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演劇部

(酷い目にあった……)

昨日のロシアンシュークリーム対決が頭の片隅をちらつき、俺はすっかり気乗りしないまま、エマと一緒に生徒会室へと向かった。

「失礼いたしますわ」

「失礼します」

俺とエマが生徒会室に入ると、シオンがいつもどおり爽やかな笑顔で出迎えてくれた。

「待っていたよ」

(……よくそんな爽やかな顔ができるな)

俺は昨日の出来事を思い出し、内心で小さくため息をついた。

「さて、全員揃ったようだし、演劇部の練習会場に移動しようか」

シオンは室内を見回して全員が揃っていることを確認すると、席を立った。

「演劇部でございますか?」

昨日までの話にはなかった場所に、俺は思わず聞き返した。

「そうだよ。放送部に撮影の協力をお願いしに行ったら、演劇部も協力したいと申し出てくれたんだ」

シオンは、俺の疑問にあっさりと答えてくれた。

(放送部だけじゃなくて、演劇部まで……?)

どうやら、俺が思っていた以上に話が大きくなっているらしい。

「じゃあ、行こうか。そうそう、今回の撮影に協力してくれるのは全員二年生か三年生だから、安心してね」

シオンはそう付け加えると、俺たちを先導するように歩き出した。

俺とエマは顔を見合わせてから、その後を追い、演劇部の練習場へと向かった。


「お邪魔するよ」

「失礼いたしますわ」

シオンに続いて演劇部の練習場へ入ると、赤髪の女子生徒と、灰褐色の髪をした男子生徒が俺たちを出迎えてくれた。

「やあ! 待っていたよ! 本日はよろしくね!」

「お待ちしておりました」

女子生徒は背が高く、顔立ちも整っている。どことなく宝塚のスターを思わせるような風貌だった。

一方、男子生徒は目立った特徴こそないものの、親しみやすそうな雰囲気をしていた。

(誰だ?)

俺が二人を観察していると、こちらの視線に気づいたのか、女子生徒が一歩前に出た。

「私が演劇部部長のレオノーラ・フレイベルだ」

「僕が放送部部長のマルク・シュナイダーです」

二人はそれぞれ自己紹介をしてくれた。

「わたくしは、生徒会書記のセシリア・モンフォールですわ」

「同じく、生徒会会計のエマ・ウィートリーです」

俺たちも手短に自己紹介を済ませ、会釈をした。

「知っているさ。よろしく頼むよ、次期生徒会長殿」

レオノーラはそう言うと、ツカツカと機敏な足取りで俺の前まで歩いてきて、握手を求めてきた。

(次期生徒会長? 冗談じゃない!)

俺はレオノーラの口から飛び出した不穏な言葉を、心の中で即座に否定しながら握手に応じた。

「よろしくお願いいたしますわ。ですが、次期生徒会長はエマさんの方ですわよ」

「ほう」

「うん?」

「えぇっ!?」

俺の言葉に、レオノーラ、シオン、エマの三人が驚きの声を上げた。

(ここでしっかりと、生徒会長にはならないって明言しておかないとな。それっぽい理由もつけておけば、説得力も増すだろう)

俺は頭の中で軽く考えを巡らせると、すぐさま口を開いた。

「わたくしは、この学園の身分制度を変えたいと思っていますの。せっかくの学生生活ですもの。身分にとらわれず、皆様が平等に過ごせた方が、よい経験になると思いますわ。そのためにも、平民出身のエマさんが生徒会長になることは、わたくしの夢の実現に近づく一歩だと考えていますの」

それらしい理由を、俺は淀みなく並べ立てた。

(我ながら、上手いことを言ったんじゃないか?)

心の中で自画自賛していると、レオノーラは感心したように大きく頷いた。

「素晴らしい心持ちだ! では、セシリア君は副会長ということかな?」

「……」

シオンは口元に手を当て、何かを考えるような仕草をしながら、鋭い視線をこちらに向けてきた。

(副会長もごめんだね!)

俺は副会長も断るための理由を考え始めた。

「いいえ、副会長も務めるつもりはございませんわ。副会長には、新興貴族の方と、わたくし以外の名門貴族の方を据えることで、貴族同士の派閥争いを和らげたいと思っていますの」

「では、セシリア君はどうなるんだい?」

レオノーラは興味深そうにニヤリと笑い、さらに質問を重ねてきた。

「わたくしは裏方に回り、生徒会長と副会長の間を取り持つ相談役くらいがふさわしいと思いますわ」

その場を切り抜けるための言い訳が、自分でも怖くなるほど自然に口をついて出てくる。

「なるほど。だが、それなら――」

「生徒会選挙までは、まだ時間があるし、その辺りの話はゆっくり進めていこう。今は、歓迎遠足の撮影を進めないかい?」

レオノーラがさらに何かを言いかけたところで、シオンが会話を遮るように話を仕切った。

「そうだね。舞台の準備は整っているから、あとはマルク君に任せるよ」

レオノーラはあっさりと話を切り上げると、舞台の裏側へと姿を消していった。

「分かりました。それでは撮影を始めますので、皆様、舞台の上へお願いいたします」

マルクに促され、俺たちは舞台へと移動した。

そこには、黒い布を被せられた銀のトレーが置かれた長机が用意されていた。

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