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鈴蘭の魔女の代替り  作者: 拝詩ルルー


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レイのお見合い3

「……レイ嬢。少し顔色が悪いようだが、大丈夫か?」

「はい……大丈夫です」


 レイは年初の仕事復帰の挨拶をするために、所長室を訪れていた。


 どこかぼんやりした様子で、目の下に黒々とクマを作っているレイを見て、上司のテオドールが心配そうに気遣った。


 昨夜、フェリクスから見合い話をされて、レイは気になりすぎてよく眠れなかったのだ。


「レイちゃん、何かあったの?」

「いえ、大したことはないんですが、昨日、義父さんからお見合いの話をされまして、ちょっとよく眠れなくて……」


 ライデッカーに訊かれ、レイはしょぼしょぼと答えた。


「「「お見合い!?」」」


 その場にいたテオドール、ジャロッド、ライデッカーの声が綺麗に重なった。


「はい」

「相手は!?」


 ライデッカーが驚いて、質問をたたみかける。


「ブレイザー侯爵のご子息たちです」

「「……!?」」


 テオドールとライデッカーは、二人して頭を抱えた。


 テオドールとライデッカーは、公務で王領に向かった際に、ブレイザー領に立ち寄っていた。

 そこでブレイザー侯爵主催の晩餐会に参加したのだが、その時もブレイザー侯爵はレイに興味を示していたのだ──まさか本当に息子たちとの縁談を組むとは……と二人は頭を痛めたのだ。


 テオドールとライデッカーからすれば、先代魔王の義娘と自身の息子を縁付けようなど、正気の沙汰とは思えなかった。


「ブレイザー侯爵の子息といえば、一人は聖騎士で、もう一人は王宮の魔術師団長だったな。二人とも優秀で特に浮ついた噂もないし、何が不安なんだ?」


 レイが先代魔王の義娘とは知らないジャロッドが、客観的な意見を言った。


(こんなこと、ここで訊いちゃっていいのかな? でも……)


 レイは少し思い悩んだが、ここは人間の年長者にも意見を聞いた方が良いと、話し始めた。


「それが、義父が、お見合いの日にエスコートを付けてくれるって言ってくれたんですけど……」

「は? エスコート??」


 ジャロッドが首を捻る。

 見合いであるなら、父や兄、護衛の騎士や執事などの使用人が、エスコートや護衛について行っても特段おかしくはない。


「はい。それが、ルーファスとレット……ラングフォード魔術伯爵なんです。まだ義父か兄のニールがエスコートしてくれるのなら分かるんです、家族ですし。家族でも使用人でもない異性の方に、お見合いのエスコートを頼むのって普通なんでしょうか??」


 レイは気になって仕方がなかったことを、思い切って尋ねてみた。

 こんなことをしてお見合い相手に失礼ではないのかと、モヤモヤと一晩中悩んでいたのだ。


「「っ!!?」」


 テオドールとライデッカーは、瞬時に正確に理解した。「先代魔王様は、確実にこの見合いを破談させようとしている!!!」と。


「……はぁ? なんでそんな……むぐっ!?」


 唯一事情を知らない常識人のジャロッドが何か言おうとすると、テオドールが無理やりその口元を押さえた。


「ふ、父兄代わりだよ! ほら、後見人でも一緒に顔合わせしたりすることもあるでしょ!? きっと、おそらく、たぶん、ルーファス様もラングフォード魔術伯爵も、父兄代わりの後見人としてエスコートされるんだよ!! ルーファス様はレイちゃんに加護を与えられてるし、ラングフォード魔術伯爵も黒の塔に推薦してくださったから、後見人みたいなものでしょ!?」


 ライデッカーが焦りから上擦った声で、苦しい言い訳を捲し立てた。


 ライデッカーは、悲しい(かな)、魔物の端くれとして、本能的に先代魔王には逆らえないのだ。

 先代魔王フェリクスの意向に忖度(そんたく)しまくった結果、とんでも理論でレイを丸め込もうとしたのだった。


 ジャロッドは口元を押さえ付けられながらも、「は? 何言ってんだ、コイツ」という冷めた視線をライデッカーに向けていた。


 テオドールも、ドラゴニア王国の王族として、この国の安全と平和を預かる者として、先代魔王の不興を買う気はさらさら無かった──ゆえに、余計なことを言いそうな伯父の口を塞いだのだった。


「えっ、そんなこともあるんですね!?」


(こっちの世界ではそうなんだ~。一つ賢くなったかも!)


 一方で、レイは純粋だった。

 かなり疑問には思っていたものの、こちらの世界の慣習として「そういものだ」と断言されてしまえば、納得できずとも理解はすべきだと考えた──「郷に入りては郷に従え」だ。


 そして、ライデッカーの迫真の勢いも、常識人の上司だと思っていたテオドールが彼の意見に激しく同意している姿も、なぜかレイには説得力として解釈されてしまったのだった。


「そういうものなら、仕方ないですよね。お見合い相手の方にかなり失礼なんじゃないか、関係のない異性を連れて行ったら誤解されるんじゃないかって、とても心配だったんですけど……でも、そういうものだというなら、仕方がないですね……」


 レイは静かに、自分に言い聞かせるように頷いた。二度も「仕方ない」と言ったのは、自分で自分を言い含めるためだ。


 ジャロッドは、嘘を教え込まれた可哀想な子を見るような視線を、レイに送っていた。その憐れみのこもった瞳は、「いや、君の言ってることの方が正しいから」と語っていた。



 レイは「ありがとうございます!」と、スッキリ明るい笑顔でお礼を言うと、軽やかに所長室を出て行った。


 パタンと部屋の扉が閉まると、その場に残った全員が、鉛よりも重い溜め息を吐いた。


「なんでそんな嘘を教えたんだ?」


 ジャロッドが納得いかなそうな視線を、ライデッカーとテオドールに向けた。


「レイちゃんのお義父様には逆らえないよーーーっ!!」

「この国を守るためなら、私は真実を隠し通す覚悟です」

「……」


 ライデッカーの嘆きと、やけに使命感にあふれたテオドールの様子に、ジャロッドは思わず「なんだコイツら」という視線を向けていた。



***



 翌週末に、レイはディアロバードにあるフェリクスの宿舎──もとい離宮を訪れていた。


 レイは前日の夜に離宮に泊まり、今日は朝から準備に追われていた。


 準備されていたドレスは、白地に淡い青色の差し色が入っている清楚で可愛らしいものだ。コバルトブルー色の糸で、控えめに刺繍も施されている。

 真っ直ぐな黒髪は、水織りのリボンを編み込んでハーフアップにしてもらい、耳たぶには、いつぞやにレイがニールの秘書をした時に貸してもらった小粒のパールが輝いている。


 離宮の侍女たちは、今日は特に念入りに綺麗に仕上げてくれた。


「とても綺麗ですわ、お嬢様」

「ありがとう!」


 鏡の中のレイは、いつもよりぐっと大人びた深窓のお嬢様のように見えた。



 はじめてお見合いの連絡がフェリクスからきた時は、さすがのレイも動揺した。

 アレクシスのことが真っ先に思い浮かんで、少し引っかかったのだ。


 アレクシスとの仲は家も含めた正式なものではないし、レイ自身もまだそこまで「好きかどうか」はハッキリとは分かっていなかった。ただ、会えばドキッとする気になる相手だった。


(でも、ブレイザー侯爵は義父さんの部下だし、私の方が爵位は下だからやっぱり断りづらいし……) 


 この点は、レイもちょっぴり「面倒だな」と感じていた。


(でも義父さんは「会って、軽くおしゃべりしてくるだけだよ」「嫌だったら断っていいんだよ。その時は僕がしっかりフォローするよ」って言ってくれたし、無理やり縁談をまとめる気はないみたいだし……)


 レイは、フェリクスのそんな気遣いや優しさがあったからこそ、「ちょっと会ってみてもいいかも」と思えたのだ。


(お見合い相手は、二人とも一応ご挨拶をしたことがある方たちだし、大丈夫かな?)


 一度は会ったことがある相手だということも、レイの心理的なハードルを下げていた。


 元の世界では社会人だったレイだが、お見合いはしたことはなかった。

 マッチングアプリなども使ったことはなかったが、年頃の女性として、少しだけ興味はあった。友人の中にはそこで恋人を見つけた人もいたし、婚活を頑張っていた友人は「何十人もの異性に会った」とも話していた──そこまでお見合いや出会いに偏見や忌避感はなかった。


(まずは会ってお話ししてみて、人脈を広げるくらいの気持ちで楽しんで来よう!)


 レイはお見合いに対して、結構前向きだった。





※ファビアンは、息子たちとレイのお見合いへのハードルを下げるためにも、一度軽く顔合わせさせてます。ファビアンとしては、レイが息子たちの嫁候補の本命です。


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