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鈴蘭の魔女の代替り  作者: 拝詩ルルー


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レイのお見合い8

 その日、レイは特殊魔術研究所──通称「黒の塔」の所長室に呼び出されていた。


 所長室で待っていたのは、頭痛を堪えるようにこめかみを押さえている所長のテオドール、やけに渋い表情をした副所長のジャロッド、そして護衛兼ソファの生き物ライデッカーだ。


「失礼します……みなさん、どうされたんですか?」


 入室して、いきなりの微妙な空気に、レイは目を瞬かせた。


「ブレイザー魔術師団長から、おかしな依頼がきてるんだか、見合いの席で何かあったのか?」


 ジャロッドが、なんとも言えない表情で尋ねてきた。


「おかしな依頼、ですか……?」


 レイはきょとんと訊き返した。

 イリアスとの見合いは一応つつがなく終了し、その場でプロポーズされたが、自分の身の危険を感じたため、お断りさせてもらっていた。


 全てを語る必要もないため、レイはかいつまんで説明した。


「そうですね……魔術師団長からは、この前の魔術研究報告会の内容について質問されました。例の微弱魔力の計測器をお見せして、無詠唱魔術と実演で披露した土壁と幻影魔術もお見せしました」


 レイの話を聞いていた三人は、「それだ!!」の顔になった。


「それが、ブレイザー魔術師団長から、レイ嬢に弟子入りしたいと申し出があったのだ……」

「ふぇ? 弟子入り???」


 テオドールが沈痛な面持ちで伝えると、レイはさらにきょとんとした。


「そもそも、なんで黒の塔(職場)経由での依頼なんだ? 直接会ったのなら、その場で確認すれば済むことだろう?」

「魔術師団長のお見合いの件は、その場でお断りしましたよ。延々と魔術の話をされて困ってしまったので……」


 ジャロッドに突っ込まれ、レイはキッパリと答えた。首も軽く左右に振る。


「あぁ……ブレイザー魔術師団長もやはり魔術師だったか。彼はまだ常識人の部類だと思っていたんだが……」


 ジャロッドは情けないものに想いを馳せるように、遠い目をした。


「それで、レイ嬢には弟子入りの件について検討しておいてもらいたい。それから、ブレイザー魔術師団長との縁談は断るとしても、ゲイル・ブレイザー侯爵令息の方も決まり次第教えてもらいたい。もし侯爵夫人になるというのであれば、いろいろと準備が必要になってくるだろう? 王国騎士団との研究や魔術指導の方も調整が必要になってくるだろう」


「分かりました」


 テオドールの説明に、レイはしっかりと頷いた。



 レイが所長室から退室しようとすると、後ろでジャロッドが「ブレイザー侯爵家は、かなり優良な嫁ぎ先だと思うんだけどなぁ……」とぼやいていた。


 テオドールとライデッカーは顔色も悪く、プルプルと首を横に振っていた。


(ゔぅっ……私は絶対に研究対象(モルモット)にはなりたくないんです……!)


 レイは決意を新たに、所長室を出て、扉を閉めたのだった。



***



「先方から断られたイリアスはともかく、ゲイル、お前も今回の縁談を断るのか?」


 父ファビアンは、ブレイザー家本邸のシガールームに息子たちを呼ぶと、不機嫌そうに尋ねた。交互に息子たちを見つめる。


「彼女自身は特段問題はありません。ただ……」

「ただ?」

()()()()()()()()()が気になりました」


 兄ゲイルが澄まして、キッパリと答えた。


「メーヴィス嬢の兄……商会長殿がですか?」


 弟のイリアスが、不思議そうに訊き返した。

 イリアスにとってバレット商会は、普段魔物素材を仕入れている取引先の一つだ。その商会長であるニール・バレットとは以前から面識があり、今まで何事もなく取引をしてきた。


 ゲイルの独特な言い回しに、ファビアンは考えを巡らすように、視線を落とした。


 ゲイルは聖鳳教会に勤めているため、人外の高位者について事情は話してある。ただ、兄弟のうちどちらが跡目を継ぐかは決めていなかっため、イリアスの方にはまだ伝えていなかった。


 ファビアンは、バレット商会の商会長が人外の高位者だとは知っていたが、教会勤めで人外者に慣れているゲイルなら大丈夫だと踏んでいたのだ。


「それに父上なら、メーヴィス嬢とルーファス大司教の噂はご存知だったはずでしょう?」


 ゲイルはさらに質問した。

 レイは教会内では、ルーファス大司教の婚約者候補の一人となっていた。


「噂は知っているが、事実ではない。ルーファス大司教は、彼女の庇護者の一人というだけだ」

「なるほど」


 ファビアンが断言すると、ゲイルが小さく頷いた。


 ゲイルがニール・バレットという人外の高位者に「自分には手に負えない」と難色を示したのならば、ファビアンもこれ以上は無理強いをすることはできなかった──下手に関わって不興を買えば、命を落とす可能性もあるからだ。


「見合いの件はこちらから伝えておく。……だがな、弟子入りの件については、こちらからは何も言わんからな! 自分でやれ、自分で!!」


 ファビアンはビシッとイリアスの方を指差すと、叱りつけた。


「ええ、すでにこちらから特殊魔術研究所の方にお願いしてますので、大丈夫です」


 父の怒りをものともせず、イリアスは綺麗に微笑み返した。


「くっ……、魔術についてだけは手を回すのが早いな……」


 ファビアンは苦々しく呟いた。その表情は「他の分野でも、このくらい動いてくれればいいものを!」とやけに悔しげだ。


「……イリアスは、彼女に弟子入りしたいのか?」


 ゲイルは、信じられないものを見るように、隣に座る弟を見つめた。


「黒の塔は魔術師のレベルが高いとは知ってましたが、まさかあそこまでとは思いませんでした! 魔力量も豊富ですし、何より魔力操作が上手い! 無詠唱魔術もすごいですが、そのまま属性切り替えも滑らかにできますし、おそらく複数属性を同時に使用することも可能なのでは? それに、魔術で構築した物に、別の魔術を貼り付けるなど……! そんなに繊細な魔力操作は、上級魔術師でもなかなかマネできることではありません! はぁ……是非とも王宮魔術師団の団員たちの見本になってもらいたいレベルです」


 立板に水が如く嬉々として語るイリアスに、ゲイルは「時に騎士より魔術師の方が命知らずだ……」とぼやいていた。




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