47.堕ちた鳥
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俺は平次だったものに斬りかかる。だがそれは空を切り、いつの間にか距離を置かれていた。
あの時見せた高速移動。その速度が更に上がっているのか、ほとんど視認できなかった。
天狗は血に染まった手のひらを見る。倒れている信成にも目を移し、何か動揺しているのか、頭を抱えだす。そして天狗は、ゆっくりと歩き始めた。
信成は完全に致命傷だ。何かを聞けるような時間も、状況的余裕もない。他人を治す術を持ち合わせていない以上、この場で助けるのは不可能だ。
天狗が今度は俺の方を見る。みるみるうちに、その瞳は敵意に染まる。殺気に当てられ、反射的に警戒態勢を取った。
次の瞬間、その鉤爪が俺の目前にあった。避けるのがほとんど間に合わず、右目を殆どえぐられてしまう。
その痛みに耐えながら、天狗を迎撃するが、それもまた避けられてしまった。
離れた所でこちらを見据える天狗の頬から、一筋の血が流れる。
犠牲術を起動して、目を修復する。傷が治ることで、また記憶が溢れ反射的に吐き戻す。
その隙に、天狗が更に距離を取り、大きく踏ん張って走り出すような構えを取った。
この瞬間、全身に寒気が走る。巨大な鉾を向けられるような、この場にいれば死ぬという直感。
避けられない。そう判断した俺は即座に呪符を使い即席の結界を前面に展開する。
その直後、閃光のような衝撃を受けた。
そこから遅れての轟音。常軌を逸脱した速度から生み出される破壊力。
結界が機能したかすら定かではない。一瞬で粉々にされた。いや、結界がなければもっと酷い状況になっていたと考えた方がいいだろう。
衝撃で刀は砕ける。屋敷の一部は崩壊した。まともに受けた胴体も形は残っている。だが、呼吸が全く出来ない。おそらく肺が潰れた。
自分が衝撃と共に屋敷の塀に叩き付けられたと気付いたのは、意識を取り戻してすぐだ。
周囲に舞う大量の土煙。肺を再生させた直後の大量の吐血。直前に犠牲術を起動していなければこのまま完全に行動不能になっていた。
天狗が近くにいることを確認すると、痛みを無視しながら、懐から飛び散った呪符を遠隔で起動した。
呪符が赤熱し、爆発を起こす。自爆覚悟の攻撃であったが、天狗の左手と左足を焼く程度で回避されてしまう。
だが、天狗は焼けた手足を気にしている様子だ。これなら、考える時間がある程度取れる。
肋骨が壊れ、全身に火傷を負い、禁術の副作用で頭痛と吐き気に苛まれる。刀も折れ、呪符も数枚しか残っていない。状況としては最悪だ。
犠牲術の再生力を肋骨に集中し、行動可能になるのを優先する。
犠牲術は寿命を使い能力を強引に引き上げる術。裏宰はこれを制限術に指定し、緊急事態以外の使用を制限している。だが、俺は特例で常用を許可されていた。
流石に、ここまで犠牲術を使用することになるのは想定していなかった。命の残量もきっと無限ではない。そのうち限界があるはずだ。
自分一人でも倒せるだろうが、時間も命も使い過ぎるだろう。
それを避けるのなら、増援が必要だ。もし増援を呼ぶなら結界の解除が不可欠。だが、それをすると、この天狗に逃げられてしまうだろう。そうなれば、あの高速移動をする対象を追うのは困難だ。
それに、他の人妖がどれだけいるのか把握できていない。結界解除の影響で周囲の村に被害が出るかもしれない。
なら、今この場で倒す他ないと覚悟する。手段を選ぶ余裕はない。策を練る必要がある。
そこで、真奈と千歳のことを思い出す。奴らは今この場にいるはずだ。もし無事なら、合流すれば策を練る余裕が出来る。
そんな考えをまとめていると、天狗の様子が変わっていく。背の翼を使い、空に飛び立っていた。
天狗はこちらを真っ直ぐに見下ろしてくる。それを見た俺は、無意識に舌打ちをしていた。




