十三時間目
ズンチャ、ズンチャ、ズンチャ、ズンチャ…♪
ゲイームオウバー!
「うわあああまた死んじゃったあああ」
「朝野、ドンマイ……そろそろ帰ろうぜ」
夕吾と寿人は駅前のゲームセンターを出た。空はすっかりオレンジ色に染まっている。
「なあ、ドラムのコツってなに?おれもいつか九条みたいにカッコよく『愛のしるし』フルコンボしてみたいんだけど」
いつまで経っても上達しない夕吾が寿人に教えを乞う。
「うーん、一番大切なのはリラックスじゃないかな。こんな感じで」
仕事帰りのサラリーマンや買い物客で混雑するアーケード街を歩きながら、寿人は手首をふにゃふにゃさせた。
「朝野いつも力んでるからさ。こうすればもっと叩きやすいと思うし、バテないと思うぜ」
「なるほど。参考にしてみる……っと、椎名からメールだ」
「朝野、椎名とメル友なんだ?」
「おう。椎名がどうしてもって言うか……ら?」
メールを見た夕吾の足が止まる。
「どした?」
夕吾は寿人に美咲からのメールの文面をそのまま見せた。
『こんばんは、朝野くん。突然ごめんね。実は、マコっちゃんの靴が誰かに盗まれてしまいました。もう3足目です。先週、朝野くんが聞いてきた日あったでしょ?本当はあのとき相談したかったんだけど、マコっちゃんが余計な心配かけたくないって言ったからウソをつきました。ごめんなさい。先生に言おうとしたんだけど、マコっちゃんがどうしてもイヤだって聞いてくれません。最初に盗まれた日の放課後、マコっちゃんの下駄箱にメモが入ってて、死ねって書いてあったの。ねえ、私どうしたらいいかな?いまはまだ靴だけで済んでるけど……どうしよう、その内もっとひどいことされちゃったら、私、そんなのいやだよ……』
はらわたが煮えくり返った。
「マジかよくそったれッ……!」
寿人は犬歯をむき出しにして唸った。夏のサイダーみたいに爽やかな彼のイメージとかけ離れた豹変ぶりに、夕吾は思わず息を呑む。
「どうする九条。これ先生に言うか?」
「いや、中村さんはみんなに知られたくないんだろ?しかもその内容知ってるのは椎名さんだけで、彼女は朝野を頼って打ち明けてきたんだから、それをバラしちゃったら盗んだ奴は捕まっても、中村さん傷つくよ。俺らで犯人見つけよう!」
「わかった。協力するぜ!」
美咲に『任せとけ、絶対犯人つかまえてやるから!だから心配するな!』と返信し、夕吾は早速寿人と作戦を練り始めた。
***
もう気のせいなんかじゃない。もう間違いなんかじゃない。
夜。真琴はベッドで毛布を頭から被っていた。
(あたしを嫌ってる子がいるんだ)
哀しくて、怖い。
自分のことが嫌いなら、面と向かって言ってくれればいいのに。
そうじゃないと、自分を嫌う理由もわからないし、嫌う欠点も直しようがない。
上履きは3足盗まれてしまった。1足目の時は「汚れちゃったから」の理由で親に買ってもらえたが、流石に2足、3足と立て続けに盗まれてしまってはその理由は使えず、真琴は自分のお小遣いから新しい上履きを買っていた。
明日、4足目を盗まれたらまた靴屋さんに行くしかない。上履きばかり買う自分にお店の人も不思議そうな顔をする。売上に貢献してるんだから文句ないでしょう。
枕元の携帯がぶるる、と振動した。
手に取って見ると、美咲からのメールだった。
『元気だして。私はマコっちゃんの味方だからね』
目の奥がじん、と痛くなった。
美咲の優しさが目薬より染みる。
本当は彼女の言うとおり、さっさと先生に言ってしまうべきなのだ。
クラス中にこの事が知れ渡れば、犯人もうかつには手を出せなくなるだろうし。
(でも……)
言いたくないのだ。知られたくないのだ。
自分を嫌ってる人がいるということを。
それを言ってしまったら、もうその子と仲直りすることが出来なくなってしまうような気がして。
(……ううん、ちがう)
自分のイメージを、守りたいだけなのだ。
みんなにいい顔をしていたいだけなのだ。
真琴は初めて、自分の醜さを自覚した。
皮肉にも、こんな形で。
***
小鳥たちのさえずりが聞こえる。
清々しい朝。
学校の校舎の玄関に、ひとりの生徒が立っていた。
「…………」
視線の先には、真琴の下駄箱があった。
ぎぃ、と軋んだ音を立て下駄箱を開けると、中に真新しい上履きが入っていた。
口の端を歪め、その生徒は笑った。
彼女の上履きを取り、下駄箱を閉める。
何度でも繰り返してやる。
そんな思いを抱きながら、生徒は素知らぬ顔で、何食わぬ顔で一日を過ごすのだった。




