004話 夜の来訪者
私はこんな夜更けに部屋を訪ねてくるなんて誰だろうと思いました。
警戒しつつ「あ、あの……どちら様でしょうか?」と言ってみました。
すると「マ、マルフィスです……だ……」とのお返事でした。
マルフィス……?
……あっ。魔王様じゃないですか。
そう気づいた私は部屋の扉を開けようとしましたが───。
(ならぬ!!! 扉をあけるな!)
「───っ!!!」
急にお母様が大きな声で私を制しました。
「えっ? ええっ? あ、あの、お母様。扉を開けては駄目なんですか?」
(駄目じゃ! 魔王がこんな夜更けに母の部屋になんの用があるというのじゃ! 絶対に……うっ……ぜ、絶対に……う、うぅ……)
お母様が苦しそうなので私は心配しました。
「だ、大丈夫ですか、お母様? 倒れられたばかりですし大きな声を出すなど無理をなさらないほうが……」
(う……ぐっ……口惜しや……。残念ながら妾は眠る。
よいか……! 魔王を部屋に入れるな……! お、追い返すのじゃ……!)
そういってお母様は倒れるように眠られたようです。
お母様に魔王様を追い返すように言われてしまいましたが、どうすれば良いのでしょうか……。
私が困っていると扉の向こうからもう一度、魔王様の声が聞こえました。
「か、体の具合はどうだ? よ、様子を見に来ただけだ。 大丈夫なら……大丈夫ならそれでよい……」
そういって魔王様は扉の前を離れようとされているようでした。
私は反射的に扉を開けてしまいました。
「魔王様っ! まって下さい!」
扉が急に開いたので魔王様はとても驚いたご様子でした。
───いえ。扉が急に開いたので驚いたのではなさそうです。
そもそも扉を開けてもらえたこと自体───そして私───つまり母であるネフェルが出て来てくれたこと自体に驚いておられるようでした。
お母様にあれほど厳しく魔王様を追い返すように言われたのに、どうして私が扉を開けてしまったのか───。
───それは違和感です。
魔王様の態度にとてつもなく大きな違和感を覚えたからです。
「ネ、ネフェルよ、だ、大丈夫なのか?」
「私より……私より───魔王様こそ大丈夫ですか?」
私がそう気遣うと、魔王様はビクリと身体をこわばらせました。
「な、なぜそのようなことを訊く……の?」
「な、なぜって……なぜってそれは魔王様が───魔王様がとてもショックを受けておられるからですっ!」
私はわかりました。魔王様から感じる違和感の正体が。
魔王様はとてもショックを受けておられます。
そのショックの正体───それは自分の母親が目の前で倒れるという衝撃的な光景によるものです。
そしてさらに魔王様は、自分がショックを受けていることがバレないように必死に平静を装おうとしているのです。
なぜ───?
どうして───?
魔王様はまだまだ童心が尾を引く幼い男の子。
そんな男の子が目の前でお母さんに倒れられたら動揺して然るべきです。
どうしてそれを必死に隠さないといけないのでしょう?
気が付くと私は魔王様を抱きしめていました。
「びっくりさせちゃってごめんね。お母さんが急に倒れたらびっくりしちゃうよね」
私は───正確には私が倒れたわけではありませんが、今、私の身体は魔王のお母様の身体なので───本当のお母様に代わり、魔王様に謝ることにしました。
「もう大丈夫。もう大丈夫だから心配しないで」
私はそういって魔王様を包み込むようにしっかりと抱きしめました。
「ほ、本当か? ほ、本当にもう大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。大丈夫」
それは私の身体が「大丈夫」というよりも、魔王様を安心させる為の「大丈夫」でした。
「怖かった?」
私がそう問いかけると魔王様はコクンと頷きました。
「お母さんがこのまま死んじゃうかと思って心配したんだよね?」
またもや魔王様はコクンと頷きました。
「怖い思いをさせちゃってごめんね。本当に……本当にもう大丈夫だから安心してね」
すると魔王様は私にそっと手を回し、ひしと抱きつきました。そして「うん……」と頷き、そして───……そして大粒の涙をボロボロと流し始めました。
まるでダムが決壊し、堰き止められていた水が一気に流れ出たかのようです。
私は魔王様が泣き止むまで、その涙を一粒残らず受け止めました。
「お母さん、なんで今日はそんなに優しいの……?」
ようやく泣き止んだ魔王様は、そのことが不思議でならないといった様子です。
どうやらふだんお母様は魔王様にとても厳しくされているようです。
「そ、それはそのぉ~……あっ! た、倒れたからだよ! だからお母さんは今、ちょっとおかしいの」
そういうと魔王様は「それじゃあ、治ったらまた元に戻るの?」と心配そうにされました。
ああああ……しまった。確かにそうですね。
困りました。どうお答えしましょう……。
「そ、それは、えーっと……。と、とにかく今は優しいから大丈夫! そ、それよりまだ大事なことがあるよね?」
「大事なこと……?」
「そう。大事なこと。とってもと~っても大事なこと。私に───お母さんに言いたいことがあるよね?」
そう喝破すると魔王様はとても驚かれたようでした。
私をなめてもらっては困ります。
伊達に「社内で一番の気遣い苦労人」と言われているわけではありません。
これまでの人生、ついつい相手を気遣い、自分の事より他人の事を優先して損な役回りをどれほど繰り返してきたことか……。
そんな私ですので、魔王様がまだ何か隠されていることを見抜くなんて朝飯前です。
「言いたいけど誰にも言い出せず、ずっと我慢してるんだよね? 私なら大丈夫。お母さんなんだもん。なんでも聞くよ。だから言って。自分の中に溜め込まないで吐き出しちゃって」
「いいの? 本当に言っていいの?」
私はゆっくり力強く、諭すように頷いて見せました。
まだ警戒していた魔王様ですが、野生動物が恐る恐る人に近づくように、ポツリと漏らしました。
「……僕、魔王になりたくない」
※ ※ ※
翌朝、目が覚めると、私は魔王様を庇うように抱きかかえて寝ているのに気づきました。
魔王様も私の胸の前で丸まり、すやすやと寝息をたてておられました。
両目は泣きはらして腫れていましたが、表情は穏やかで心地よさそうです。
そのお姿に私は子犬や子猫を慈しむような愛苦しさを覚えました。
───いえ。それ以上の愛おしさがあったかもしれません。
それは不思議な感覚でした。
胸がときめくのと同時に、何事にも立ち向かえる勇気と、いかなる犠牲を払ってでもこの子を守るという決意が膨らむような感じでした。
私は理解しました。
───なるほど。これが「母性」ですか。
それは今までに知り得なかった強力な力でした。
私は世のお母様たちがあれほどまでにお強いことにとても納得ができました。
お世話になっております。柳アトムです。
ここまで私の小説を読んでいただき、本当にありがとうございます。
( ᵕᴗᵕ )ウレシイデス
ここまでのお話はどうでしたでしょうか?
(,,•﹏•,,)ドキドキ
魔王様が「魔王になりたくない」と吐露しましたが、それがどういうことなのか?
どうかどうかご期待いただけますと幸いです(ニヤリ
皆さまのご期待にそえるよう頑張りますので~!
୧(˃◡˂)୨
この後も皆様に「面白い!」と思っていただけるよう頑張ります。
( *˙ω˙*)و
引き続き宜しくお願い致します~!
୧(˃◡˂)୨




