表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鈴蘭の魔女の代替り  作者: 拝詩ルルー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

455/480

ドラゴンスレイヤー1

「……それで、王国騎士様全員を私が指導することは、難しいかなと……」


 レイは、難しい顔をして言った。

 向かいのソファに座るテオドールも、小さく相槌を打つ。


 レイは自分の研究について、上司であるテオドールに相談しに来ていた。


 ドラゴニア王立特殊魔術研究所──通称「黒の塔」の所長室にある応接スペースでは、レイの向かいにテオドールが座り、彼の隣には護衛役のライデッカーがだらしなく背もたれに寄りかかって話を聞いていた。


 レイは研究の一環で、微弱な魔力しか持たなかった王国騎士たちを、身体強化魔術が使えるまでに導いたのだが、その結果、彼女の魔術指導を受けたい王国騎士が殺到することになったのだ──今まで魔術が使えなかった仲間が、身体強化ができるようになり、実務でも活躍している姿を見せつけられる──「自分も是非!」と期待して、教えを乞う者が後を絶たないのだ。


(……一番最初の身体強化が使えるようになるまでは、確かに私が担当した方がいいと思う。でも、ある程度身体強化が使えるようになった人や、他の魔術も覚えたいって人にまでは対処できないし……)


「むぅ……人手が足りない……」


 レイは腕を組み、「うぅむ……」と唸った。


 黒の塔の魔術師の本分は、研究者だ。魔術教育を専門分野にしているならまだしも、研究以外の魔術指導にまで時間をとられすぎるのは、あまりよろしくなかった。


「エヴァに頼んでみるか?」

「……でも、エヴァにはエヴァの研究がありますし、第四王子殿下の魔術指導もありますよね?」


 ライデッカーに軽く訊かれ、レイはへにょりと眉を下げた。


 エヴァは魔術教育の研究をしているが、それは育ちきった大人ではなく、主に成長中の子供

が対象だ。それに、彼女自身の研究以外にも、週に数回、第四王子に魔術を教えるために王宮に通っている。


「黒の塔で他に魔術指導ができそうな人物は…………残念ながら、いないな」


 テオドールは、部下を順番に思い浮かべていった結果、薄らと眉間に皺を寄せた。


「どいつもこいつもクセが強いからな。それに、相手が人間で、しかも元が魔力の扱いもままならない生徒なら、話すら通じない可能性もあるだろ」


 ライデッカーもあっけらかんと言い放つ。


「こういったことは、むしろ王宮魔術師団の方が人材が揃っているのだろうが……」


 テオドールの呟きに、レイは思わず遠い目になった。


(……王宮魔術師団……)


 先日見合いをした、王宮魔術師団長イリアスの顔が思い浮かんだのだ。研究対象モルモットにされたような気分になり、反射的にぷるりと小さく震える。


「そういや、最近王国騎士たちの間でドラゴンスレイヤーの噂が流れてるって聞いたんだけど、レイちゃん、何か聞いてる?」

「ドラゴンスレイヤー、ですか?」


 不意にライデッカーが話題を変えてきて、レイは目を瞬かせた。


「そ。竜にとどめを刺して倒した武器のことだよ。ドラゴンスレイヤーって、竜族にとっては天敵みたいなもんなんだ。殴られるとすごく痛いし、気味が悪いし、傷の治りは遅いし……」

「ライデッカーは、ドラゴンスレイヤーで攻撃されたことがあるんですか?」


 やけに嫌そうな顔で具体的に説明してくるライデッカーに、レイはきょとんとして素直に尋ねた。


「…………まぁ、とにかく、そんな不吉な武器があるなら、どこにあるのか知っておきたいんだよね。ほら! テオだって、ドラゴンスレイヤーで斬りつけられたら大変だろう!?」


 ライデッカーは誤魔化すように、テオドールに話を振った。


「……ドラゴンスレイヤーで、王族が怪我を負わされたと聞いたことはないが……火竜の血が流れている以上、何も影響がないとは言い切れないな」


 テオドールは顎先に指を添えて少し考えると、肯定も否定もしなかった。


「う~ん、ニールなら何か知ってるかも?」

「わっ、わざわざ黒竜王様のお手を煩わせなくても……!」


 レイが小首を傾げると、ライデッカーはいきなり慌てだした。


「ドラゴンスレイヤーって、剣だけじゃないですよね?」

「そうだね」


 レイが確認すると、ライデッカーが頷いた。


「それなら、たぶんジャスティンも持ってますよね?」

「へ?」

「何?」


 ライデッカーとテオドールの驚きの声が、綺麗に重なった。


「だって、黒っぽい竜にとどめを刺したのは、ジャスティンですよね?」

「あ」

「そういえば、そうだな……」


 その時、コンコンッと所長室の扉がノックされた。

 テオドールが反射的に「どうぞ」と答えると、ジャスティンが部屋に入って来た。


「失礼します」

「お。ちょうど良かった!」

「は?」


 ライデッカーがやけに明るく声をかけると、ジャスティンは怪訝そうに眉をひそめた。



***



「ドラゴンスレイヤー……これのことか?」


 ジャスティンは一人がけのソファに席を勧められ、断りきれずに腰を落ち着けた。

 ポンッと空間収納から、一振りの杖を取り出す。


 材質は黒鳶色の艶やかな木の杖で、持ち手には黒い漆が塗られていた。品の良い上等な魔術師の杖だ。


「あ、それです!」

「うげっ」


 レイは興味津々に身を乗り出し、ライデッカーはあからさまに青い顔をした。


「ドラゴンスレイヤーは倒した竜の力を宿すと聞くが、それは本当なのか?」

「確かに、地と風属性の魔術の威力は上がりました。ですが、それ以外の属性の魔術を使うと、杖が機嫌を損ねるようになり、かえって扱いが難しくなりました」


 テオドールの質問に、ジャスティンは淡々と答えた。


「杖がドラゴンスレイヤー化すると、そのような弊害が……」


 テオドールが感慨深く相槌を打つ。


「じゃあ、もうその杖は使ってないんですか?」


 レイは、ジャスティンの腰のホルダーに刺さっている新しい杖に目を留めて、質問した。


「そうだな。使い勝手も悪いし、新しい物も手に入れたから、そろそろ手放してもいいかと考えてるんだが……バレット商会はドラゴンスレイヤーの取り扱いはあるのか?」

「ニールに確認してみますね!」


 ジャスティンに訊かれ、レイはすぐさま通信の魔道具を取り出した。


 青く平べったい形状のそれに魔力を流すと、すぐに『レイ、どうした?』と優しげな応答があった。


「ニール、見てもらいたいドラゴンスレイヤーがあるんですが」

『何!? すぐに向かう! 場所は……』


 こうして、ニールは一時間とかからないうちに黒の塔に駆けつけたのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ