依存
『上層はそれを統制の乱れと見ました。現場は希望と見ました。AIは脅威と見ました』
『どれも間違いではありません。ですが、あの時もっとも速く広がったのは、命令ではなく確信だったのです。――まだ押し返せる、という』
案内人は、そこでふと目を閉じた。
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「思い当たることばかりだ」
男は独りごちた。
軍部の保守的思考。現場との温度差。度し難いその傲慢さ。それはこの地球でも、まったく変わらぬもののように思えた。
これほどの文明を持ち、これほどの文化を育んでいたはずのこの星は、いったい何によって衰退していったのか。
技術の限界か。資源の枯渇か。あるいは、もっとありふれた何か――変わるべき時に変われず、守るべきものより立場を守ろうとする、その鈍さだったのか。
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軍は、その英雄の働きによって空港戦を凌ぐことができた。
だが軍部は、空港の英雄を規律違反・命令違反で処分することを決めた。二階級降格。少尉だったその男は軍曹となり、それをきっかけに除隊した。
やらなければならない。動かなければならない。そう分かっていながら、動けない。そんな状態が、いったい何になるのか。
別に英雄願望があったわけではない。ただ、あの方――勇者のように、現場を凌ぎたかった。それだけが彼の希望だった。
だから彼は、現場調整官となるべく国家保安局の扉を叩いた。
国家保安局保全部現場調整課の職員たちにも、彼の空港での働きは届いていた。だが、軍部の圧力によって、彼の入局は認められなかった。
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男は人気のない搬送通路に立ち尽くしていた。
軍にも残れない。保安局にも入れない。それでも、前線はまだ燃えている。
どうすればいいのか分からなかった。
その時、足音がした。
振り向くと、そこにあの男がいた。現場では誰もが勇者と呼び始めている男。だが本人は、そんな呼び名が自分に貼りついていることすら意に介していない顔をしていた。
男は反射的に姿勢を正しかけた。だが軍籍のない今、それも滑稽に思えて途中で止めた。
勇者は彼の手の中の通知書を一瞥しただけで、だいたいを察したようだった。
「……行き場、なくしたか」
責めるでもなく、慰めるでもなく、ただ事実を読む声だった。
「はい」
それしか言えなかった。
短い沈黙のあと、勇者は壁際の古い戦域図へ目をやった。指先でひとつの地点を叩く。
「北西第六搬送域。あそこ、現場調整が足りてない」
男は思わず顔を上げる。
「ですが、自分はもう――」
「肩書きで人は流れない」
勇者はそれだけ言った。
「動けるやつがいれば、それで足りる」
男の喉が詰まった。感謝でも、忠誠でも、憧れでもない。もっと乱雑で、もっと切実な何かが胸の奥で熱を持った。
勇者はもう地図から目を離していた。
「7分でいい。全部を変えようとするな。活路だけ開け」
そう言って、彼は何事もなかったように去っていく。
男はその背を、長く見送った。
その日を境に、彼は別の戦場へ向かった。




