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鈴蘭の魔女の代替り  作者: 拝詩ルルー


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レイのお見合い1(ファビアン視点)

 ブレイザー領のカントリーハウスでの晩餐の後、私は息子たちをシガールームに誘った。


 教会に勤める私も長男のゲイルも、煙草は吸わない。教会上層部では、煙草の煙を苦手とされている方が多いためだ。

 次男のイリアスも「感覚が鈍る」という理由で、あまり煙草は好まないようだった。


 一応、他の貴族が訪れた時用にシガールームがあるにはあるが、現状あまり使用していない。


 息子どもは何かを気取ったのか、勧めた酒にも手を付けず、神妙な面持ちでソファに座っている。

 なみなみと琥珀色の液体が注がれたグラスが、静かにローテーブルの上に並んでいた。


「二人の見合いを申し込んでおいた」


 私はぐいっと酒を一口飲んで息を整えると、二人の息子に告げた。


「は?」

「はい?」


 二人の息子は、そっくり間の抜けた顔で返してきた。



 ブレイザー侯爵家は、ドラゴニア王国建国当初から、この国の魔術面を支えてきた由緒正しい魔術師家系だ。代々魔力量の多い者が生まれやすく、ドラゴニア王国内の魔術師の中でもトップレベルの魔力量を誇る者も多い。


 魔力量の多い者は、寿命が長いと言われている。ブレイザー家出身者は、魔物との戦闘や不慮の事故で亡くなる以外は、たいてい三百歳近くまで生きる。


──そこで問題になってくるのが、当主の婚約者、そして生涯の伴侶についてだ。


 一般の貴族家から嫁や婿を迎えても、当主の人生の半分もいかないうちに、伴侶とは別れを迎えることになってしまうことが多い。


 そのため、優秀な子孫を残すということもあるが、ブレイザー家では、他の魔術師家系の貴族や、魔力量の多い魔術師を伴侶として迎え入れるのが理想的だとされている。


 だが現実問題、そのような理想的な相手は少なく、いたとしても婚姻相手として人気になってしまっている場合が多い。


 また、寿命が長いということは別の問題がある。

 己の寿命の長さから、なかなか婚約者や生涯の伴侶を決めきれないという問題だ──「まだ次がある」という心の余裕は、いつまで経ってもパートナーを決めないという状態をキープしてしまい、結果として次の跡取りがなかなか生まれないという重大な問題にも繋がっていた。


 私も若い頃はこの点を甘く考えていた結果、「そろそろパートナーを」と探し始める頃には、目ぼしい令嬢は全員誰かの夫人となっていて、全く手が出せなくなっていたという事態に直面した。


 ブレイザー家は高位貴族ということもあり、見目麗しい者たちの血も婚姻で取り込んでおり、見た目の良い者も生まれやすい。


 そのため、社交界では異性の方から声をかけられやすい──自分はモテるのだと勘違いしてしまうのだ。


「自分はモテるから大丈夫」という誤った驕り、寿命の長さからくる心の余裕と慢心から、本命の相手に限って逃してしまうという愚行を、代々の当主は犯してきた。


 私自身も、六十も年下の妻を迎えることになった。

 今では夫婦円満のため後悔はしていないが、婚約当初は孫ほども歳の離れたパートナーを見ては、「いくら貴族同士の婚姻とはいえ、この歳の差は犯罪ではないのか?」とよく自己嫌悪に陥ったものだった。



 目の前の息子どもは、私の若い頃によく似て、「女など掃いて捨てるほどいる」と考えているに違いない。


 己の愚行を子供たちにまで繰り返させたくないという親心を、全く理解していない顔をしてやがる。


 長男のゲイルは聖鳳教会に勤めるベテラン聖騎士だ。遠征時には、隊を預かることも多々ある。竹を割ったようなハッキリとした性格で、断る時もバッサリと遠慮がない。いささか聖剣バカであることが玉に瑕だ。


 次男のイリアスは、王宮魔術師団の団長を務めている。人当たりが良く柔和に見られやすいが、断る時は遠回しにだが確実に断ってくる。いささか魔術バカであることが玉に瑕だ。



「『申し込んでおいた』ということは、すでに先方に話は……」

「伝えてある」


 イリアスが確認のためだろう、尋ねてきたからキッパリ言っておいた。

 先方に伝えてなければまだ押し留めることができると、考えていたのだろう。ずいぶん微妙な表情で黙りこくった。


「本当に条件に合った令嬢があらわれたのでしょうか?」


 ゲイルが尋ねてきた。イライラを含んだつり目と、目があう。


 息子どもは、自分たちの自由欲しさに、見合いする相手の令嬢の条件を非常に高く設定していた。「最低でもこれだけの条件を満たさなければ、見合いをする気もおきない」と──女性をなんだと思っているんだ? 若い頃の自分を見ているようで、反吐が出そうだ。


 ゲイルの条件は、「中級以上の聖女であること」「自分と並んで戦える程の剣の腕前があること」だ──そんな戦乙女のような聖女、一体どこにいるというのだ?


 イリアスの条件は、「四大魔術への適性があること」「それらを上級魔術師並みに扱うことができること」「上級魔術師並みの魔力量があること」だ──そんな条件に当てはまるのは、先代の王宮魔術師団団長フレデリカ・オルティスくらいだ。彼女は既婚者だし、イリアスはずっと彼女に懸想していたとの噂は聞いている。


──そんなバカみたいな条件だったが、それら全てを満たせる令嬢が遂に見つかったのだ!


「ゲイルは、『中級以上の聖女』で『共に戦える程の剣の腕前』だったか? 見合い相手の令嬢は、皆の前で見事な治癒魔術を披露してくれたぞ。それに調査報告によると、王国騎士と対等に剣を切り結ぶこともできるとか」

「……それは治癒魔術は使えても、『聖女』ではないということではありませんか?」

「確かに『聖女』という役職に就いてはいないが、彼女は浄化の花を咲かせられる──そこら中にいる中級聖女なんかよりも、余程貴重ではないか?」

「…………」


 ゲイルは言葉尻を捉えて反論してきたが、「浄化の花」のことを伝えると、押し黙った。


 おそらくゲイルが知っている中で、「浄化の花」という聖属性の最上位魔術を扱える女性は一人だけだ。具体的に誰か思い当たったのか、その表情には困惑の色を浮かべていた。


「イリアスは、『四大魔術への適性』と『それらを上級魔術師並みに扱えること』それから『上級魔術師並みの魔力量』だったな」

「……そうですが、そのような条件を満たせる未婚女性はドラゴニアには……」

「そうか? お前も見たことがあるだろう? 最近の魔術研究報告会で、無詠唱で次々と魔術を披露していたではないか。四大どころか他の属性の魔術も見事に扱っていたぞ?」

「……!?」


 イリアスが、珍しく驚いた顔をした。こちらも相手が誰か思い当たったようだ。


 イリアス自身、彼女の研究報告会で興味関心を持って唸っていた以上、悪い印象は持っていないはずだ。


「それからお前たちは何か勘違いしているようだが、お前たちはあくまでも選ぶ立場ではなくて、選ばれる立場だぞ? 現状、彼女自身が魔術伯爵の地位を得ているし、お前たちはただの貴族令息にすぎん。彼女の方が立場が上だ。さらに彼女の養父はフェリクス・メーヴィス大司教で、生家はバレット家だ。この国でも有数の大商会──バレット商会の商会長の妹だ。わが家にとってかなり意義のある縁組みではないか?」

「「…………」」


 私が事実を指摘してやると、ゲイルもイリアスもやけに神妙な顔になって、反論もせずに静かに耳を傾けた。


──私が一番に伝えたかったのは、このことだ!


 バカ息子どもは、自分の容姿、立場、能力に胡座をかいて、まさか自分の方が選び取られる側の立場になるとは露ほども思っていなかっただろう──そんな何の役にも立たない慢心(プライド)なぞ、後生大事に持っていても、嫁取りには何の意味もない! ガツンと事実で真っ向からへし折ってやるべきだ!!



 ゲイルは「少し考えたい」と言い、イリアスは「分かりました」と一応了承して、シガールームを出て行った。

 二人とも深刻そうな暗い表情で出て行ったから、少しは薬になっただろうか?


 まぁ、これをきっかけに、少しは真剣に自分たちの婚姻について考えてくれればいいのだが……





※前魔術師団長のフレデリカ・オルティスは、『呪いの魔女の札占い』の方にも登場しています。


『呪いの魔女の札占い』

エヴァ先輩が、黒の塔に入るまでのあれこれを語ったお話。

https://ncode.syosetu.com/n6748kc/


こちらもどうぞよろしくお願いします!


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