#40
(今帰ったところなんだけど!?)
これはつまり断らせないつもりだろう。全く勝手な人達だなぁ……
(断る時間も勿体ないな……)
こちらがうんと言うまで帰らないつもりだろう。何か助ける気が急に失せてきたよ……
「どうしよう、イド?」
「そうだね……」
俺はリタに自分の考えを説明した。あ、イドって言うのは俺の偽名だ。
「確かに……それしかないね」
「お客様! イド様! 皆様をお通ししてもよろしいですか!?」
女将の悲鳴がドアの外から響いてくる。どうやら限界みたいだ。
「今出ます」
俺達は荷物を持つとドアを開けた。
「イド様、私冒険者ギルドの──」
「商業ギルドの使──」
「どけっ、俺はスミス様の──」
ドアを開けた途端、我先にと七〜八人の男が俺達に詰め寄って来た。しかも……
「どけっ、邪魔だ!」
「お前が邪魔だ! 俺の主人の方が先だ!」
「何だと! ギルドに楯突くつもりか!」
押し寄せてきた男達は今度は喧嘩を始める始末。やれやれ、どうしようもないな。
(この間にも鬼人達は辛い思いをしてるってのにな……)
それは勿論彼らには知る由もないことだけどね……
「落ち着いて下さい。お話は聞いています。ですか、まだどの方のお話をお受けするかは決めかねています」
「でしたら、まず我が主の依頼を! どの依頼よりも報酬が高いはずです!」
「ふざけるな! ギルドの依頼が先だ! ギルドの評価以上に価値があるものなんてあるか!」
やれやれ、また喧嘩か……
(決めかねてるって言うか、どれも似たり寄ったりだけどね)
どの依頼も欲しい物と報酬が違うくらい。けど、金品は俺にとってあまり意味がない。貨幣は〈等価交換〉で一応アルに変えられるのだが……
(価値は使われている金属の価値と同じなんだよね)
つまり、金貨や銀貨を貰っても同じ重さの金や銀と変わらないのだ。それにそうすると色々と問題もあって……
「聞いてください。ですので今ここで決めたいと思います」
「「「「「「「っ!!!」」」」」」」
罵り合っていた皆が静かになった。
「このクジを引いて皆さんの依頼を受ける順番を決めます。」
俺が出したのはさっき紙に書いたあみだくじだ。折って隠した先には数字が書いてある。線を引きまくったから俺にもどれがどれだか分からないけど……
「どなたから引かれますか?」
「「「「「「「……」」」」」」」
さっきまで罵り合っていた男達は顔を見合わせる。互いに牽制し合ってるんだ。
「勿論、更に線を書き加えて頂いても構いませんよ」
「「「「「「「っ!!!」」」」」」」
男達の目の色が更に変わった。何番目に線をどこに何本書き加えるのか……考えたって分かりようがないけど、この男達は考えるのを止めることは出来ないだろう。
「俺達は明日の準備をして来ます。戻るまでに決めておいてください」
そう言って俺とリタはその場を後にしたが、男達は誰も引き止めなかった。だって、今はそれどころじゃないからな。
「上手く行ったね!」
「だな」
無事に宿を出た後、笑顔を浮かべるリタに俺はそう言って頷いた。
「でも、何でクジにしたの? 後で確認しに行かなきゃいけなくなるけど」
「あの場でどの依頼を受けるか決めても絶対に揉めただろうからね」
男達は自分の主人の依頼を受けさせようと必死だ。恐らくあの場で誰を選んでもすんなりとはいかなかっただろう。
(だが、俺やリタ以外の何かがその鍵を握っていたとしたら、意識はそっちに行くはずだ)
ちなみに誰の依頼を受けるのかではなく、受ける順番を決めるのも面倒事を避けるためだ。多分、やるというまで彼らは離してはくれないだろうが、順番にやると言えば納得するだろう。
(順番に不満があるのなら彼らで決めて貰えば良い。どの依頼も俺にとってはあまり変わりがないからな)
どうせ〈等価交換〉があればどの依頼も一瞬で終わるんだし。
「シンシアや鬼人達が心配だ。急ごう」
「うん!」
俺達は急いでスグルドから出ると、鬼人達がいる森へと向かった。
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