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可能性の選択  作者: 桃鍋
最終幕
60/62

幕引 残したもの

海月視点、幕引き

『海月へ

 海月がこの手紙を読んでいる時、僕はおそらく無事じゃないんだろうね。まずは一人にしてしまったこと、本当にゴメン。もしかしたら、また塞ぎ込んでしまうかもしれないと思うと、胸が痛いよ。でも、そんなことにならないって、僕は知ってるよ。

 僕の力に巻き込まれて、セレクターの全てを知覚できるようになってから、海月は本当に強くなったと思うよ。虐められて、家族以外誰も信用出来なくなっていたのに、翔や明香里先輩と交流して、いつしか海月は一人で行動することができるようになった。人の家に遊びに行って、お泊まりすることもできた。歳は違うけど、そんな素敵な友人を作ることができた。

 なら、もう大丈夫。僕がいなくなっても、海月はちゃんと一人で歩くことができる。自分の世界を、その足で広げることができる。つまり、まだまだ無限の可能性を選択することができるんだ。だから、僕がいなくなっても、どうか幸せな人生を送ってね。約束だよ。

 海月、僕は何があっても海月のことを見守り、幸せを願ってるからね。  陽太より』

 部屋の片付けをしていたら、お兄からの最後の手紙を見つけた。お兄の部屋から偶然見つけた、私の宝物。そっか……お兄がいなくなってから、もう10年が経つんだ。

 爆発事故が無かったことになったあの日、セレクターを知覚することができる私以外、お兄のことを覚えてる人は一人もいなくなった。お兄がいなくなる瞬間、激しい目眩とともに視界が真っ白に染まった。光が収まり目を開けると、凄惨だったあの現場は何事も無かったように日常が流れていた。呆然としていた私のことを、椎名さんと天川さんが介抱してくれたんだ。不思議なことに、お兄がいないから接点はないはずだった私と椎名さん、そして天川さんは別の理由で知り合ったことになっていた。どうやら、当時17歳だった私がオープンキャンパスでお兄のいた大学に行き、たまたま私のことを気に入った椎名さんが、オカ研の部室に連れて行ったことになっていたらしい。お兄がいたアパートも、その経緯を聞いたママが私のために椎名さんたちの近くで一人立ちできるようにと、借りてくれたことになっていた。全部が全部無かったことにはならずに、ちゃんと辻褄が合うようになってたのは、もしかしてお兄がそういう風に世界を書き換えたからなのかな?でもね、二人は確かにお兄のことは覚えていないんだけど、心の中から完全にいなくなることは出来なかったみたい。

 椎名さんは元々すっごい美人だったけど、今では世界を代表するトップモデルになっている。相変わらず目のクマは凄いけど、椎名さんはそれを武器にしてドンドン輝いていった。あの日を境に、自分の魅力を表現できる自信を持てたみたい。きっとお兄は、椎名さんに自分を認めてあげる勇気を与えてたんだね。

 天川さんは大学を卒業後、NPO法人を立ち上げて世界中を飛び回っている。特に、発展途上国の恵まれない子供たちを支援する活動をしている。その功績が認められて、数ヶ月前にノーベル平和賞を受賞していたんだよ。きっと、誰にでも手を差し伸べて助けてしまうお兄の姿が、天川さんの心に残っているんだね。

 そして私も――――――その時、ガチャッと扉が開く音がし振り返った。

「ママ〜、何してるの〜?それ何〜?」

 そこには3歳になった私の可愛い息子、光希こうきがいた。私の元に駆け寄ってきて手元の手紙を覗き込む。

「ん〜?お手紙?誰からのお手紙なの?」

「フフ、これはね、ママの大切な…………ママのたった一人のヒーローからのお手紙なんだよ。」

 お兄がいなくなって、また引きこもりそうだった私は、たまたまアパートの部屋からこの手紙を見つけた。読んでから数日はずっと泣いてばかりだった。けど、それじゃあお兄を安心させられないって思って、全力で幸せになれるよう頑張ったんだ。そして初めて好きな人が出来て、結婚して子供も生まれて、私は今最高に幸せな人生を送ってる。もう、お兄の背中に隠れているだけの女の子じゃない。自分の道を見つけて、ちゃんと歩き出せているんだから。

「さっ、お片付けもキリのいいところまで終わったし、ママと一緒にお買い物に行こっか!」

「え、本当!?行く行くー!ねぇママ、お菓子も買っていい?」

「ダーメ。あんたこの前パパにお菓子買ってもらったこと、ママ知ってるんだからね!」

「げー!なんで知ってるの!?」

「当たり前でしょ?ほら、ママ準備するから先に玄関の方で待ってて。」

「はーい。」

 光希はそうして部屋から駆け足で出ていく。さて、私も準備をして追いかけなくちゃ。ふとその時、窓からそよ風が吹き込んできてカーテンが揺れる。一瞬だけカーテンの向こうに人影が見えたような気がした。あの時のお兄に似た人影が。

「お兄……?」

 人影はもういない。久しぶりにお兄の手紙を読んだから、センチになって見えた幻だったのかな?…………いや、きっとお兄が本当に見に来てくれたんだろうな。手紙にも見守ってるって書いていたし。本当、そういうところは変わってないんだから。自然と笑顔になっていた私は、独り言のように窓に向けて言葉をかける。

「お兄。お兄が私の世界を広げてくれたから、今の私があるよ。塞ぎ込んでいた私に、幸せになる権利をくれたんだよ。ありがとう、お兄。私は今とっても幸せだよ。」

 聞こえたかな?聞こえてるといいな。フフッと笑いながら私は玄関で待っている光希の元に向かう。

「ゴメンゴメン、お待たせ。」

「もう!遅いよママ!ほら、早く行こ!」

 光希の手を取り玄関を出る。扉の先にあった空には雲一つない、遠くの虹が見渡せるような、幸せが舞い込んでくるような綺麗な青空だった。

次回エピローグです。

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