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鈴蘭の魔女の代替り  作者: 拝詩ルルー


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レイのお見合い5(ゲイル視点)

 今回、父から見合いの話をされた時は、「いつものことか」と憂鬱に思ったくらいだった。

 いつもの条件をあげ連ねれば、呆れて引き下がるだろうと、たかを括っていた──まさか、本当に条件に見合う女性を見つけてくるとは……!


 浄化の花という聖属性の最上位魔術を扱える女性は、俺は一人しか知らない──教会内で噂になっている、フェリクス・メーヴィス大司教の義娘だ。


 祝祭期間中の忙しい中、なぜか教会本部に呼ばれ、彼女と挨拶させられたが、まさかこの見合いのためだったとは……!


 メーヴィス大司教の義娘への溺愛っぷりは、噂でかねがね聞いていた。父はよく見合いを申し込めたなと、感心する程だ。


 それからもう一つ、彼女については、ルーファス大司教との噂もあった。

 見合いを申し込むことはできるだろうが、先方からは断られるだろうと、この時は思っていた。



***



 見合いの日、当日──この日になっても、本当に自分が見合いをするのだという実感が湧かなかった。まさか見合いの許可が下りるとも思ってもいなかったせいもある。


 メーヴィス大司教の宿舎は別格で、むしろ離宮と表現した方が正しいと感じられる程に立派だ。


 案内された庭園で待っていると、ルーファス大司教にエスコートされて彼女はやって来た──かなり面食らったが、やはり、メーヴィス大司教的にはこの見合いは断りたかったのだろう。だが、侯爵家に対してか、それとも長年教会に勤めてきたブレイザー家に対してか、とにかく顔は立ててくれるらしい。


 結果の決まりきった見合いに、胸のあたりが冷え込むような感覚があったが、社交だと思えば、まぁ納得できた。


 見合いは無難にこなして、やんわりと断りを入れるのが良さそうだ。



 まともに相対してみると、レイ・メーヴィス嬢は、普通の令嬢といった雰囲気だった。


 清楚で可愛らしく、女性にしては小柄で小さく見えた。

 こんなに小さな少女相手にお見合い……父は何を考えているんだとも思ったが、そもそも父と母も六十近く歳が離れている。それに比べたらマシかと思い直すことにした。


 黒髪黒目はこの国では珍しく、白い肌にくっきりと映えていた。涼やかな目元も、長く黒いまつ毛で縁取られていた。派手な印象はないが、綺麗に整った顔立ちだ。


 元平民だというが、マナーは良く、品もいい。


 よくある貴族の令嬢らしい、こちらを狙うようなギラギラした視線やプレッシャーは、特に感じられなかった。そこは好感が持てた。


 会話も、茶葉だとか刺繍だとか王都での流行りだとか、興味がないことを延々と話されるよりは、共通の仕事の話題を振ってもらえて助かった。


「可もなく、不可もなく」が、この時までの彼女の印象だった。



 模擬試合は、神官の訓練場を借りることになった。

 デレク騎士と先に訓練場で待っていると、聖騎士見習いの制服に身を包んだ彼女がやって来た。


 聖騎士見習いの制服は、初々しくてよく似合っていた。動きやすくするためか、髪型もポニーテールに変わっていた。


 彼女が小柄なせいか、祝祭期間中に教会内にあふれる幼い聖騎士見習いたちが思い出されて、微笑ましくも思えた。


……父の調査では、彼女は王国騎士とも対等に切り結んだと聞いたが、正直眉唾物だと思っていた。


 彼女の小柄で華奢な体格もそうだが、何より本職は黒の塔の魔術師だという。日常的に剣を扱っているようには見えなかった。


 小さな手は白いグローブに包まれていて、剣だこがあるかどうかも分からない。


 剣の模擬試合を堂々と受ける姿から、多少は剣の心得はあるのかもしれない、と推察できるくらいだった。


「はじめ!」


 デレク騎士の開始の合図で、彼女が一息に詰めて来た。


 まずは様子見と思って剣を受けてみたが、予想外に重くて鋭い。

 身体強化は使っているだろうが、それでも力や体格の割に鋭くてキレのある一撃だ。


 彼女の剣筋はまるで見本のように美しく整っていて、「これは期待できる」と思わせられる程だった。


 力も体力も足りない、おそらく剣での実戦の場数も足りていない──それなのに、まるで何十年も剣を振り続けてきたかのような筋の良さと鋭さ、ある種の美しさが感じられた。


 アンバランスなはずなのに、なぜか惹き込まれるようなものがあった。


「そこまで!」


 デレク騎士の一声で、楽しい時間は終わってしまった。


 試合後は、自然と彼女に握手を求めていた。

 彼女はだいぶ息が上がっていたが、快く応じてくれた。


 見合い自体は終わったが、正直、迷う気持ちが出てきた。


 ルーファス大司教が出てきた時点で、この見合いは断ろうと考えていた。だが、模擬試合は思いの外、楽しかった。見合いでの彼女の態度も会話も特に不快なことはなく、これきりで終わりにしてしまうのは勿体ないと感じていた。


 父にはこのまま話を進めてくれとお願いするかどうか考えている時だった──


「ニール!? 来てくれたんですか!?」


 訓練場の出入り口に向かおうとする彼女が、驚いた声をあげた。


 そちらに視線を向けると、艶やかな黒髪に色鮮やかな黄金色の瞳をした麗人が、彼女を迎えに来ていた。

 同じ髪色をしているから、家族だろうか?

 それにしては……


 ふとデレク騎士の方を見てみると、緊張で強張った表情をされていた。

 やはり、そうか。


 教会上層部メンバーのほとんどは、人間ではなく、高位の人外者だ。


 数百年、教会に勤めてきたブレイザー家には、当主と教会に仕える者にはそのことが伝えられてきた。

 特に「フェリクス」と名の付く者は特等に当たるから、不興を買ってはいけない、国王以上に丁重に扱わなければいけない、そうでなければ教会全体が敵にまわると、口を酸っぱくして教えられてきた。


 そんな高位の人外者が多い教会だ──外部から人外者が訪れることも多い。


 教会内の人外者は、特に人間に対して敵対するような者はいない。「人間のように暮らす」ことを良しとしているようで、普通の人間のように接している限りは何ら問題はない。

 おそらく教会内の人外者の間で、しっかり統制がとれているのだろう。


 だが、教会外の人外者は、そうとは限らない。

 彼らは己の本能や目的に正直だ。人間を喰いものにして暮らしている者も多いと聞く。


 黒髪の麗人の雰囲気から、おそらくかなりの高位者だと察せられた。面倒でしかない。


「あ、ゲイル様。こちら、兄のニールです」

「ニール・バレットと申します。バレット商会の会長をしております。以後、お見知り置きを」


 バレット殿が人間のように社交的な笑みを浮かべ、挨拶をしてくれた。

 同性でもくらりときそうな色香のある御仁だ。

 そして、彼の瞳の中には、人外者の中でも「王」と称される者だけが持つ星々が煌めいていた。


「ゲイル・ブレイザーと申します。聖騎士団聖属性第三部隊の副隊長をしております」


 教会式の礼をすると、バレット殿の値踏みするような視線を感じ、全身の毛が逆立つような思いをした。


 レイ・メーヴィス嬢は、バレット殿に連れられて、訓練場を出て行った。

 彼女は無邪気に、本日見た中で一番の笑顔をバレット殿に向けていた。


 彼女は、バレット殿の正体については知っているのだろうか……?



「……ふぅ……」


 詰まっていた息を吐いていると、デレク騎士に話しかけられた。


「俺だったらあまり彼女はオススメしないな」

「逆玉の輿ですよ?」

「リスクの方が高すぎる」

「そうですね……」


 彼女との間に挟まる相手がルーファス大司教だけなら、少し頑張ってもいいかと思っていた。

 ルーファス大司教は教会内の者で、性質も穏やかな方だ。彼女を大事に扱う限りは、下手に手を出してこないだろう。


 だが、さっきの高位者は危ない──何か一つ間違えれば、簡単に消されてしまいそうな気がした。


 父は、とんでもない相手に見合いを申し込んでくれたものだ……




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