前哨戦
勇者は観察を続けた。
ここにいるのは、所属こそ違えど、皆戦士だった。いや、兵士だ。死ぬ覚悟もなくこの場に立っているとは思えなかった。
見たくもない死ではある。だが、今は割り切るしかない。ここで目を逸らせば、次に死ぬ数が増えるだけだ。
勇者は一体一体の癖――いや、特徴を見始めていた。
蹂躙された兵士たちも、ようやく反撃を始める。反撃と言っても、ただ撃ちまくるだけだ。すぐに弾は尽きるだろう。それでも、そのわずかな時間で見えるものがある。
「一体は回避が上手い。もう一体はその場に留まって蹂躙している。さらに別の一体は……追い込みながら殺しているようだ」
勇者は独り言のように、だが周囲へ届くように言った。
「そして最後の一体、あれは質が違う。あれは別格だろう」
短い沈黙。
「では、儂がその蹂躙している個体をやろう」
老軍人が言った。
「なら私は、その追い込んでる個体をやるわ」
鋭い目の女が言う。
「留まるなら測れる。測れれば破壊できる」
研究者がタブレットを握り直した。
「最後の一体は私がやろう。勇者、協力してくれ」
聖職者めいた男が静かに言った。
勇者は一瞬だけ全員を見た。
「……いいのか?」
返事はひとりずつではなかった。全員が黙って首を縦に振ると、勇者はすぐに踵を返した。迷っている時間はなかった。異物は今この瞬間も、別々の戦域で兵を裂き、潰し、追い立て、殺し続けている。
各々が引き連れるのは十人。数としてはあまりに少ない。だが、それでよかった。
必要なのは大軍ではない。命令を聞いてから考える兵ではなく、命令の半分で意図を読む兵。恐怖で止まらず、なおかつ勝手に暴走もしない兵。死地へ踏み込む覚悟を持ち、それでも自分の役割を手放さない兵。彼らはその意味での精鋭だった。
老軍人が連れていくのは、砲火の下でも隊列を崩さぬ兵たちだった。短い号令で動き、遮蔽物の使い方を知り、引くべき時に引ける者たち。蹂躙個体を受け止めるには、まずこちらが崩れないことが重要だ。そのための十人だった。
鋭い目の女に続くのは、足の速い者ではない。速さの使い方を知る者たちだった。追い込み個体に対して必要なのは、逃げ足ではなく、追われながら隊形を崩さぬ冷静さだ。彼女の十人は、視線で合図を理解し、角を曲がる一歩まで合わせられる兵たちだった。
研究者の周りに集まった十人は、兵士というより半ば作業員に近かった。機材を運び、測定器を守り、指示された一点を正確に維持する者たち。留まる個体を相手にするなら、必要なのは勇敢さだけではない。砲火の下でも持ち場を離れず、観測を成立させられる者たちだった。
聖職者めいた男が連れていく十人は、最も寡黙だった。近接で死地へ入り、合図ひとつで散り、また集まれる者たち。最後の一体は強い。だからこそ、声より先に動ける兵が要る。その十人は、誰ひとり武勇を口にしなかった。
勇者もまた、自分の十人を選んでいた。特別に強い者たちではない。一声で伏せ、一瞬の隙に撃ち、一歩遅れた仲間を見捨てず、それでも前へ出られる者たち。勇者に必要なのは、命令に従う兵ではない。活路が見えた瞬間、それが活路だと信じて飛び込める兵だった。
それぞれが十人の精鋭を引き連れ、別々の戦場へ駆け出した。
これから始まるのは、最後の戦いへ至る前哨戦だった。




