俺のまわりへ、SOSするやつ。
肩に優しく参い降りるどころか、肩にぶつかって雪は散った。雨のように強い痕跡をつけて。気晴らしに出歩いて帰ってくるまでの話。
俺の横にやつは居る。いつものようにパソコンを立ち上げたら普段香らない、酸味の強さが漂ってくる。二つ折りのパソコンを開いただけなのに、その香りは風にあおられて俺の口を通っていく。どこかで味わったことがあるのような、そんな香り。そう、やつは、ブラックコーヒーをここぞとばかりに飲んでいた。
ひび割れたその顔は、水と間違ってお酒を飲んでしまった未熟な子供のような顔で俺を見つめていた。自分でブラックコーヒーにしているくせに俺のせいとばかりに睨んでくる。目のやり場のない俺は、早く壊れた本体PCの画面の代わりに使用しているディスクトップ画面を待った。いつもなら一呼吸をすれば映し出される画面が、鼓動の速さのあまりに長く感じた。
やつからの息からは、色んな人たちの気持ちを焙煎してきたような匂いが漂い舞う。
一気に飲み干してしまったやつの真っ白いコーヒーカップは、ブラックコーヒー特有のシミがこびり付いていた。
ディスクトップ画面がようやく開いた頃には、2杯目のコーヒーを眉間にしわを寄せて呑んでいた。苦いからではない、やつは、いや俺は、自分自身に対して苛立っていた・・・。
俺の本体パソコンは、自分の衝動性の些細なる怒りによって画面が壊れてしまった。ディスクトップ画面を利用しながらパソコンを利用していた俺自身は、夜に反射鏡として映る自分と対峙をしながら小説を綴っていたのだ。そこに映し出される顔はふれてきたように、自分の心とは意志反するような顔ばかりだった。ただ瞳だけはよく言ったもので正直だった。
俺が俺らしくあるためにはこの小説を綴り、俺自身が読むために作られたものだった。編集者のごとくいちいち口を出す自身の心は、参るばかりだ。それでも半々に気持ちを汲み取ることによって、この物語は進んでいった。
現実と非現実を行き来しながら読者を巻き込み、新たなる手法でネタが組み込めれていき、形作られた。
この小説に出会い優しく降り積もっていくと期待していた読者は、物語が進むにつれ自身の愚かさに目が覚めた。まるで今回の話数の冒頭の始まりのように、雪としてではなく雨として地面に叩きつけられた。
一方の俺は、久々に堕とし余されていたコーヒーをカップに新たに注ぎ一口でまた飲み干した。
降り積もらない雪を眺めて想いを馳せる。
『”小説”という定義が難しい。俺という存在から、物語を生み出している。経験したことがないことは、正直、綴りようがない。俺が俺として生きてきたから、物語を順調に綴れ、深みを描け、説得力をもたせながら、伝えたいテーマへ導くことが出来る。でも、出来てないと自覚をしている。けど嘘を書いたところで文にゆがみが生まれ、話がそれて何が書きたかったのか判らない作品は作りたくない。読者がどう反応しようと』
夕方に微かに映るもう一人の自分は、そう話しかけていた。それを俺は、そのもう一人の自分を通してさらに第三者目線でこの物語を本体に書かせている。いわいるこうして綴っている俺は、本体の物語の筋書き通りに動いているだけなのだ。
俺は、俺から逃げられないことに苦しんでいる。読者だけがこんな俺を救える。
この小説を綴る本体が喋れる、「伏線は回収出来たかな?」




