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鈴蘭の魔女の代替り  作者: 拝詩ルルー


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ユグドラの年越し3〜悪夢酒〜

 過去のウィルフレッドの周りに、無数の魔術陣があらわれた。その一つ一つから、炎、風、氷、雷と複数属性の攻撃魔術が繰り出される。


 また地面からも草の蔓が何本も飛び出し、未来からやって来たウィルフレッドを拘束しようと、彼の手脚を狙うように素早く伸びる。


「ぎゃっ!?」

「親分! 勘弁してくれー!」


 妖精二人組は、まばゆい魔術の嵐の中、慌てて妖精の小道に避難した。


 未来のウィルフレッドは、攻撃魔術全てを多重結界で防ぎ、空間収納から取り出した長剣で応戦を始めた。派手な攻撃魔術に紛れて、隙を突くように過去のウィルフレッドが斬りかかってきたのだ。


 剣と剣がぶつかり合い、小さく火花が散る。


 剣での応戦中、未来のウィルフレッドが牽制するように光の矢を何も無い空間からいくつも放つ。

 過去のウィルフレッドも、背後に跳ねて後退る。


 一瞬、相手の出方をうかがうような膠着した空気が、二人の間に流れた。


「全く、いきなり殺す気満々だな~。過去の俺ってこんなに好戦的だったっけ?」


 未来のウィルフレッドが、余裕そうにヘラリと笑った。


「たとえあんたが本物だろうと偽物だろうと、俺が暗躍してるのが一番タチが悪いんでね」


 過去のウィルフレッドは、ものすごく嫌そうな顔をした。


「うわぁ……すっげぇ、俺。嫌になっちゃうぐらい俺的な考え」


 未来のウィルフレッドはげんなりした様子で、ドン引いていた。


「ということで排除させてもらう!」

「それなら逃げさせてもらう!」


 二人の前面に、無数に魔術陣が浮かび上がる。双方からあらゆる属性の攻撃魔術が放たれ、森は一瞬、真っ昼間の太陽よりも眩しく輝いた。


「ッ!!?」


 過去のウィルフレッドは、嫌な予感にチリッと首裏が疼き、簡易転移で数十メートル後退った。


 さっきまで彼がいた場所には、音もなく無数の光の矢が上空かなたから降り注いでいた。


「チッ。殺す気満々なのはどっちだ」


 過去のウィルフレッドは、盛大に舌打ちした。


 光の矢がおさまった後には、先ほどの人物はどこにもいなかった。

 森は無惨にも焼け焦げ、広い空き地ができていた。


「……この魔術の痕跡は、転移か。逃げたな」


 過去のウィルフレッドが魔術の痕跡を解析して、後を追おうとしていると──


「お頭、客人です」


 彼の背後に、部下のエルフが立った。


「こんな時に誰だ?」


 過去のウィルフレッドは、イライラしながら訊き返した。


「先代の魔王様だとおっしゃってますが……」

「はぁ゛っ!?」


 過去のウィルフレッドの素っ頓狂な声が、森の中に響いた。



***



「み゛ゃっ!?」


 レイは急に妖精の小道から放り出された。べしゃっと、(したた)かに顔や身体を地面にぶつける。


 レイがポイッと捨てられるように放り出された場所は、どこかの天幕のようだった。


 天幕の端の方には、木箱にまとめられた物資が置かれ、槍や剣や盾など武器防具も手入れがされて壁際に立て掛けられていた。


 天幕の奥には小さな簡易机があり、そこでは一人のエルフの男性が、しかめ面で手紙などを確認していた。


「その子供は?」

「ウィルフレッド様が見慣れないノームを連れておりましたので。敵の間者だと困りますゆえ、連れて参りました」


 エルフが、目線は手紙に残したまま端的に尋ねた。

 白髪をした壮年の妖精が恭しく答える──彼がここまでレイを攫ってきた張本人だ。


 エルフが顔を上げると、レイはハッと息をのんだ。

 彼は真っ直ぐな長い金髪に、穏やかそうなヘーゼル色の瞳をしていて、師匠のウィルフレッドよりも落ち着いて年嵩に見えるが、その顔立ちにはどこか面影があった。


(このエルフ(ひと)、なんだか師匠に似てる……)


 エルフは目を眇めてじっとレイを見つめていたが、不意に立ち上がり、レイがかぶっていた三角帽子をもぎ取った。


「「!!?」」


 レイと妖精が揃って、言葉にならない悲鳴をあげた。


「なっ、人間っ!? まさかノームに化けていたというのか!?」


 妖精は反射的に後方に引き、取り出した杖の先をレイに向けた。


「落ち着け、ミック。彼女は客人だ。その果てしない魔力量、それに私の鑑定結果にも、彼女が三大魔女──管理者であると出ている」


 エルフが、妖精に注意をした。


 妖精は、おとなしく杖の先を下に向けた。だが、まだレイを警戒して、睨むような視線は外さなかった。


 レイが目に魔力を込めて見てみると、どうやらエルフは手に持った三角帽子を鑑定しているようだった。淡い魔術陣の光があらわれ、消えていった。


「管理者? 人間の? なぜ今このような時期に、ユグドラは人間の管理者なぞを送り込んできたのか? 全く紛らわしい!」


 妖精が忌々しげに、吐き捨てるように愚痴った。


(……あのエルフの人、かなり高度な鑑定魔術が使えるみたい……そうなると、下手なごまかしは効かないかも……)


 レイは緊張して、ごくりと生唾を飲み込んだ。


「この帽子は、ノームの族長から直接彼女に贈られたようだな。フロスラクタは、ノームと敵対する気はない。それに、面倒な程に高位魔物との契約やら加護やらが付いている……盗賊団の方に捕まらなくて良かったな」


 エルフが冷静に指摘すると、妖精は一気に顔色を青くした。


 エルフが妖精に目配せすると、彼は軽く一礼をして天幕から出て行った──人払いしたようだ。


「それで、ユグドラは今度は何だ? もしや、またウィルフレッドを渡せと言うのではないだろうな?」


 エルフは天幕内に防音結界を張ると、静かに尋ねてきた。


(……私、急に過去に飛ばされて、いきなりここに攫われて来たんですけど……そんなユグドラから伝えることなんて……)


 レイは困って何も言えないでいた。


「何度言われても…………いや、ウィルフレッドはもう連れて行け。できればフロスラクタの民たちも一緒にだ」


 エルフは言葉途中で少し考え込むと、いきなり意見を変えた。


(? 今のこの人の話だと、もしかして師匠が管理者になるのをずっと拒んできたのかな? でも、連れて行けって……??)


 レイはじっとエルフを見つめ返した。


「だが、ウィルフレッドを連れて行くなら約束しろ。あの子には、もうこんな戦乱を味合わせないと」


 エルフは、真意を推し量るような鋭い(まなこ)で、レイを睨みつけてきた。


 レイは今のウィルフレッドのことを思い浮かべた。

 二百年前に防衛戦で戦ったとは聞いているが、実際に彼は生き残っている。そして今ではのんびりとまではいかないが、ユグドラの管理者としてなんだかんだいって平和に楽しく暮らしている。


(戦乱に巻き込まないってことは保証できないけど……それに、下手にこういった高位者と口約束でもするのはマズいって聞くし……)


「ししょ……彼は長生きしますよ」

「……」


 レイの回答に、エルフは期待した答えではなかったのか、片眉を跳ね上げた。さらに彼が何か言おうと口を開きかけた瞬間──


「レイ、無事かっ!?」


 ウィルフレッドが止めに入ろうとする妖精やエルフを振り払い、天幕に乱入して来た。


(師匠!?)


 レイはいきなりの乱入者に目を丸くした。

 ウィルフレッドの顔を見て、ホッと安堵の気持ちが胸のあたりに広がる。


 ウィルフレッドは、レイを背中に庇うような位置に──エルフとレイの間に立った。


「ウィルフレッドか……!?」


 エルフは、信じられないものを見るように、こぼれ落ちそうなほど目を見開いていた。

 ウィルフレッドの方に手を伸ばしかけて、何かを諦めたように力なく腕を下ろす。


「当代の三大魔女に『鈴蘭』はいないと記憶していたが……そうか、そういうことか……」


 エルフは口元を手で押さえ、何やらぶつぶつと呟いた。


「……さっさと行け。お前はもう盗賊の真似事などする必要はない。民を連れてどこへなりとも出て行け。ここへはもう二度と戻って来るな」


 エルフはこちらにくるりと背中を向けると、追い払うような厳しい口調で言った。


「ああ、分かった。民のことは任せてくれ」


 ウィルフレッドは心得たようにしっかりと返事をした。真っ直ぐに、エルフの背中を見つめたまま──



 次の瞬間、ウィルフレッドとレイは妖精魔術の光に包まれて、天幕から消えていた。




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