第十一話 奴隷商も暇ではないようね
それで、子供が逃げ出したとはどのようなことでしょうか。
少し気になりますね。奴隷商の檻は抜け出し不可能なはずですが……。
奴隷商の檻は全部外鍵で、中からは出られないのです。
だから、脱走できはずがありません。子供はどうやって出たのでしょうか。
「その子供に特徴は?」
「赤毛の八歳くらいの女児です。ただ、問題があって……彼女話すのが苦手なようで……」
「ふむ……。そうなのですね……」
話せないとはさらに気になります。誰かに頼むことができませんから。
一層謎が深まりました。奴隷商の料理は一般市民よりも豪華ですからね。
奴隷商の手から出たくないと思うのが普通です。
きっと彼女には、使命的ななにかを感じたのかもしれませんね。
となると、今度始まる秋祭りでしょうか。
この時期になると、事件が多発します。
その祭りには、神の子巡礼というものがあるのです。
「その子供は、神の子巡礼に出る予定はございまして?」
「いえ、本人に聞いても何も言わないので、手続きをしておりません」
「そう」
これもダメですか。しかし、本当に不自然です。
緊急レベル2くらいでしょうか。少し早めに動いた方が良さそうです。
私は一度食堂へ戻ります。すると奴隷商がついてきました。
なんでついてきたのでしょう。用事は済んだと思いますが……。
「お初にお目にかかります。メイリーン伯爵様」
「誰だ?」
「奴隷商をしております。フィンラン・ノーツと言うものです」
「ふむ」
この奴隷商はフォンランというのですね。
ただの男性だと思いましたが、そうでもないようです。
その後フィンランは、レオナントお父様とお話しされました。
これは、きっと私とレイランに子供ができるという布石でしょうか。
それができたなら、朝が大変になりますね。
覚悟はできていますので、大丈夫ですが……。
子供も欲しかったのですよ。痛い思いをせずに養子がもらえるなら問題ないです。
「無理だ……。賛同しかねる」
でしょうね。私のお父様は頭が固いです。
大岩よりも鉄よりも固いかもしれません。
この牙城はしっかりと照明しない限り不可能なのです。
困りましたね。もし子供を救ったとしても、預かる場所がありません。
一時的なら許してもらえますでしょうか。
「お父様。もしかしたら、その子供は檻が怖いのかもしれないわ。一時的にでも預かれないかしら?」
「一時的……か……。他の里親が見つかるまでなら可能とする」
「ありがとうございます。お父様。レイラン。食べ終わったら探しに行くわよ。ルイス兄様も一緒に」
私の指示で、レイランと兄様が頷きます。
私がアリスを指名しなかったのは、単に嫌いなだけです。
放っておいても勝手についてくるでしょう。
そうなったら、私がしっかりと引き離せばいいでしょう。
これでも走るのは速いのですよ。脚には自信があります。
「食べ終わりました。ちなみにですが、その子供はどんな見た目なんですか?」
「女児で赤毛。身長はそうね……レイランの腰のあたりから数センチ上。胸のあたりに頭が来る感じかしら?」
「なるほどです。ありがとうございます」
「では、顔を洗ってきなさい。捜索を開始するわよ」
私の号令で、レイランは洗面所に移動します。
私も一緒に行って、二人で洗顔をしてから行動スタート。
もっと人がいればいいのですが、相手は話せないことから人見知りでしょう。
知らない人がわんさか現れれば、逃げるかもしれません。
子供は大人よりも逃げ足は速いのです。
そうなったら、危険にさらす可能性だってあります。
ということで、街へ出ました。本格的に始動します。
「ルイス兄様はあちらの方を、私とレイランは一緒に」
「了解した」
「はい! アリアナさん!」
ふと後ろを振り向きます。そこには、メイド服姿のアリスがいました。
彼女の髪は茶髪。この世界ではオーソドックスな髪色です。
腰丈まで伸びた髪は、三つ編みにして流してますね。
私があのような姿をしたら、性格に合わない見た目となるでしょう。
正直邪魔で嫌です。髪なんて、短いが正義だとまで思っています、
「アリスさん。変な動きはしないでもらえるから?」
「チッ」
あらあら、舌打ちですか。可愛い容貌に反して心が穢れてますね。
強さでは私の方が上です。これは、こちらが引いた方が良さそうです。
私はレイランの手を引きます。街の地図は全部頭に入っているので、迷子にはなりません。
そして、今の私たちには神の麻袋があります。
洗顔後レイランが部屋へ走っていった時は驚きました。
それくらい大切にしているものなのでしょう。
大切なものは一生ついてきます。それは物でも人でも同様です。
しっかりと面倒を見てあげれば、しっかりと懐いてきます。
失うと、とても悲しい空虚へ沈むくらいに……。
「アリアナさん。あそこ見てください」
「なんでしょう?」
レイランが何かに気づいたようです。
それはそうとして、私たちは運河に来ていたみたいですね。
このアリストラ王国は、運河を境に4つに分かれています。
必ずそこには柵が設置されているのですが、ここはどうやらなさそうな感じ。
改めてレイランが指さした方を見てみましょう。
そこには、八歳くらいの赤毛の少女が運河の水に浮いています。
目算では、奴隷商が指定した見た目と一致しますね。
きっと橋から落下してしまったのでしょう。
それでも、しっかり水難時の行動がとれています。
顔を上にして肺を浮袋にさせる。お見事ですね。
「早く助けましょう!」
「ええ。ここも私に任せなさい」
「アリアナさん、頑張ってください!」
私はアリスに替えの衣類をお願いしました。
下着姿になると、運河に飛び込みます。
幅が広い分流れは穏やかなので、流されることはありませんが。
しかし、今は秋です。水も冷たくなっています。
少女を抱き上げ、そのまま勢いをつけて壁際へ。
そこから、壁を上っていきます。服を脱いで正解でしたね。
片手で少女を抱え橋のヘリを掴むと、振り子の原理で半回転。
無事に着地できました。ちょうどアリスが来たので、私は着替えます。
子供の方はアリスにお願いしました。水気を取って、できるだけ温かい場所へ。
呼吸しているのを確認すると、屋敷に向かいます。
しかし、何やら騒がしいですね。なにかあったのでしょうか。
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