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鈴蘭の魔女の代替り  作者: 拝詩ルルー


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ユグドラの年越し4〜悪夢酒〜

 次に目を開けると、レイは元の自分の部屋に戻って来ていた。

 ベッドの上に仰向けで寝転がって、見慣れた天井を見ていた。


「レイ!」


 急にあられたレイに、フェリクスが駆け寄って抱きついた。


「「「!?」」」


 部屋に待機していたミランダ、シェリー、琥珀も慌ててベッド傍に集まる。


「うぷっ!? 義父さん!? それに、みんなも!?」


 レイは、むぎゅむぎゅときつく抱きしめてくる腕の隙間から顔を出すと、驚いた声をあげた。


「急に消えたって、琥珀が教えてくれたんだ。今までどこに行ってたんだい? ずいぶん探したんだよ?」


 フェリクスが腕の力を緩めて、レイに教えてくれた。


 レイがベッドから上半身を起こして少し落ち着くと、子猫サイズの琥珀が彼女の膝に飛び乗った。ゴロゴロゴロと喉を鳴らして、ぐりぐりと小さな頭をレイのお腹に擦り付けてくる。


「同じくらいの時間に団欒室の方でウィルも消えたから、あのお酒が原因じゃないかって話になったのよ」


 ミランダもベッドの端に腰を下ろして説明してくれた。



 ミランダの話によると、団欒室の端の方で酒に酔って寝こけていたウィルフレッドが、急に消えてしまったらしい。そのすぐ後に、琥珀がレイが消えてしまったと、フェリクスの元に知らせに来たため、急遽二人の捜索活動が始まったそうだ。


 消えた二人の共通点を探った結果、妖精から差し入れされた酒にいきついたらしい。


「ウィルが飲んで、レイがかぶってしまったお酒がね、眠ると悪夢に引き摺り込まれてしまうものだったみたいなんだ」


 フェリクスは、レイのベッド傍に空間収納から椅子を取り出して座ると、しょんぼりと説明してくれた。もっと自分が早く気づけば良かったと、後悔しているようだった。


「それも、『酒を飲んだ者にとって悪夢とも言える最悪な過去を、実体で追体験する』ものみたいね」

「悪夢のお酒のラベルの上に、普通の妖精のお酒のラベルが貼られてたの。あれでは、とても気づけないわ……」


 ミランダとシェリーも、詳しく説明してくれた。



 その時、レイの部屋の扉がノックされた。

 フェリクスが「どうぞ」と代わりに答えてくれた。


「邪魔するぞ。犯人を捕まえて来た」


 部屋に入って来たのは、ウィルフレッドだった。

 片手に、暴れる妖精を捕まえていた。逃げられないよう襟首を掴んでいる。


「こいつは夢の妖精だ。いたずらで悪夢の酒を造って、ユグドラに差し入れたらしい。悪夢の酒はあの一本だけだそうだ」


 ウィルフレッドは、レイのベッドの前の床に、べちゃっと夢の妖精を放り出した。


「す! すすすっ、すみませんでしたぁ!!!」


 夢の妖精は、真っ青な顔でシュタッと綺麗な土下座をすると、チワワのように頼りなさげにぷるぷると震えて叫んだ──高位エルフのウィルフレッドに〆られ、先代魔王の前に突き出されたのだ──生きた心地が全くしなかったことだろう。


「君のせいで、うちの子が危険な目に遭ったんだよ?」

「すみませんすみませんすみません……!」


 フェリクスが珍しく少しだけ魔力圧を漏らすと、チワワ妖精はさらにヴヴヴヴヴ……と恐怖で振動しながら、壊れたように謝り倒した。



 その後、チワワ妖精は厳重注意を受けた後、しばらくはユグドラの街への出入り禁止となったのだった。



***



《ウィルフレッド視点》


「そういえば、ウィルの最悪の過去って、何だったんだい?」

「フロスラクタ」

「ああ、あの時かい」


 フェリクスは、疲れてまた眠ってしまったレイを抱き上げていた。また同じことが起こらないよう、今夜は自分の部屋で面倒をみるらしい──まるで警戒心ダダ漏れの親鳥のようだ。


 俺たちは、ユグドラの樹内の個人部屋の階層が同じだから、連れ立って部屋に戻っていた。


「レイも一緒だったんだって?」

「ああ。よりによって戦争中のフロスラクタだったからな、ヒヤヒヤしたよ」


「……あの妖精を出禁にしただけでは、刑が軽すぎたんじゃないかな……?」

「まぁ、まぁ。出禁期間も結構長めだし、妥当だぞ」


 フェリクスの不機嫌そうな魔力がまた漏れ出してたから、俺は慌ててとりなした。



 レイは俺の悪夢に引き摺られて、俺の悪夢のような過去に一緒に飛ばされてきた。

 例の酒を飲んだわけじゃないから、本来は悪夢なんて見ないはずなのに、水属性の魔力適性が高いから感応でもしたんだろう。



 俺の生まれ故郷は、水と緑と花にあふれた美しい森──フロスラクタ(花の滝)だった。

 エルフと妖精が棲み、一年中何かしらの花が咲き、木の実が採れ、楽園のような土地だった。


 六百年前のあの日までは──


 人間の帝国が、いきなりフロスラクタに攻め入って来たんだ。


 奴らは、異世界人を召喚して作らせた武器を使い、強大な爆炎魔術のような攻撃をいきなり仕掛けてきた。


 森の一部は焼け野原となり、地面がむき出しになった。爆炎魔術とは違い、異世界人の武器を使用したためか、森と水は猛毒に侵されてしまった。


 すぐに、フロスラクタのエルフ族をまとめる族長である父と兄は、戦える者を募り、妖精族との連合軍を作って、帝国と戦争を始めた。


 俺は、その他の森の民と一緒に追い出された。


 もちろん、戦えないとされた森の民たちも、棲み家を奪われて黙っていられるわけがなかった。

 俺たちはエルフ族と妖精族を中心とした大盗賊団を作り、人間の帝国軍の兵站や後方支援の補給線を狙い、略奪するようになった──少しでも親父たちの役に立ちたかった。


 今なら分かるが、親父は、俺たちに戦ってもらいたかったんじゃなくて、一人でも多くの森の民を安全な場所に逃したかったんだろう……


 戦争中ということもあり、ろくに話し合いもできないまま、戦いの中で兄も父も亡くなった。


 フロスラクタの惨状は、世界としても目に余るものがあったらしい──ユグドラは、俺たちに先代魔王を送り込んできた。


 フェリクスは、希少なフェニックスの魔物だ。

 その炎は全てを焼き尽くして浄化し、新しい命を育む。


 フェリクスは、とんでもない解決策を実行した──エルフと妖精が棲む豊かな森だったフロスラクタは、荒々しい岩と砂と毒の魔物が蔓延る荒れた大地バスティータとして生まれ変わった。


 魔王は魔物を統べる者だが、破壊の象徴でもある──人間の帝国が望んだ豊かな森の資源自体を、破壊したんだ。


 そして、盗賊をしていた森の民たちは、ユグドラが受け入れた。


 ユグドラは同時に、人間の帝国の方にも管理者を送り込んでいた。

 異世界人とその召喚者は暗殺され、異世界人の召喚方法、作られた武器とその資料、異世界人がいたという記録でさえ、それら全てが抹消された。


 人間の帝国はその後衰退して、フロスラクタ──いや、バスティータに手を出せる程の力もなくなっていった。



「ウィル、おやすみ」

「ああ、おやすみ」


 ユグドラの樹、高層階に着くと、俺たちは別れた。


 フェリクスは、レイを抱いたまま自室へと向かった。その父親らしい背中を、琥珀がテテテ……とついて行く。


 俺は悪夢の中で会った親父のことを思い出した──エルフの中でも特に長生きで、とても聡い人だった──あの時の俺が、親父が知ってる息子ではないことには気づいていたはずだ。


「『民のことは任せてくれ』か……」


 俺自身、ずいぶん柄にもないことを言ったなと、改めて思う。


 過去に追い出された時は、喧嘩別れしてもうそれっきりだった。


 今回も、悪夢の中でまた親父に追い出されちまったが……悪い気はしなかったな……




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