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ダイエット

自己紹介を無事に切り抜けた俺は、次に「魔法属性検査」というものを受けることになった。

「じゃあ、一番端のセシリアさんの机にいる人から順番に、この水晶に手をかざして魔力を込めてくれ」

カレン先生の指示に従い、俺は教壇に置かれた水晶へ向かう列に並んだ。

(魔力を込めるって、どうやるんだろ……?)

一抹の不安を抱えていると――

「先生、魔力を込めるってどうやるんですか?」

先頭に並んでいた男子生徒が、水晶に手を置きながら首を傾げて尋ねた。

(ナイスだモブキャラ!)

俺は心の中で男子生徒のことを褒め称えた。

「へその下にある魔力を意識して、それが血流に乗って掌までやってくるイメージをするんだ」

カレン先生が簡単に説明してくれる。

(へその下にある魔力……?)

聞き慣れない言葉に首を傾げながらも、俺は目を閉じ、へその下辺りを意識してみた。

すると――

淡い紫色をした、日の玉のようなものが見えた。

(……これが魔力か?)

何かを掴みかけた、その時。

「セシリアさん? 大丈夫か?」

「……はい?」

カレン先生の声に、俺は慌てて目を開けた。

すると――

先ほどまであったはずの列が、すっかりなくなっている。

いつの間にか、俺の番になっていた。

「も、申し訳ございません!」

慌てて水晶の前まで小走りで向かい、右手をかざす。

そして――

(さっきのイメージ……。さっきのイメージ……)

落ち着いて、魔力が右手へ流れ込んでくるイメージを思い浮かべた。

フォンッ!

すると突然、目の前に謎のモニターが浮かび上がった。

(これが診断結果か……?)

不思議に思いながら、その画面をじっと見つめる。

すると――

「……セシリアさん。緊張しているのか?」

カレン先生が、少し困ったような、呆れたような声で言った。

「携帯の画面は開かなくていいんだぞ?」

「……」

教室から、クスクスと笑い声が聞こえてくる。

「セシリア様って、意外と天然なところもお持ちなのですね」

「完璧主義者の冷徹な女性っていう噂は、嘘なのかしら?」

ヒソヒソとした声まで聞こえてきた。

「申し訳ございません!」

顔に血が上るのを感じつつ、慌てて右手を引っ込める。

そして、改めて左手を水晶へかざした。

今度こそ――。

(魔力を込める……!)

意識を集中させる。

すると、水晶が見る見るうちに黒く染まっていった。

「これは……闇属性だな」

カレン先生が、何とも言えない表情で結果を告げる。

「闇属性でございますか?」

結果にいまひとつピンと来ていない俺が尋ねると、

「まあ、犯罪者が多いとか、邪悪なものとか……悪いイメージはあるかもしれないが、気にしなくて大丈夫だぞ! 結局は本人がどう振る舞うかが重要だからな!」

カレン先生は、明るく励ましてくれた。

どうやら、あまり好ましい印象の属性ではないらしい。

しかし――

これで一つ、分かったことがある。

(メタ的に考えると、俺は悪役令嬢ってやつか……?)

そうなると――

(この物語には、光属性を持った正ヒロインがいるはずだ!)

そこで、俺の頭に一筋の光が差し込んだ。

(そいつと王子をくっつけてしまえば、この物語はハッピーエンド! 俺は王子と結婚しなくていいし、もしかしたら現世に帰れるんじゃないか?!)

俺は、見えてきた希望に大きな期待を抱きながら、自分の席へ戻った。

自然と頬も緩んでしまう。

(早く出てこい……光属性の正ヒロイン!)

俺がそんな期待を胸に待っていると――

「こ、これは……光属性じゃないか! 凄いじゃないか!」

カレン先生の驚きの声が、教室中に響き渡った。

(来た!)

俺は思わず顔を上げる。

しかし――

歓声は起こらなかった。

それどころか、教室には何とも言えない困惑と落胆の空気が広がっていく。

(……あれ? どうしたんだ?)

不思議に思った俺は、水晶の前に立っている生徒へ視線を向けた。

そして――

(……嘘だよな?)

そこにいたのは、今朝遅刻してきた少女。

ふくよか、という言葉では到底フォローしきれない体型の――

エマ・ウィートリーだった。


(王子がデブ専なら……いけるか?)

一瞬、そんな考えが頭をよぎる。

(いや、まだあの子が本当にヒロインだと決まったわけじゃない。落ち着け、俺)

午後から始まった入学式の間、俺はずっとそんなことを考えていた。

そして――

「続いて、新入生代表挨拶。エマ・ウィートリー!」

司会の声が会場に響く。

すると、例の女学生――エマが呼ばれ、舞台の上へと歩いていった。

(新入生代表……?)

俺は思わず目を見開く。

(めちゃくちゃヒロインっぽいじゃん……

本当に、あの子がこの物語のヒロインなのか……?)

そう考えた瞬間、俺は頭を抱えた。

(……嘘だろ)

そして、深い絶望に襲われる。

(俺の人生……どうなってるんだ……)

そんなことを考えていると――

(……あれ?)

突然、視界がぼやけ始めた。

目の前が、徐々に白く染まっていく。

(何だ……? 何がどうなって……?)

頭もぼんやりとしてくる。

(これ……ヤバいやつじゃないか?)

そう思ったものの、意識が遠のいていくのを止めることはできなかった。

俺の視界は、完全な白に染まった。


「はっ! ここは?!」

目を覚ますと、俺は見知らぬベッドに横たわっていた。

慌てて周囲を見回すと――

「エマ・ウィートリー!」

視界に飛び込んできたのは、クッキーを頬張るエマの姿だった。

「それと……殿下?!」

その隣には、おまけのようにエマと談笑しているシオンの姿まである。

「お目覚めになられたのですね」

ドスッ。

ドスッ。

ドスッ。

クッキーを片手に、エマが嬉しそうにこちらへ近づいてくる。

「セシリア、大丈夫かい? 入学式で急に倒れたから、心配したんだぞ?」

その後ろから、安心した様子のシオンもやって来た。

「殿下!」

俺は慌てて起き上がり、お礼を言おうとする。

しかし――

「気を使わなくていいから。セシリアは、もう少し横になっていて」

シオンは優しく俺を制止すると、そのままベッドへ寝かせ、布団までかけてくれた。

(俺が女だったら、今のでキュンとしたんだろうなぁ……)

なんて思いながら、素直に横になる。

「ご心配をしてくださいまして、ありがとうございますわ」

俺がお礼を伝えると、シオンは首を横に振った。

「お礼なら、エマに伝えておくれ。彼女が君のことをずっと看ていてくれたんだ」

そう言って、シオンがエマを指差す。

つられて俺もエマへ視線を向けた。

そこには、幸せそうにクッキーを食べているエマの姿があった。

「エマさん、ありがとうございますわ」

(やっぱり、この子がヒロインなのか……?)

複雑な気持ちを抱えながらも、俺は素直にお礼を言った。

「いえいえ」

エマはクッキーを飲み込むと、嬉しそうに答えた。

「セシリアが目を覚ましたし、僕は生徒会に戻るね。エマ、あとは任せたよ」

シオンはそう言い残すと、保健室を後にした。

「はい! 任せてください!」

エマは自分の胸をドンッと叩き、シオンを見送る。

(……あれ?)

俺は、その光景を眺めながら首を傾げた。

(思いのほか、シオンとの友好度を上げられている……?)

もしかすると――

俺が思っていたよりも、話は順調に進んでいるのかもしれない。

そんな淡い期待を抱きながら、二人のやり取りを思い返していると――

ガラッ!

バンッ!

勢いよく保健室の扉が開かれた。

「遅くなって申し訳ございません! セシリアお嬢様! ただいまお迎えにあがりました!」

息を切らしたアンナが、保健室へ駆け込んできた。


ドスッ!

ドスッ!

ドスッ!

俺は、アンナとエマに挟まれるようにして学園を後にし、寮へ向かっていた。

どうやら俺はかなり長い時間、意識を失っていたらしい。

気がつけば、すでに放課後になっていた。

「エマさん?」

俺は、エマがシオンとの恋愛に乗り気になってくれるか確かめるため、声をかけた。

「はい?」

エマは、どこから取り出したのか分からないアンパンを頬張りながら返事をする。

(……どこに隠し持ってたんだ?)

そんな疑問を抱きながら、俺は本題へ入った。

「……エマさんは、学園生活で何かしたいことはございますの?」

その質問に、エマは少し考える。

「うーん……」

そして――

「美味しい物をいっぱい食べたいです!」

満面の笑みで答えた。

(……無理かもしれない)

俺の心が、一瞬で折れかけた。

しかし――

(いや、現世へ帰るためだ。頑張れ、俺!)

必死に自分を奮い立たせる。

そして、さらに踏み込んだ質問をする。

「恋愛などには、ご興味はありませんの?」

「恋愛ですか……?」

エマの動きがピタリと止まった。

そして、頬をほんのり赤く染める。

「そんな……恥ずかしいです……」

モジモジしながら答えるエマ。

(……いや、ワンチャンあるか!)

その反応に、一筋の光を見た。

折れかけていた俺の心が、再び元気を取り戻す。

「でしたら、一緒に頑張りましょう!」

俺はエマの両手をぎゅっと握った。

「はい!」

エマも、とりあえずと言った様子で元気よく返事をする。

「ダイエットを!」

俺は力強く言い切った。

「ええー……」

エマから、あからさまに嫌そうな声が上がる。

だが、俺は気にせず続けた。

「そして――シオン殿下と結ばれましょう!」

「えぇっ?!」

「殿下はお嬢様の婚約者では……?」

エマの驚きの声と、アンナの困惑した声が同時に響き渡った。

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