#36
「ユーリ、顔を上げて。ほら」
シンシアがそう言って奴の面をとり、シチューが入ったお椀を差し出した。
ゴクンッ!
お椀を受け取った鬼人は凄まじい速度でそれを飲む。そして……
「%$&@#ッ!!!」
苦しそうに地面をのたうち回る。多分急に飲んだから喉が熱くて苦しいんだろう。それとも何かを詰まらせたか……
「大丈夫。おかわりはあるからゆっくり食べて」
シンシアに言われて鬼人はふぅふぅとシチューを冷ましながら二杯目を食べ始める。一体何なんだ?
「お〜い、そんなところでどうしたんだ?」
「声がしたけどどうした?」
蒼風の爪の声だ!
(とりあえず彼らに鬼人を見られる訳には行かないな……)
さて、どうしたものか……
※
(この辺りで待っててとシンシアが伝えたはずだけど……)
俺達は蒼風の爪とスグルドに入った後、鬼人と別れた場所に向かった。
(あ、いた!)
鬼人はユーリという名でシンシアとはちょっとした知り合いらしい。何でも鬼人達の中で一番歳が近かったとか。
「ユーリ、大丈夫?」
「ああ。また助けられたな、シンシア」
食事を摂った後、シンシアの簡単な治療を受けたおかげでユーリの顔色はかなり良くなった。が……
(これが病気……いや呪いか)
ユーリの額にある禍々しい印。あれは間違いなく呪いだ。恐らくあれが鬼人達を弱らせているんだろう。
「あと、あなた達は命の恩人です。感謝させて下さい」
ユーリは俺達に向かって土下座しようと身を屈めた。が……
「痛たたッ!」
「駄目だよ、ユーリ!」
痛みでうずくまるユーリにシンシアが慌てて駆け寄り治療する。彼女のスキルでは体力を戻すことは出来ても呪いを解くことは出来ないからな。
「申し訳ない。土下座は体調が戻ってからにさせて下さい」
「いや、土下座はいいよ」
俺がそう言うとユーリは凄まじい勢いで首を振った。
「そう言う訳には行きません。本来なら今すぐにでも……痛たたたッ!」
「もうッ! 無理しないで! ほら、見せて」
シンシアがユーリが着ていた鎧を脱がせていくと……
「……ッ!」
鎧の下から現れたユーリの肌を見たリタが悲鳴を上げる。
(これは酷いな)
ユーリの身体のあちこちに額と同じ禍々しい印が浮かび、その周囲の肌は焼け爛れたようになっている。これじゃ満足に動けるはずがない。
「朝治療したはずなのにもうこんなに……進行が大分早まってる」
「俺なんか大分ましな方さ。身動き出来なかったり、水も飲めなかったりする仲間もいるからな」
「ひ……酷い。何でこんな……」
リタが顔を引きつらせながら悲鳴を漏らす。確かに酷い。酷すぎる……
「俺達がここに来るまでにしたことを考えたら仕方ないって気もするが……それでも俺達は行かなきゃいけないとこがある」
「あなた達の目的は一体何? 何でここまで……」
シンシアが尋ねると、ユーリは静かに答えた。
「俺達はある場所に行かなきゃ行けない。そこに行って守らなきゃいけないんだ。魔族から」
「「魔族!?」」
リタとシンシアが驚いた声を上げる。魔族はもう百年はこの世界に現れていない種族で今は僅かな記録やおとぎ話の中にしか存在しない。正直、ほとんどの人がその存在さえ信じていないんだけど……
(それでも奴らは来る。それも後数週間で……)
俺が知る原作知識では数週間後に魔族がこの地を滅ぼすが、伏魔の森だけは残る。それは鬼人達が魔族から守り切るからだ。
(彼らは何者からか伏魔の森を魔族から守るように啓示を受けたらしいけど……一体伏魔の森に何があるんだ?)
残念ながらそれは分からない。だが、一つだけ分かることがある。原作通りなら鬼人達は魔族との戦いで全員死んでしまう。今目の前にいるユーリという鬼人も含めて……
「君は一人でも行くつもりか?」
「ああ。動ける仲間はもういない」
ユーリが一人でここにいる理由は他の仲間がもう動けないからだろう。ということは他の鬼人は既に……
「でも、あなた一人でたどり着けたとしてもそれでどうするの? それよりも治療を……」
「だが、それでもいい。俺が戦って守りきれば皆が報われる。そのための力も預かってきてるからな」
……
「……仮面を開くつもりか」
「!?」
俺がそう言うとユーリは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに頷いた。
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