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鈴蘭の魔女の代替り  作者: 拝詩ルルー


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レイのお見合い4

「レイ、綺麗だね。ドレスもよく似合ってるよ」


 ルーファスが、物語の中の王子様のような白皙の美貌を、柔らかく蕩けさせた。


「ありがとうございます!」


 レイは、はにかんで微笑んだ。


 ルーファスがそっと手を差し出してきたので、レイもうきうきと自分の手を重ねる。


 見合いの会場は、フェリクスの離宮の奥にある庭園だ。


 ルーファスに連れられて、レイは離宮内の廊下を渡り、奥の扉から庭へと出た。


 奥の庭園の真ん中には、可憐な白い花を咲かせる大木が枝葉を伸ばしていた。その大木の根本には、スノードロップのような白い花が群生して咲いていた──どちらも魔物が蔓延る森の奥地にしか生息していない魔物性の植物だ。

 この大木の花の香りなのか、クチナシの花にも似た甘い香りが、ほのかに庭園内に漂っている。


 その大木から少し離れたところの芝生に、白いガーデンテーブルのセットが用意されていた。

 そのガーデンテーブルの周りには、スノードームのように結界が張られていて、結界内では温風の魔道具が稼働しているようだった。


 本日の見合い相手であるゲイル・ブレイザーは、遠慮するように、ガーデンテーブルの結界から出たところで、背筋をスッと伸ばして立って待っていた。


 ゲイルは、肩下くらいの銀髪を、彼の瞳と同じアメジスト色のリボンで留め、聖騎士の制服をピシリと着こなしていた。

 彼のつり目はじっと扉の方を向いていたが、レイたちが入ってくると、少し困惑の色が滲んだ。


「あれ? ブレイザー騎士?」


 ルーファスは一瞬きょとんとしたが、すぐに何かを悟ったようでピシリと頬を強張らせた。


(? あれ? ルーファスって、もしかして義父さんから何も聞かされてなかったのかな……?)


 レイもちょこんと首を傾げて、隣のルーファスを見上げた。


「僕は、フェリクス大司教にエスコートを頼まれただけだから……それでは失礼するよ」


 ルーファスが気を取り直して退出しようとすると、ゲイルは端正な教会式の礼の姿勢をとって見送った。


(あれれ? ルーファスは後見人役の人だから、特に問題ないんじゃなかったの??)


 レイは「ライデッカーから聞いてた話と違う!」と戸惑ったが、これ以上立たせたままにするのは悪いと思い、ゲイルに席をすすめた。


「と、とりあえず、座りましょうか?」


 レイが笑顔でそう伝えると、庭園の端の方で控えていた侍女たちがサーッと集まって来た。


 レイの椅子を引いて座るように促し、ワゴンを押して紅茶やケーキセットの準備を手早く進めていく。


 紅茶が淹れ終わると、レイは一口、口をつけた。ゲイルもそれにならって、ティーカップに口をつける。


「改めまして、レイ・メーヴィスです。普段は、王都の特殊魔術研究所に勤めてます。どうぞ、レイとお呼びください」

「ゲイル・ブレイザーです。聖騎士団聖属性第三部隊の副隊長をしています。気軽にゲイルとお呼びください」


 二人はぎこちない空気の中、簡単な自己紹介を交わした。


「……」

「……」


(どっ、どっ、ど、どうしよう!? そういえば、お見合いの時って何を話せばいいの!? そこらへん、全然考えてこなかったかも!!)


 レイは、カチコチに緊張した二人の間の空気に、一瞬パニックを起こしかけた。脳裏をぐるぐると目まぐるしく思考が駆け巡る。

 そして、婚活をしていた友人のある言葉が急に思い浮かんだ──「そうねぇ~、共通の話題とか鉄板よね~」と。


 レイは心の中で「ありがとう友美!!!」と感謝しつつ、平静を装って軽く話題を振った。


「ゲイル様は聖騎士になられて長いんですか?」

「そうですね。かれこれ十年くらいでしょうか。子供の頃から聖剣に憧れがあり、教会に入れる歳になったらすぐに聖騎士見習いに応募しました」

「それではベテランさんですね。聖剣にご興味があるんですね?」

「ええ。レイお嬢様は聖剣はご覧になったことは? 確かメーヴィス大司教が管理されていたかと」


 レイは質問されて、「う~ん……」と考え込むように首を傾げた。


(……確か、レヴィも聖剣だったような。でも、それをここで言うわけにはいかないよね……)


 レイは、魔剣レーヴァテインを浄化して、聖剣レーヴァテインへと変質させていた。そして、聖剣レーヴァテインに主人として認められたレイは、彼に自分の魔力を渡して、「レヴィ」という人型にして放任──いや、自由にさせていた。


「私は教会に勤めているわけではないので、義父が管理しているという聖剣は見たことはないです。でも、サハリア王国を訪れた時に、オルドゥ騎士にはお会いしたことがあります」

「あぁ! 聖剣ハルバインドの主人の方ですね!」


 ゲイルの表情が、パァッとあからさまに変わった。まるでトランペットに憧れる少年のように、アメジスト色の瞳がキラキラと輝き始める。


「聖剣では珍しい双剣だと伺ったことがあります。それに、とても美しい剣だとか」

「はい! 確か曲刀で、装飾も夜空に浮かぶ星々みたいで綺麗でしたよ」

「それは、是非とも一度見てみたい……!」


 レイの話に、ゲイルは感嘆の声をあげた。


(ゲイル様は、本当に聖剣がお好きみたい)


 レイは微笑ましいものを見るように、くすりと微笑んだ。


「ドラゴニアには、残念ながら今のところ聖剣の騎士はいないんです」

「そ、そうなんですね」


(ゔっ、私もその聖剣の持ち主ではあるんだけど…….)


 レイは内心ドキッとしながら相槌を打った。


「その代わり、教皇猊下の専属護衛には、聖槍(せいそう)ウィルゴ・ミセリアに選ばれた聖槍の騎士がついてます。最近では、王都にいる聖者も、聖鎚(せいつい)ガラガルディアを教会から貸与されたとか……羨ましい限りですが、でも聖剣ではないんですよね……」


 ゲイルが心底残念そうに語った。


「そういった武器もあるんですね」

「聖武器の中では珍しい部類です」


 二人はその後もしばらく、教会関係で当たり障りのない会話を続けた。


 見合いが始まって一時間も経たないうちに、侍女がレイに声をかけた。


 ゲイルも心得たように「ああ、着替えですか」と頷く。


「誠に勝手ながら、私はパートナーには相応の剣の腕前を希望しています」

「はい。義父から伺ってます」


 ゲイルの言葉に、レイは小さく頷いた。


 レイはフェリクスから、先方の希望として見合いの時に剣での模擬試合をすることになる、ということは聞いていた。


 次は訓練場で待ち合わせをして、レイは侍女に連れられて着替えに向かった。



***



 レイは聖騎士見習いの制服を借りて、訓練場に向かった。

 白と青を基調とした聖騎士見習いの制服は凛々しくて、普段着る機会がない分、レイは袖を通すだけでドキドキと胸が高鳴った。


 訓練場には人払いがしてあるようで、レイたちの他には誰もいなかった。

 模擬試合には、祝祭期間中に護衛をしてくれたデレクが立ち会ってくれるようだ。


 用意された木刀を握ると、レイは静かに目を閉じた。


(こういうのって、歴代の剣聖様には頼らずに、きちんと自分の力でやった方がいいよね?)


 レイは目を見開き、木刀を握り直すと、すっくと対戦相手のゲイルに向き合った。


 ゲイルも手慣れたように木刀を構える。


「はじめ!」


 デレクの一声で、レイは一気に距離を詰めた。


(先手必勝! さすがに体格差はあるし、身体強化はいいよね?)


 レイは下段から鋭い初手を入れた。

 ゲイルは難なくレイの一撃を受けたが、その重さに目を丸くしていた。

 そのまま二撃三撃と切り結んでいく。


 ゲイルが手加減しているのは明らかだった。

 現役の聖騎士で、日々訓練も積んでいるゲイルが、レイに対して手加減するのは当たり前だった。


 だが、レイも負けてはいなかった。

 身体強化しながら、狙えるところは狙って打ち込み、相手からの攻撃を上手く受け流す。


(レヴィと一緒に訓練してたから良かったかも! でも、最近はちゃんと練習してなかったから……!)


 身体の方は剣を覚えていたが、ここ最近の訓練不足で徐々に押されてきていた。


「そこまで!」


 デレクの一声で、二人はピタリと模擬試合を止めた。


 レイはすっかり息が上がっていたが、ゲイルは軽く息が弾む程度で、ちょうどあたたまってきたぐらいだった。


「いい試合だった」

「ありがとうございます……」


 ゲイルに握手を求められ、レイはその手を握り返した。


 本日のお見合いは、これでお開きとなった。



***



 その日は、レイはフェリクスの離宮に泊まらせてもらった。


 夕食後、フェリクスがそわそわと話しかけてきた。


「レイ、今日はどうだったのかな……?」

「う~~~ん…………」


 レイは腕を組んで、非常に難しい顔で唸った。


(……どうだろう? そういえば、何を基準にして決めればいいんだろう……?)


 レイはあまりにもお見合い初心者すぎて、そもそも結婚やらその他諸々のことは全然考えていなかった──大事なモノサシがすっかり抜けてしまっていたのだ。


 どうかと聞かれても、レイとしては「まぁ、楽しかった」「普通にいい人そう」くらいの平凡な感想しか出てこなかった。


「すぐに答えは出さなくていいと思うよ。もう一人と会ってからでも、遅くはないんじゃないかな?」


 思い悩むレイを見て、フェリクスはここぞとばかりにフォローを入れた。義娘からの回答を恐れたわけではない、決して、きっと……!


「そうですよね! まだもうお一方と顔合わせがありますもんね!」


 レイもフェリクスの言葉に甘えて、答えを先送りにすることにした。こちらも現実逃避ではない……きっと、たぶんだ!




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