#30
「……ああ、兄様」
途中で止めると”まだ兄様成分が足りません“とか言って怒られるからな……好きにさせておこう。
「兄様……兄様……」
「よしよし……」
俺はシンシアの頭をポンポンと叩く。こうするとシンシアの言う“兄様成分”とやらの補充が早まるらしいのだ。
「兄様、久しぶりに一緒にお風──」
「ちょっと待った!」
シンシアが何か言いかけたその時、リタが大きな声を出した。
「ちょっと! 二人は兄妹なんでしょ!? 色々おかしいよ!」
「「え?」」
予想外の言葉に思わず声が重なった。
「どこがおかしいんだ?」
「どこって……全部おかしいよ! 兄と妹にしては距離が近すぎるでしょ!」
……そうかな?
「しかもシンシア、今何て言おうとしたの!?」
「兄様と一緒にお風──」
「駄目に決まってるでしょ! シンシアは女の子なんだから!」
リタにそう言われてシンシアは首を傾げた。
「兄様だけですよ?」
「お兄さんでも駄目! というか、お兄さんだから駄目なの!」
まあ確かに。いや、でもシンシアに悪気はなくて……
「待て待て。それよりもまず話すべきことがあるじゃろ」
俺とシンシアが何かを言う前にオーレリアが姿を現した。
「シンシアと言ったか? そなた、何故ここへ? いや、それよりも鬼人の面を被っていたのは何故何じゃ?」
……確かにそっちの方が先かも知れない。
「ここには兄様を追って来ました。それは多分お分かり頂けると思います」
「まあ、そうじゃな」
「……さらっと言うけど、この魔物だらけの伏魔の森に一人で来るって普通のことじゃないからね」
シンシアとオーレリアに思わずリタが突っ込む。まあ、確かにその通りだ。
「お面はウェルズリー家を出て会った鬼人からお礼に貰いました。治療のお礼だって」
治療のお礼、そう言うことか。でも、何で鬼人がウェルズリー家の領地にいるんだ?
「鬼人を治療……そなたがか?」
「シンシアは回復系のスキルを持ってるんだ」
魔物がいたるところにいるこの世の中、回復系スキルはどこに行っても重宝される。だからシンシアがスキルを授かった時、父さんはめちゃくちゃ喜んでたな。
「鬼人達は病気にかかってるみたいでしたが、町に薬を買いに行くわけには行かなくて困ってて……でも、私のスキルじゃ症状を和らげることしか出来なかったんですけど」
鬼人が人の町に現れたら大騒ぎだろうからな……
(でも、それが分かってても人に近づこうとした。相当困ってるんだな)
見知らぬ種族の危機……関係ないはずの出来事だが、何か引っかかる。
(あとちょっと、あとちょっとで何か分かりそうな気がする……)
その思いには何の根拠もないが、何故か俺には確信めいた思いがあった。あたかも目の前の扉を開く鍵が少しずつ完成に近づいていくような……
「鬼人達は私達を村から追い出してからそこに住まずに伏魔の森まで来た? 一体何が目的なの?」
「鬼人が元の住処から離れてここまで来た理由……ううむ、想像がつかんのぅ」
オーレリアがそう言って首をひねる。確かにおかしい。鬼人が住処を捨ててまで欲しがるようなものがここにあるって言うのか?
「そう言えば、鬼人と戦ったお父さんは最初何か変だって言ってた」
「変じゃと?」
「うん。確か”おとなし過ぎる”って言ってたと思う。村長も逃げるときに“鬼人と戦って誰も死ななかったなんて奇跡だ”って」
それは勿論リタのお父さんを初めとするソウザ族の獣人達が勇敢に戦ったからだろう。けど、確かに武器を持って戦い、誰も死んでないって言うのは普通じゃないな。
「シンシア、鬼人達の治療をしたって言ってたけど、彼らはどんな状態だったんだ?」
「どんな状態って、戦いで怪我を負ってたんじゃないのかの?」
まあ、普通に考えればオーレリアの言う通りなんだろうが……
「鬼人達の傷は戦いによるものではないと思います。あれは恐らく病気か呪いです」
なっ……
(そう言えば、リタは村の人の病気を治すための癒し草を探しに伏魔の森に来たんだったな)
つまり、鬼人との戦いで彼らの病気(もしくは呪い)が伝染ったってことだ。
(でも、鬼人達は何でそんなものにかかったんだ?)
俺がそう考えたその時……
いつも読んで頂きありがとうございます!
次話も頑張って書くのでよろしくお願いします!




