#37
「長老から真言は預かってる。勿論、伏魔の森に着くまで使うなって言われてるけど」
真言とは鬼人族の仮面を開くための鍵だ。本来族長かそれに次ぐ立場の鬼人にしか知らされないものだが……
(鬼人達が死んだのは魔族のせいじゃないのかも知れないな)
これまで俺は鬼人達が魔族と戦って全滅するんだと思っていた。だが、このユーリという鬼人が仮面を開くというのなら……もしかしたら死ぬのはそのせいかも知れない。
(鬼人の仮面は資格ある者が使えば爆発的な力を与えてくれる)
けど、代償もある。仮面の使用中は身体機能の一部が制限される(ちなみに一番多いのは喋れなくなることだ)が、その代わりに戦闘力が飛躍的に高まる。鬼人の仮面を開くという行為はそれをさらに加速させる行為だ。つまり……
「……だめ」
リタのつぶやきは小さかった。が、その場の皆はその声を耳にした。
「そんなのだめ。絶対だめ……」
リタの声が次第に大きく、強くなる……
「何かのために死んでもいいなんて絶対だめ……そんなの間違ってる!」
「そうだな……でも俺はもう止まらない。だって、俺は皆の命を預かってるんだから」
恐らく鬼人達は自分達の命を犠牲にしてユーリをここまで進ませたのだろう。だとしたら、ここで立ち止まる訳には行かない。
(それは仲間の命を無駄にするのと同じだからだな)
でも……
「だからだよ! だから、あなたは他の人の日常を壊せるんだ!」
自分や仲間の命を他の何かと引き換えに出来るからそんなことが出来るんだろう。だが……
「あなた達がどんな使命を持っているかなんて知らない! 知りたくもない! でも、それが何でも仲間やあなたの命を捨ててまで成し遂げようとするなんて間違ってる! だって……」
そうだ……そうなんだ……
「あなたもあなたの仲間も代わりなんていないんだよ……」
鬼人達の覚悟を軽んじるつもりはない。だが、それでも……
「あなた達がいなくなったら、友達や家族はずっと忘れない、ずっと悲しむ。それがどんなに辛いことなのか本当に分かってるの!?」
「確かにな。他種族に迷惑をかけた上、身内まで悲しませてまでするなんて間違ってるのかもしろないな」
ユーリは静かにそう呟いた。
「だが、ここで止めたら全てが無駄だ。幸いここからかけるのは俺の命だけ。なら、せめて最後まで」
「させない。させないよ!」
リタはユーリに指を突きつけた。
「死んでも目的を遂げるなんて許さない! 自分達と他人の命を軽く見たこと、生きてちゃんと謝ってもらうから!」
※
それから俺達はユーリの仲間の鬼人達がいる場所へと向かい、シンシアのスキルと〈等価交換〉で出したポーションで治療した。
「ポーションです。飲んで下さい」
「う………」
知らない奴らからの治療なんて抵抗されるかと思ったが、そんな心配は全くいらなかった。何故なら鬼人達は身動き出来ないところか、口もろくにきけない者が多かったからだ。
「ユーリ、我々のことはいいから早く行け」
「それが命の恩人から治療が終わらないと森には入れないって言われちゃって……」
喋れる鬼人も数人いたが、ユーリがこう説明するとそれ以上もう何も言わなかった。単に問答をする力がないって言うのもあるだろうが、鬼人達にとって命の恩人というのはかなり重い意味があるらしい。
(しかし、酷いな……)
鬼人達は生きてるのが不思議なくらいの状態だ。ポーションやシンシアのスキルによる治療でマシにはなったが、それでも意識があるのは数人しかいない。
(しばらく治療するして様子を見るしかないか……)
鬼人達を村に運びたいところだが、今の状態では彼らを動かす訳には行かない。
(それに動かせるようになったとしても、どうやって運んだら良いのか……)
今いる鬼人達は十数人といったところだが、まさか担いで村まで運ぶわけにはいかない。村の皆が手伝ってくれたとしてもせめて伏魔の森までは連れていかないと行けないだろう。
「そろそろ戻らないとスグルドに入れなくなっちゃうね」
そろそろ日も暮れる。ここを離れるのは心配だが、宿に戻らないと怪しまれるかも知れない。今は外から人が来るのは珍しいと蒼風の爪の皆も言ってたし、目立ってるだろうしな……
「もう十分過ぎるくらい助けてもらった。ここは大丈夫だ。この恩、必ず返してみせる」
ユーリが再び土下座しようとするのを止め、俺達は朝にまた来ると告げ、スグルドに向かった。
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