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鈴蘭の魔女の代替り  作者: 拝詩ルルー


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レイのお見合い2

「こっ、これは……!?」


 その物体を目にした瞬間、聖属性の大司教フェリクスは、執務机の上にくずおれた──悪夢が現実化したとしか思えなかったのだ。


「レイお嬢様へのお見合いの釣り書です……」


 専属護衛の聖騎士アルバンが、いつになく気まずそうに発言した。非常に大柄な体格のはずなのに、この時ばかりはやけに小さく見えた。


 フェリクスは、アルバンの言葉を聞いているのかいないのか、机の上に突っ伏したまま、ぷるぷると微かに震えて動かなかった。


 フェリクスの執務室にいた者たちは全員、気づかわしげな視線をフェリクスに向けていた。


「……いつかはね、こんな日がくるとは分かってはいたんだよ。でもね、まさかこんなにも早く訪れるなんてね……」


 フェリクスはヨロヨロと身を起こすと、弱りきった声のトーンでこぼした──いまだかつて、先代魔王をここまで弱らせたモノは、存在しなかった。どんなに強力な弱体化魔術やスキルやトラップよりも、大ダメージをフェリクスに与えていた。


 フェリクスは現実逃避するように遠い目をして、ここではないどこか、はるか遠くを見据えるように視線を向けた。


 最近、義娘のレイは急に背が伸びて、年相応の可愛らしくも美しい子に成長した。……決して、義親の欲目ではない! 周りからもよく褒められるし、事実である!


 人間の子供の成長は早い。少し目を離しただけで、あっという間に大人になってしまう。一定程度力を蓄えたら成長する魔物とは、成長の仕方が全く異なるのだ。


 そんな違いもフェリクスにとっては、不思議であり、楽しみでもあり、心配でもあった──まだまだ大人の庇護が必要なのに、成長する程レベルアップして強くなっているわけでもないのに、体の方はどんどん大きくなって大人になっていく……人間という種族のアンバランスな脆さ危うさが、逆に愛おしく感じられた。


 フェリクスは少し落ち着くと、意を決して釣り書を手に取った。よりにもよって、二冊も革張りのファイルが届いている。

 まだまだまだ義娘を嫁にやる気はないが、早くもうちの義娘を見初めた慧眼だけは褒めてやってもいいと、考えていた。


「おや? 一人はゲイル君かい?」


 いきなり思わぬ人物の姿絵が飛び込んできて、フェリクスは目を瞬かせた。


 もう一人の姿絵も確認する──どちらもブレイザー上級神官の息子たちだ。


 ブレイザー上級神官は、人間の高位貴族らしく抜け目がない。それでいて、代々聖鳳教会に仕えてきた家系のためか、教会上層部にいる高位魔物や精霊たちと対立するでもなく、疎むでもなく、しっかり恩恵を受け取って、粛々と教会に仕えてきた。


 おそらくフェリクスとその周囲の者たちが高位の人外者であるとは気づいているだろうが、粗相がなければ問題ないだろうとばかりに、人間の貴族らしく堂々とレイへの見合いを申し込んできた──フェリクスにとっては、彼らしいというか、然もありなんという印象だ。


「ふむ、少し困ったねぇ……」


 フェリクスは、二冊の釣り書のファイルに視線を落として考え込んだ。


 フェリクスから断りを入れることは容易い。

 もしもレイが、ドラゴニア王宮内にある特殊魔術研究所に勤めていなければ、フェリクスも即断しただろう。


 だが実際にレイは、ドラゴニア王国内で、しかも王宮という周りに貴族が多い環境で働き、魔術伯爵という一代限りではあるが貴族の地位までいただいている。


 ブレイザー上級神官は、ドラゴニア王国に古くから仕える侯爵家の当主でもある。レイの立場を考えると、あまり無碍に対応するわけにはいかなかった──おそらく彼は、そこらへんも考慮して今回の見合いを申し込んでいる。


 フェリクスがレイの意見も聞いた方が良いかと悩んでいると、アルバンがおずおずと進言してきた。


「フェリクス様、発言をよろしいでしょうか?」

「うん? 構わないよ」

「このような時こそ、先見のスキルを使われてはいかがでしょうか?」

「ああ、そうだね。その手があったね」


 フェリクスはハッと目を瞠ると、すぐに先見のスキルを使い始めた。

 いきなりやってきた「レイへの見合いの申し込み」という衝撃に、冷静さを失っていたようだった。


「…………あぁ、なるほどねぇ。そういう手があったか…………」


 フェリクスは、どこか遠くを眺めるように視線を漂わせた──先見のスキルを使用している証拠だ。


 フェリクスの執務室内にいる全員が、固唾をのんで静かに主を見守っていた。


「今回の見合いは受けようか。特にレイが傷ついたり、デメリットになるようなことはなさそうだしね」

「左様ですか」


 フェリクスが落ち着きを取り戻して発言すると、アルバンが静かに相槌を打った。


「ただ、少しだけ準備が必要だね。レイにも連絡しなきゃだけど、彼らにも連絡をとってもらえるかな?」


 フェリクスがさらさらとメモ書きをとると、すぐにフェリクス付きの侍従が近寄って来て、恭しくメモ用紙を受け取った。


 侍従はメモ書きの人物を確認すると、教会式の礼の姿勢をとって、すぐに執務室から出て行った。



***



 その日の夜、定期連絡の日でもないのに、フェリクスからレイに通信の魔道具で連絡があった。


 レイは使い魔の琥珀と一緒に、バレット邸にある自室のベッドの上にごろんと寝転がった。通信の魔道具に軽く触れて、応答する。


『こんばんは。今、大丈夫かい?』


 通信の魔道具から、フェリクスのあたたかみのある優しい声が聞こえてきた。


「義父さん、こんばんは! 急にどうしたんですか?」

『うん。レイ宛てにね、お見合いの申し込みがあったんだ』

「えぇっ!? 私にお、お、お見合いですか!?」


(私なんかに、そんなお話が……!?)


 レイは全く想定外のことを言われて、素っ頓狂な声をあげた。


 隣で寝転がっていた琥珀もびっくりして、ぴょこんと弓形に跳ね上がったのだった。




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