俺のまわりで、現実的なやつ。
そう、だから、俺のとなりにはうるさいやつがいる。
安定剤ととん服剤(眠剤としてでも併用できる)薬を飲み忘れた俺は、そのまま夜更かしをし、朝には地区子ども運動会に参加するお友達の子どもの面倒をみるために早起きをした。朝の服薬も忘れたから、さらに気分が絶好調だった。だからなのか、今日の夜もとなりでガヤガヤと俺の編集者が騒いでる。
「子どもと触れ合えたからってニヤニヤすんなや。そんな時間よりも、履歴書を触ってソワソワしろよっ。面接まであと三日、いや二日じゃないかよ?しかも今はもう夜10時、面接日もその朝の10時、この意味わかるよな!!就労支援で支えてるスタッフの気持ちを考えてるんだよなっ??」
横にいるお前の顔は、優しさを押さえ切れなかった殺人犯よりも怖い顔をして睨んでくる。
そう、お前の言うとおり俺は、三日後には面接を終えて家にいるだろう。そしてお前にまた監視されながら俺は小説を綴りにパソコンに向かうだろう。ただ、お前には直接云わないが画面を通して伝えたいと思う・・
「おめぇ一回死んでこいや」
お前なんかに、読点も句点も付けたくないほど腹立つな。お前、家にいなかったから解らないだろうけどよ、俺、久々だったんだぜ?あんなにたくさんの幼児や小学生たち、そして少々の中学生を目の前に、保護者もいる子もいるなかで、出来るだけみんなが楽しめるように俺は心を開けていたんだぞ?緊張してる子には面白い顔をしてみたり、興奮している子には逆にこっちからもちょっかいをかけて進行係の人に眼を向けるように仕向けたり、怪我しちゃった子には寄り添いにいったり、クルクル回る子には一緒にクルクルまわったり、寝そべってしまう子には一緒に体育館の床の温度を共感したり。赤組には赤組の応援を。白組には白組の応援を。パン食い競争で親が参加したとき、息子が「おかぁあさん、ぜったいにメロンパンねぇ~」て応援してる横で一緒に「採れるよ~」って盛り上がったり、携帯を構えて親の勇姿を撮ろうとしてる子に「いい写真撮れるといいね」て、ギリギリの立ち入り線まで行って応援したりもした。最後のリレーなんか、携帯をいじっている子もいて難しいかなとは感じてはいたけれども、ひとりひとりにちゃんと声援をしていたら答えるようにして、みんな他の競技よりも、楽しそうで嬉しそうで何よりも真剣に走っていたんだ。途中経過のところで俺が応援するものだから、負けていた子が追い越しに成功したりとか、応援されてるって気付いて笑いを隠せないでいた子もいた。なによりもみんなの証拠になるのは、リレー時の、とんでもない黄色い声援じゃないのかな・・・。それまで、どっち勝っても関係ない的な声援だったのにね。みんながみんなを一人ずつ声援していたよね。
・・・って、悪かったな!独りの子を見守りのはずが、大丈夫過ぎたもので…、逆に周りの子達がまとまりがなかったり、競技待機中なんだけど移動中に起こる競技範囲線に入ってしまうことがあるから、ボランティア警備してたはずだったのに…役割の保護者さんたちを差し置いて、動き回ってしまってね!!そうだよ、俺こそ死ぬべきだよな!
なんだよ、そのお前の顔は!!
昔からそうだった。ホント、昔からそうだった。俺は、自分が熱を注ぎたいと思ったものにはトコトン突き進めて行った。グループがあったとしても、みんなの役割なんか頭に入らなくて、逆にみんなの言うことがわからなくて孤独になっていた。この役割なんだから、もっとこうだろ?なんで、それで終わりなの?
違う、違ったんだ。現実を良く見ていたのは俺じゃなくて、お前らだった。知っていたよ、だからあの時から給食をひとりで食べるようにしたんだ。わかっていたよ、だからこの校舎の上から落ちることの勇気があったらいいって。黒板に記された大事な学びを必死に書き写そうと、何度も何度も書いては消して書いては消してを繰り返した。先生が大事だって言うから。汚い字で書き写してしまうから、何度も消しゴムを使った。黒板の4分の1も書けない日がざらにあった。
どんなに一生懸命に生きていても、忘れものは本気で忘れてたときに気付かされた。あの時は思い出してたのに、どうしてって?毎回それで自分が一番ダメな人間だって、唇を噛み締めていたのになぜ出来ない?
なぜ、俺は人間じゃない?
なぜ、「見た目は普通なのにね」「嫌がらせなの?」「やる気ないの?」と俺は告げられる?
就労移行支援終了まであと4ヶ月。その間、どこも面接に行けなかった。北海道内で北海道に関する自然・観光・文化・資源を大事に出来て、それらを発信できる仕事をしたいと求人を探した。どれも俺にはあてはまらなかった。『そんな求人は無いよ』と、余命宣告のような言われかたされた日もあった。
お前が言うとおり、俺は間違っている。父親が毎日ため息と独り言じゃない独り言をつぶやくのと同じように、俺は『とにかく何でもいいから職についてしまえばいい』のかもしれない。
北大の学食の調理員なんて、そう簡単にあるものでもないしね。
なんだぁ?鏡に映るお前自身。
口角の高さと瞳の輝き・・矛盾してんしゃねぇのか?




