成功だ……! 召喚は成功したぞ!」

「見てくれ、あの神々しいお姿を……! 聖女様だ!」


爆発的な歓声が、石造りの天井を揺らす。神官たちは次々に膝をついて祈りを捧げ、居並ぶ兵たちもまた、畏怖と喜びに震えながら武器を置いて頭を垂れた。


皇帝ジークヴァルトが、ゆっくりと陣の中心へと歩み寄る。

一国の絶対者であるはずの彼が、一切の躊躇なく、その少女の前で片膝をついた。

「ようこそおいでくださいました、聖女様。貴女をお迎えできたこと、帝国最大の誉れと存じます」


その声には、側近たちですら聞いたことのないほど深く、狂おしいほどの敬意が滲んでいた。

背後では補佐官イーサンも、猛将ゲルハルトも、そしてカイルも、皆一様に深く頭を下げている。


世界の中心が、今この瞬間に、リリアの手元からその少女へと移り変わった。


少女は戸惑いながらも、自分に向けられる無数の羨望と敬意に、どこか誇らしげな、華やかな微笑みを浮かべた。

彼女は、この世界の「光」そのものとして君臨していた。


ただ、一人を除いて。


広間から少し離れた、影の落ちる席に座るリリアだけが、静かにその光景を見つめていた。

胸の奥を、言葉にできない微かなざわめきが通り過ぎる。嫉妬ではない。もっと根源的な、自分の存在意義が足元から揺らぐような、正体の知れない不安。


(……あれ?)

ふと、リリアは自分の膝の上を見下ろした。

無意識に、絹の手袋の指先に手が伸びる。誰も自分を見ていない。すべての視線が、中心の「輝き」に釘付けになっている隙に、彼女はそっと白い布をめくった。


そこから覗いた己の腕を見て、リリアは小さく息を呑んだ。

(……減ってる)

指先から手首にかけて、醜く、黒く焦げ付いていたはずのあの「煤」が。

ほんの少しだけ、色が薄くなっていた。


それは、本人でなければ決して気づかないほどの、わずかな変化。

けれど、たしかに。リリアの肉体を侵食していた瘴気が、新しい聖女の出現に呼応するように、わずかに退いている。


リリアはしばらくの間、自分の腕を見つめていた。

痛みが引いたわけではない。身体が軽くなったわけでもない。

ただ、自分の刻印が、あの光り輝く少女に「浄化」されたかのような、不思議な感覚。


静かに、手袋を元に戻す。

誰にも見られないように、自分の腕を隠した。

「……よかった」

小さく呟いた言葉は、歓声にかき消された。


自分を苛んできた毒が消える兆し。それは救いのはずなのに、なぜかリリアの胸には、ぽっかりと穴が開いたような寂寥感が広がっていた。


儀式の間の中心では、まだ熱狂が続いている。

少女は少し恥ずかしそうに、けれど慈悲深い女神のような微笑みを湛えて、跪く男たちを優しく見つめていた。

リリアは、ただ静かにその光景を見守っていた。

新しく現れた光と、

自分の腕に残る、黒い煤の行方を胸に抱いたまま。

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