計画
ダイエット計画について話し合おうとした、その時――
「失礼いたします。遅くなりまして、申し訳ございません」
アンナがティーワゴンを押しながら、部屋へ入ってきた。
そして、慣れた手つきで机の上にティーカップを並べていく。
「お茶菓子は、マカロンでよろしかったですか?」
最後に、色とりどりのマカロンが乗った銀の皿を机へ置き、アンナが尋ねる。
「よろしくなくてよ!」
俺は即座に否定した。
「はい!」
対して、エマは目を輝かせて元気よく返事をする。
そして、さっそくマカロンへ手を伸ばした。
「申し訳ございません!」
慌てて頭を下げるアンナをよそに、俺はマカロンの乗った皿を取り上げる。
「あぅ……」
エマの手が空を切り、悲しそうな声が漏れた。
「エマさん、ダイエットをするのですよね?!」
俺は、先ほどの宣言と目の前の行動の矛盾を指摘する。
すると――
「ダイエットは、明日からにします!」
エマは即座に宣言した。
そして、マカロンをくださいと言わんばかりに両手を広げる。
(駄目だ、こいつ……。何とかしないと……)
俺は頭を抱えながら、エマを説得する方法を考えた。
「よろしいですか、エマさん。今日、今から頑張ることに意味がございますの」
「マカロン以上にですか?」
エマは不満そうに口を尖らせる。
「むしろ、マカロンだからこそ我慢することに意味があるのです!」
「はい?」
エマは不思議そうに首を傾げ、まるで怪しいものを見るような目を向けてくる。
だが、俺は構わず続けた。
「エマさんは、マカロンがお好きですか?」
「はい! お母さんが焼くパンの次くらいに好きです!」
エマは力強く頷き、即答した。
(根は純粋で、いい子なんだろうなぁ……)
俺はそんなことを思いながら、話を続ける。
「では、今日マカロンを我慢して、ダイエットを始めるといたしましょう?」
「はい……」
「そして、明日になって甘い物が食べたくなった時――」
俺はエマの目を見ながら、ゆっくりと言葉を続ける。
「今日マカロンを我慢したことを、無駄にしたくないと思えば……もう少しだけ我慢できる気がいたしませんこと?」
「うーん……」
エマは頬に右手の人差し指を添え、真剣な表情で考え始めた。
(……さすがに無理があったか?)
俺が半ば諦めかけていると――
「……できるかも……?」
エマが顔を上げた。
「いえ、私、できます!」
強い眼差しで、はっきりと言い切る。
(……この子、めちゃくちゃ単純だな)
俺は、ほんの少し不安になった。
(大丈夫かなぁ……?)
それでも、今は前に進むしかない。
「そういうことですので、アンナ。これからはカロリーの高いものは控えるようにしてくださいまし」
俺はマカロンの乗った皿をアンナへ差し出した。
「かしこまりました」
アンナは皿を受け取ると、一礼する。
そしてティーワゴンへ戻しながら、小さな声で呟いた。
「……お嬢様も一緒にカロリー制限をする必要はないのでは……?」
「それでは、本題のダイエット計画に移りますわよ!」
俺が立ち上がって高らかに宣言すると、アンナがどこからともなくホワイトボードを用意してくれた。
「はい! セシリア様!」
エマも乗り気のようで、ノートとペンを手にしている。
俺はホワイトボードの前に立つと、まずはダイエットの大原則を書き始めた。
「ダイエットの大原則は――」
「消費カロリー>摂取カロリーですわ!」
ホワイトボードに大きく書きながら、俺は続ける。
「そして、健康的に痩せるためには、食事量を少し減らし、タンパク質の摂取を心がけ、適度な運動を行うことが必要不可欠ですの!」
演説に熱が入り、俺は重要なポイントを三つ書き込む。
そして――
バンッ!
バンッ!
バンッ!
勢いのまま、ホワイトボードを叩いてしまった。
「運動ですか……?」
エマが、予想通り少し嫌そうな顔をする。
「いきなり、無理に走れなんて言いませんわよ」
エマが運動を嫌がることは予想できていた。
だからこそ、俺は冷静に話を進める。
「走らなくてもいいのですか?!」
エマは、途端に嬉しそうな顔をして食いついてきた。
「そこまでは言っていません!」
話が飛躍しそうだったので、俺はきっぱりと否定する。
「えぇ~……」
エマは露骨にがっかりした。
「その代わり、楽しく運動を行いませんこと?」
「どうやれば、楽しく運動できるのですか……?」
エマが、まるで詐欺師を見るような目で聞いてくる。
「それは、部活動ですわ」
俺は自信満々に答えた。
「仲間と共に運動をし、時に笑い、時に泣く。そして、互いをライバルだと思い、切磋琢磨していく……」
俺は一度言葉を切る。
そして、エマへグイッと顔を近づけた。
「これほどまでに楽しい運動が、他に存在しているとお思いですか?」
「お、おお……?」
エマが、俺の勢いに押されている。
その横では――
パチパチパチパチ。
アンナが拍手をしてくれていた。
「な、なんだか……楽しく運動できそうな気がします!」
どうやらエマも完全に雰囲気に流されたらしい。
(流されやすいなぁ……)
俺は、内心苦笑しながらもすかさず畳みかける。
「それでは、明日の放課後に部活動見学に参りましょう!」
「は、はい!」




