十一時間目
「差別だこんちくしょー」
「朝野、悪かったよ」
帰り道。
真琴の回し蹴りが直撃した首をさすりながら夕吾は不満たらたらに言う。
「大体だな、九条が真琴のぱんつ見たいだなんて言わなければだな」
「いやいや、俺ヘンタイみたいに聞こえるから。言いだしっぺは朝野だろ?給食中にいきなり『スカートめくりしようぜ!』って」
「だっておれ、刺激が欲しかったんだ」
「そんな理由でスカートめくられる中村さんが哀れだよ」
「いいじゃん。九条だってしっかり見てたろ?」
「まあ……見たっていうか、見えてしまったというか」
このすけべ!とにやける夕吾の肩を寿人は小突いた。
それから15分くらい歩き、二人は駅前のゲームセンターに到着した。
新しく導入されたアーケード格闘ゲームがいま大人気で、放課後はサッカーと相場が決まっていた夕吾たちも、すっかりバーチャルの世界にハマッてしまっていたのだ。
「混んでるな。どうしようか九条」
「空くまで音ゲーでセッションしようぜ」
「オッケー」
フロア奥の音ゲーコーナーへ進むと、ギター、ドラム、ビートマニア、太鼓の達人などなど、様々な種類の音ゲーが並んでいる。二人が好きなのはギターとドラムだった。
「おれドラムー!」
「朝野、『愛のしるし』も満足に叩けなかっただろ?大丈夫なの?」
「うるさいな。もう昔のおれだと思うなよ?ニコニコ動画で『叩いてみた』観て勉強したんだ。とにかく試してみれ!」
「はいはい」
ゲイームオゥバー!と外人さんの大げさな声で告げられるまで1分もたなかった。
「すいませんでした」
「いや、たしかに以前より上手になってたよ。気にするなって。次もっかいやろう」
「うう、もう恥をさらしたくない……」
高校生らしきカップルが近くのプリクラコーナーにいて、夕吾の演奏をげらげら笑っていたのだ。
カップルの男のほうが夕吾のあとにドラムを演奏し、これみよがしに『愛のしるし』をフルコンボして勝ち誇ったような笑みを夕吾たちに向けてきた。女のほうはキャーキャー喜んでいる。
「ぐすん」
穴があったらダイソンの吸引力並みに吸い込まれたいとワケのわからないことを言っている夕吾に、
「朝野、一回俺もドラムやっていい?」
「おう。でも九条ドラムできるの?いつもギターしかやってないじゃん。あいつらおれがゲームオーバーになった曲フルコンボしてんだぜ。きっと相当な腕前に違いない」
「だな。でも、友達が笑われてるの見てほっとけないだろ」
「九条…っお前、なんていいヤツなんだ!」
夕吾は目の幅涙をぶわっと流し、それからトイレに用を足しにいった。
男の演奏が終わり、寿人の番になる。
コインを投入し、曲選択画面へ。
帰ろうとしていたカップルを尻目に、『愛のしるし』を選曲した。カップルの足が止まる。
ズンチャ、ズンチャ、ズンチャ、ズンチャ…♪というリズミカルな前奏が始まり、寿人は緊張しながらスティックを振る。
順調にコンボを重ねていたが、曲の終盤にカキンッ、と誤って鉄のフレーム部分を叩いてしまい、コンボが途切れた。食い入るように見ていたカップルから安堵の息が聞こえる。次いで「ザマァ」とも。
燃えてきた。
2曲目。寿人は難易度30のバラード曲を選んだ。ちなみに『愛のしるし』の難易度は15だったのでその倍難しいことになる。いま彼の後ろでバカにするような視線を送る男が先ほど演奏していた曲順を、寿人はそのまま重ねて演奏しているのだ。これはもちろんマナー違反で、場合によってはトラブルに発展することさえある。けれど、夕吾は同じ目に遭わされた。だから黙っていられなかった。
(たしか、10小節目のフィルインでミスってたっけ)
寿人は丁寧にコンボを重ねていき、男と寸分たがわぬタイミングでミスした。
演奏後の得点は、わずかに男のほうが上だった。うしろでカップルの笑い声が聞こえる。
3曲目。寿人は難易度58のサンバ曲を選んだ。足数の多い曲で、表拍に加え裏拍がいやらしく絡んでくる。男は足の部分をオートモードで演奏していたが、寿人はオートを選択しなかった。
フル、コンボゥ!
外人の大げさにためた声で祝福される。うしろのカップルから笑いが消えた。
エクストラステージ。3曲終了時の総合評価がSランクの時に進める特別ステージで、通常時には選曲できない曲が演奏できる。ちなみに男はここまで到達できなかった。
難易度は81。ジャズ曲で、3連符、変則リズムが複雑に絡み合い、ミスなく演奏できればとても耳に心地いい曲なのだが、そうでないと聞き苦しいことこの上ない。
フルッコンボウゥ!
外人の気合の入った声で祝福される。いつの間にかカップルの他にもギャラリーが出来上がっていた。
(やば、ムキになってて周り見えてなかった)
アンコールステージ。エクストラ曲をSランクでクリアした者のみが到達できる最終ステージ。
難易度98のプログレ曲。ヴィヴァルディの『四季』を原曲にした、美しさと激しさを兼ね備えた最高の曲にして、最高クラスの難易度を誇る。変則リズムに16分連打、特筆すべきはサビの部分で襲い掛かる通称「ビーム」と呼ばれるシーケンスの嵐が、挑戦者を奈落の底に叩き落すのである。要するに、とても難しいのだ。
フルッッコンボゥウ!
夕吾がトイレから戻ると、ドラムコーナーに人垣と、拍手が鳴り響いていた。
その中心には、寿人がいる。
夕吾は確信した。
(九条、『愛のしるし』フルコンボできたんだな。全く、持つべきものは友だぜ!おめでとう!)




