第二十二話 無言の威嚇も程々にしてくださいまし
帝国の一角。ルナディカル・ライアズは、水辺の方を見ていました。
まるで私に興味を持っていないようですね。
それはそれは、無関心すぎるのもちょっと困ります。
こちらも偵察という名で行動しています。
相手の出方も理解しておかないといけません。
「ルナディカル様。なぜあのようなことをしたのです?」
「……」
「無言を貫きますか。ならこちらから吐かせるまでです」
私は急接近を敢行します。その距離はそこまで遠くありません。
目と鼻の先。一瞬で近づける範囲です。
狙うは相手の腹部。ですが何故でしょう。脚が動きません。
行動入力はしているはずです。
私はルナディカル、改め、ルナの顔を見ます。
こちらが怖気付いている? そんなことあり得るわけがありません。
力量も私の方が上。誤算なわけがないのです。
「そこまでか」
ルナはそう言うと、私の後方に目をやりました。
そこにはレイランとルーラがいます。
二人を見つめ、軽く頷きました。
これはなんでしょう。嫌な予感がします。
私にとって、レイランは婚約者。そして、ルーラは養子の立ち位置。
二人がいて私がいるように、私がいて二人がいます。
無理を言ってお父様に許可をいただいたのに、このルナという男には嫌気がさします。
「レイラン。ルーラ。大丈夫かしら?」
「アリアナさん。ボクは大丈夫です」
「うん。自分も平気」
どうやらただ見られただけのようです。
では、本気で行かせていただきましょう。
この束縛を回避するには、どうすればいいかを考えます。
なのに、まるで歯が立たなそうなくらい威圧がすごすぎます。
ルナは私のにらみつけにも、動じていませんね。
こんなにも強固なバリアは、初めてです。
いうなれば、戦闘力皆無の王子とは、雲泥の差とでもいいましょうか。
いえ、天地の差の方があってますね。ルナの方が圧倒的です。
加えて、私の方が負けています。ここは絶対勝ち取りたいのですが……。
「何しにきた」
「そうでしたね。我が国アリストラ王国との停戦協定を結びに、でしょうか」
「停戦協定……か」
ルナは少しだけ濁った白髪を揺らします。
髪は長くストレート。だけど、それが老け見えです。
騎士としての威厳はありますが、どうもおじさんっぽく見えてしまいます。
まあ、それは良しとしておきましょう。
いくらレイランが彼に恋心を抱いたとしても、絶対に渡しません。
ルナディカルがどんなにしっかりしていた人だとしてもです。
「なぜ停戦協定を結ぶ」
「貴方。アリストラ王国の祭りで、テロを起こそうとしましたよね」
「テロ……だと?」
爆弾を積み込んだ貨物船が一隻。
その船の出どころがここライアズだと、ルーラに調べてもらってました。
祭り中に起こりかけた爆発事故。ルーラがいなければ、死者はどれほどだったか。
ルーラには感謝が足りません。さすがに神の子供なので限界はあると思いますが……。
ライアズの空気は少しだけ火薬くさいです。きっとそのようなものを生産しているのでしょう。
やはり、感じますね。ここは爆発物を生産するのに向いている地域だと。
そして少しだけ思い出してみました。
肉付きが普通だと思った住民。あれは服でごまかしていたのかもしれません。
ここはきっと、作物が育たないのでしょう。
王族が作物の権力を持っているから、住民は狂っているのです。
「住民よりも自分ですか……。なんとも憎らしいわね」
「住民は道具に過ぎないからだ」
「あら、道具ですって。住民も人間よ。自分たちだけが余裕こいていてどうするのよ」
停戦協定を結ぶ前に、この男の思考を修正せねばなりませんね。
住民全員に食事が行き渡らないなんて、気の毒です。
私はルナの弱い部分を探ります。
どのようにすればすんなり協定を結べるか見極めるのです。
――ドサリ……。
「……!?」
誰かが倒れましたね。私は後ろを振り向きます。
そこには、横倒しになっているレイランとルーラ。
きっと長旅での疲れでしょう。仕方ないですね。
一旦ここで身を引くことにします。
「停戦協定につきましては、あとで再確認いたします」
「……」
「お願いします」
「わかった。結ぶとする」
思ったよりも簡単でしたね。私は地面に倒れているレイランとルーラを持ち上げます。
両脇に抱えて、アリストラ王国へ。幸い私の体力はあり余り過ぎなくらいあります。
今日の夜には着くでしょうか。きっと問題ないでしょう。
まずはお父様に連絡です。その後は国王との面会でしょうか。
思ったよりも長い一日です。それまでに二人が目を覚ましてくれればいいのですが……。
しかし気になりますね。何が原因で二人が倒れたのか。
私ですか? 何も感じませんでした。これは原因究明も並行せねばですね。
屋敷につくと、お父様が出てきました。今回は割とスッキリした顔をしています。
ただ、この後怒られるのでしょうね。予想と覚悟ができております。
さあ。かかってきてください。こちらの成果もお話しいたしますので。
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