↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
18/24

018話 危険!テイマー部には近づくな!

 ユキメとネフェルは決闘大会が行われる闘技場(コロシアム)に向かった。

 闘技場(コロシアム)に近づくと徐々に人が増え、周囲が熱を帯び始めた。

 どの学生も決闘大会がお目当てで、楽しみにしていたのだ。


 やがて人だかりとなってなかなか目的に向かって進めなくなった。

 ますます混雑がひどくなり、ネフェルとユキメは人の波に揉まれ、もみくちゃにされた。


「あっ。ユキメお姉さん。こっち。こっちの方は人がすいてます。こちらからまわりましょう」


 ネフェルは人だかりの間に通りを見つけ、ユキメに提案した。


「あっ! まってっ! だめよ、ネフェルちゃんっ! そっちはテ(・)イ(・)マ(・)ー(・)部(・)があるから行っちゃダメっ!」


 ユキメはネフェルを行かせまいと服を掴もうとしたが寸前で手が届かず、人の波にさらわれてしまった。

 そして二人の間には波が流れ込むように学生が氾濫し、距離が離れてしまった。


「ユキメお姉さんっ! こっちですっ! こっちこっちっ!」


 人混みの波の合間からネフェルが手を振ってユキメを呼んでいた。


「まって、ネフェルちゃん! そっちはダメ! テ(・)イ(・)マ(・)ー(・)部(・)が(・)あ(・)る(・)か(・)ら(・)い(・)か(・)な(・)い(・)で(・)!」


 ユキメは必死に呼びかけたが、ネフェルはどんどん先へと流されていってしまうかのようだった。

 なんとかユキメはネフェルに追いつき、寸前でネフェルの腕を掴んでそれ以上先に行くことを阻止できた。


「ど、どうしたんですか、ユキメお姉さん? 不思議とこちらには人がいないですよ。ここから闘技場(コロシアム)に行きましょうよ」


 ネフェルはそう提案したがユキメはかぶりをふった。


「ダメよ、ネフェルちゃん。こっちはダメ。こっちに人がいないのは、みんなテ(・)イ(・)マ(・)ー(・)部(・)が(・)あ(・)る(・)の(・)を(・)知(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)か(・)ら(・)よ(・)」


「テイマー部? テイマー部って、魔獣を使役するテイマー属性の人が集まる部ですよね?」


「そうよ、そのテイマー部よ。あのね、ネフェルちゃん。テイマー部は危険なの。学園で一番凶悪と言っても過言じゃないわ。だから絶対に近づいちゃダメ」


 ネフェルはユキメが血相を変えてそう諭すので、テイマー部はそんなに危険なのかと訝しんだ。

 ネフェルはこれまでもテイマー属性の人を何度も見かけていた。

 確かに優秀なテイマーは巨大な魔獣を従わせ、意のままに使役させていた。

 ネフェルの領地にも牛(ミノタウロス)をテイムし、家畜として飼っているテイマーがいた。そういえば子供の頃はよくあの牛(ミノタウロス)にイタズラして追いかけ回されたものだわ。あの牛(ミノタウロス)は元気かしら?とネフェルは郷里を懐かしんだ。

 しかし、しっかりテイムされた魔獣は命令に従う為、どんな凶悪な魔獣でも近づいて襲われるという事はなかった。───自分からイタズラをしない限りは。

 その為、ネフェルはどうしてユキメがこんなにもテイマー部を危険視するのか不可解に思った。

 それにユキメの警戒の仕方は本当に大仰だったので、自分が知らないだけで、実はテイマー属性の人は魔獣だけではなく、人さえもテイム可能で、近づくと自分たちも支配下に置かれてしまうのだろうかと一抹の不安を覚える程だった。

 そうしてネフェルが頭を悩ませているその時だった。

 空を切り裂き、大地を震わせるような咆哮が鳴り響いた。

 それは明らかに巨大な魔獣の咆哮だった。

 それも一匹や二匹ではない。

 一匹の魔獣の咆哮に端を発し、何十という魔獣の咆哮が輪唱するかのように合唱された。

 この角を曲がった先にあるテイマー部にはそれだけの巨大な魔獣がいることが容易に想像できた。


「ほらね。今の咆哮を聞いたでしょ? この先には危険な魔獣がたくさんいるの。早くここから離れましょう」


 ユキメはそう言ってネフェルの袖を引っ張ったが、ネフェルはついその魔獣たちを見てみたい衝動にかられてしまった。


「だめだって、ネフェルちゃんっ! 本当に───本当に危険なんだからっ!」


 ユキメは懸命にネフェルの袖を引っ張って思いとどまらせようとしたが、ネフェルは「ユキメお姉さん、ちょっとだけ。遠目にどんな魔獣がいるのか角からちょっと覗くだけですから」と言って角から顔を出した。


「ネフェルちゃん、ダメよ! 見ちゃダメ!」


 ユキメは慌ててネフェルをひっぱったが遅かった。

 ネフェルは角から顔を出し、テイマー部の出し物を目の当たりにしてしまった。

 そこにはアーチ型の大きなゲートが設けられ、ファンシーな文字で「よこそ!テイマー部魔獣どうぶつ園へ!」と文字が書かれていた。

 大きな檻が幾つも並び、その一つ一つにドラゴンやグリフォン、ミノタウロス、それにトロールやゴーレムといった巨大魔獣や、ドライアードやサラマンダーなどといった珍しい精霊が入れられていた。

 ピエロ姿のテイマー部員が風船を配り、行き交う学生たちは魔獣や精霊を眺めて楽しんでいた。

 確かに巨大な魔獣は威圧感があったが、そこにユキメがいうような危険があるようにはネフェルは思えなかった。

 いずれの魔獣も精霊も、しっかりテイムされていて、大人しく檻に入っていたからだった。


「あの、ユキメお姉さん。この先に危険はなさそうです。皆さん、楽しそうにしておられますよ?」


 そうネフェルは言ったがユキメは「それ以上は見ちゃダメ! ネフェルちゃん、早く戻って! 本当に危険だから!」と尚もネフェルを引っ張った。


 ネフェルは何がそんなに危険なのか全くわからなかったが、ユキメがあまりに強く自分を引っ張るので、諦めて戻ろうとした。


 ───が、しかし、その時だった……。


 ネフェルはそれを見て、まるで自分が石にでもなってしまったかのように体が硬直してしまった。

 それは石化魔獣の檻───つまり鶏の頭に蛇の尾を持つコカトリスや石化する毒ガスを吐くバジリスク、さらに見た者をすべからく石像にしてしまうメデューサなど、いずれも危険な石化魔獣の檻───の、その先にある『モ(・)フ(・)モ(・)フ(・)ふ(・)れ(・)あ(・)い(・)コ(・)ー(・)ナ(・)ー(・)』と書かれた看板だった。


 そして看板の傍らには小さな柵で囲いがされていて、その中に───その中に子犬や子猫など、モフモフした小動物がギュウギュウに詰まっていたのだ。

 そしてネフェルの目を釘付けにしたのは、学生が一人一人順番に柵の中に入り、モフモフのヌイグルミのような小動物たちにもみくちゃにされている姿だった。

 ネフェルは急速にユキメの声が遠のくのを感じた。

 全神経が『モフモフふれあいコーナー』に注がれ、他のものは何も耳や目に入らなくなった。

 ただただ自分の心臓の音だけがドクンドクンと鳴っていた。

 ユキメの制止をすり抜け、吸い寄せられるようにフラフラとネフェルは『モフモフふれあいコーナー』に近づいた。

 すると柵を飛び越え、一匹の白いモフモフの子犬がネフェルに駆け寄ってきた。

 子犬は嬉しそうにネフェルの足をまわってまとわりつくと、ゴロンと寝そべってお腹をだした。

 「撫でて、撫でて~」と言わんばかりのアピールに、ネフェルは為す術もなく手を伸ばし、一心不乱にお腹をワシャワシャと掻きむしってしまった。


「だからダメだって言ったのに……」


 ユキメは自分の無力感に苛まれ、両手を地面について打ちひしがれた。

 その間にもネフェルは一心不乱に子犬のお腹をワシャワシャと掻きむしり「いや~ん」だの「きゃわわ~」だの声をあげて悦に入った。


 どれくらいネフェルが子犬と戯れた後だっただろうか───。


 ネフェルはハッと我に返った。


「あっ……。わ、私、ここで何を……?」


「ネフェルちゃん、気が付いた? あなたはテイマー部の策略にまんまとハマってしまったの。この「モフモフふれあいコーナー」は魔性の出しモノなの。毎年、何百人もの生徒がこのコーナーの虜になり、時を忘れてただただモフモフをワシャワシャと撫でまわしてしまったことか……」

 

 そうユキメが説明する間も、子犬はお腹を出して身をくねらせ「撫でて、撫でて~」とアピールを続けた。


「もう、ウィンリル君、ダメよ。 めっ、よ。 めっ。 もう元の姿に戻ってちょうだい」


 ユキメにそう言われると、子犬はピタリと動きを止めた。


「え? ウィンリル様? え? この子犬が?」


 そうネフェルが驚いた瞬間だった。

 子犬が「ボンッ!」という音とともに煙に包まれたかと思うと、中からウィンリルがあらわれた。


「────っ……!!」


 ネフェルは息を飲んだ。


「ユキメ先輩、よくボクだってわかりましたね」


 ウィンリルは後ろ頭を掻いて「あちゃー、バレたか」といった様子だった。


「バレるわよ。毎年の事ですもの。テイマー部はその年の新入生を「真の姿」にして「モフモフふれあいコーナー」で見世物にするのは恒例よ」


 その説明にネフェルは「え? そうなんですか?」と驚いた。


「そうよ、ネフェルちゃん。あの柵の中にいるモフモフたちはね、みんな今年入部した一年生たちの真の姿なのよ」


 それは驚きの説明だったが、しかし確かにそれならみんな、まだ幼い子犬や子猫のようになる説明に納得ができた。


「すっかりやられて時間を奪われてしまいました……。ユキメお姉さん、ごめんなさい。せっかく危険だと教えてくださったのに……」


 ネフェルは自己嫌悪した。


「ええ~? そんな、危険だなんてひどいよ~」


 そう言ってウィンリルは真の姿になると、またお腹を出して「撫でて、撫でて~」とアピールをした。

 その姿にネフェルはまた引き寄せられそうになった。


「もう。ウィンリル君っ。ダメだってばっ。元の姿に戻ってっ」


 そう云われてウィンリルはしぶしぶといった様子で元の姿に戻った。


「ネフェルも僕を撫でまわして至福の時間を過ごせたでしょ? 危険だなんて、そんなことぜんぜんないよ」


 ウィンリルはそう言ったが、たくさんの時間を奪われてしまった今、ネフェルは確かにこれは危険だ……いや危険すぎると痛感した。



 ※ ※ ※


心優「お母様はこの時にウィンリルさんの洗(・)礼(・)を受けていたんですね」


ネフ「そうじゃ。まったくひどい目にあったものじゃ。おかげで闘技場(コロシアム)に着くのが遅れてしまい、多くの試合を見逃してしまったのじゃ」


心優「ユキメお姉さんが必死にお止めしようとした理由もわかりました。確かにこの「モフモフふれあいコーナー」に抗うことはできませんね」


ネフ「しかもウィンリルはこれで味をしめよってな。自分の意見が通らぬと、事あるごとに子犬の姿で妾に訴えるようになった。何度その策略にやられ、ヤツの言う事をきいてしまったことか……」


心優「確かに、この姿でおねだりされたら抵抗は難しいですね」


ネフ「そうじゃ。じゃから今一度、念を押すために申すぞ。四人兄弟の中でヤツが最も厄介だ。決してヤツの機嫌を損ねるでないぞ」


 ウィンリルさんの恐ろしさを再確認した私はしっかりと頷き、この事をゆめゆめ忘れないように誓いました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。