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鈴蘭の魔女の代替り  作者: 拝詩ルルー


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ユグドラの年越し2〜悪夢酒〜

 レイはフェリクスと一緒に、早々に部屋に戻った。

 フェリクスに服や髪を魔術で乾かしてもらったものの、酒の臭いまでは消えることはなかった。


 レイがシャワーを浴びて出て来ると、またフェリクスが髪を魔術で乾かしてくれた。長い指先で、さらりとレイの頭を撫でる。


「レイ、大丈夫かい? あのお酒は結構な量の魔力が込められていたから、気持ち悪くなったらすぐに言うんだよ?」


 こちらの世界では、魔力が安定していない子供の時期には、酒が含む魔力で酔ってしまうことがある。

 まだ身体が成長期の子供なレイは、まだまだ酒で魔力酔いしてしまうおそれがあるのだ。


「むぅ……気持ち悪いというよりも、ちょっと眠くなってきたかもです……」


 酒がかかったせいなのか、シャワーを浴びて気が緩んだからなのか、レイのまぶたがとろんと重みを増してきた。


「それなら、少し早いけど、もう寝るかい?

「ふわぃ……」


 レイは大きなあくびをしながらベッドの方に向かった。


「琥珀。僕は一度宴席の方に戻るけど、もし何かあったら、すぐに知らせるんだよ?」

「にゃ」


 レイのベッドに飛び乗った使い魔の琥珀に、フェリクスが依頼する。

 琥珀もいい子にお返事をした。


 ベッドに潜り込むと、レイはすとんと眠りに落ちた。

 ふわっと優しく頭を撫でられたような感覚があった。



***



「おい、レイ。レイ、起きろ。聞こえるか?」

「……むぅ? 師匠???」


 目を覚ますと、目の前には珍しく険しい表情のウィルフレッドがいた。強く揺さぶって、レイを起こしたようだった。


 レイはさっきまで、ユグドラの樹内にある自分の部屋で寝ていたはずだった。

 だが、今は見たこともない森の中、大きな木の下で眠っていたのだ。


「あれ? 私、さっきまで自分の部屋で寝てたはず……?」


 レイはむくりと起き上がった。寝る時に着ていた、ユグドラが準備してくれたシャツワンピースタイプのスリーパーを、そのまま着ている状態だった。


「良かった起きたか。マズい状況になったぞ」

「え……ここ、どこですか?」

「ここはおそらくフロスラクタだ。魔力の匂いからして、そうとしか思えない……」

「フロスラクタ? それ、どこですか??」

「よりにもよって一緒に飛ばされて来たのはレイか。やっぱりあの酒が原因か? ……とにかく、人間がこんな所にいるなんてバレたらマズい。レイ、変身魔術で別の種族に変身できないか?」

「え? 人間だとマズいんですか?」


 ウィルフレッドが「そうだ」と言いかけた瞬間、森の中を強い風が吹き抜け、ざわざわと草や木の枝葉を不気味に揺らした。


『人間臭い! 人間臭いぞ!!』

『どこだ!? 探せ! 探せぇ!!』


 どこからともなく不穏な会話が聞こえてきた。声のトーンは鋭く、怒りが滲み出ていた。


(これはマズいかも!)


 レイも嫌な気配を察知して、急いでがさごそと空間収納の中を漁りだした。


「レイ、何してるんだ!? 今はすぐにでも変身を……!」


「おや~? そこにいるのはウィルフレッド親分ですか~?」


 ウィルフレッドはぎくりと肩を揺らして、後ろを振り返った。レイを自分の背中で隠すように立つ。


 ウィルフレッドの視線の先には、二人の妖精がいた。


 一人は人間の子供サイズで、もう一人は手のひらに乗るくらいのサイズだった。二人とも地味でボロい服を着ていて、腰には剣やナイフを下げていた。

 まとう雰囲気は、まるで野盗のような粗野な感じだった。


「ここら辺で人間らしき臭いがしたんすけど、知らないすか?」

「さぁな」


 妖精の一人に尋ねられ、ウィルフレッドはしれっと嘘をついた。


「おや~? その背中の子供は~?」

「まぁ、待て! こいつは……」


 もう一人の妖精が後ろに回り込もうとして、ウィルフレッドが慌てて引き留めようとしたその時……


「私のことですか?」

「ぅおいっ! レイ!?」


 レイがひょっこりウィルフレッドの背中から顔を覗かせた。

 ウィルフレッドもギョッとして、レイの方へ振り向く。


 二人の妖精は「「な~んだ、ノームか」」と拍子抜けしたように呟いた。


「お頭! いくら人手が足りないからって、そんな幼いノームの子を連れて来るなんて酷いっすよ! 見損なったっす!」

「へ?」


 ウィルフレッドは訳が分からず、呆気にとられた。


「ここら辺にノームなんていないのに、どこから連れて来たんすか~?」

「え?」


 ウィルフレッドの背後からひょっこり出て来たのは、パーティー感あふれるポンポン付きの派手な三角帽子をかぶったレイだった。いつもと違うのは、彼女の耳がノームのようにちょこんと尖って伸びていることだった。


「えっと。たまたま道に迷ってたところを、この方に助けていただいたので……」


 レイが誤魔化すように愛想笑いして、フォローする。


「なんだ、そいうことっすか。てっきり、そんな立派なノームの帽子をかぶってるから、戦力としてスカウトしたものかと!」

「親分、すんません! 俺たち、勘違いしてました!」


 二人の妖精は、素直にウィルフレッドに頭を下げた。


「……い、いや。分かってくれたならいい。この子をちょっと送って来るから」

「へい!」

「分かりやした!」


 妖精たちは純粋にウィルフレッドの言葉を信じると、ピュンッと飛んで去って行った。


「……師匠。『親分』って何ですか?」

「ブッ!」


 レイの鋭い質問に、ウィルフレッドは一気に咽せた。

 じーっと胡乱な目で見上げてくる弟子に、ウィルフレッドは根負けしたように渋々口を開いた。


「まぁ、昔、なりゆきで盗賊団の頭目をやってた時期があるんだ。俺たちが飛ばされたのは、ちょうどその時だな」

「……普通、なりゆきでも盗賊の頭なんてやりませんよね?」

「いやいや、あるんだって! エルフ生も千年超えてくると、そのぐらいあるから!」


 レイにじと目で見つめられ、ウィルフレッドは堂々と反論してきた。


「それで、さっきの妖精さんたちはなんで人間を探してるんですか?」

「それはだな、昔、人間の国がフロスラクタに攻撃を仕掛けてきたんだ。それで、人間の国とフロスラクタに棲んでたエルフと妖精の連合軍との間で戦争になったんだ。今はおそらくその戦争中だな。だから、人間のレイがこの森で妖精なんかに見つかると、危険な目に遭う可能性が非常に高い」


「むぅ……それから、なんで私たちだけがここに飛ばされて来ちゃったんでしょう?」

「たぶんだが、宴会場にあった妖精の酒のせいだろうな。何か変な効果が付いてたんだろ」

「……それでお酒を飲んだ師匠と、そのお酒をかぶった私がこんなところに……?」

「おそらくな。元の時代に戻ったら、さっきの酒を調べないと……」


 ウィルフレッドが腕を組み、考え込むように唸っていると、何も無い空間から急にニュッと手が出てきた。

 その手は、いきなりレイの足首を掴むと、妖精の小道に引き摺り込もうとした。


「!? ししょ……!」

「レイッ!?」


 ウィルフレッドが手を伸ばそうとした時には、すでにレイは森の中から消えてしまっていた。


「クソッ! ……この気配、おそらく行き場所はあそこか……!」


 ウィルフレッドが舌打ちしていると、今度は誰かが近づいて来るような気配がした。


 ガサッ。パキッ。


 森の中に、茂みを掻き分け、木の枝を靴底で踏む音が近づいて来る。


「ヘぇ~、あんたか。部下たちから報告があったのは。よく化けたもんだな」

「……」


 いきなり声をかけてきた人物を、ウィルフレッドは睨み返した。


 そこには、さっきの妖精二人を引き連れた過去の時代のウィルフレッドがいた。

 彼はボロい服を着て、腰には長剣を下げ、殺気立ってすさんだ瞳をこちらに向けていた。彼の周りには、警告するような威圧的な魔力圧が漏れ出ていた。


「な、なんでお頭が二人いるんすか!?」

「あっちの親分は誰だ~?」


 二人組の妖精は目を白黒させて、すっかり困惑していた。


「とりあえず、あんたには死んでもらおうか」


 過去の時代のウィルフレッドが、ニヤリと悪い笑みを浮かべた。




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