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生徒会メンバー

「それで、殿下――」

「わぁ! ロイド様にエリオット様ですね!」

そちらの方々は? と尋ねようとしたところで、エマの歓声にも似た大声に遮られた。

(誰だ? 有名なのか?)

俺が腕を組んで首を傾げていると、エマが振り返って勝手に解説を始める。

「セシリア様! あの、仲が悪いことで有名な騎士団長と魔導団長のご子息様たちですよ!」

(ナイスだ、エマ!)

おかげで、少しだけ状況が理解できた。

俺は心の中でエマに感謝する。

「おい!」

「なっ!」

エマの紹介を聞いたロイドとエリオットが、ほぼ同時に声を上げた。

(まあ、エマの紹介文ならそういう反応になるよなぁ……)

若干の同情を覚えつつ、俺はエマに注意する。

「エマさん、ロイド様とエリオット様に失礼ですわよ」

「そうだぞ!」

「左様です!」

二人は息ぴったりに強く頷いた。

「ほら、このようにお二方は息ぴったりで仲良しなんですから」

「違う!」

「違います!」

寸分違わぬタイミングで、二人が声を揃える。

(……えぇ~、息ぴったりじゃん)

俺は喉まで出かかったツッコミを、必死に飲み込んだ。

しかし――

「違うのですか? 息ぴったりみたいですけど……」

エマが容赦なく地雷を踏み抜いた。

「誰がこんな単細胞と息ぴったりですか!」

「誰がこんな根暗と息ぴったりだ!」

二人は互いを指差しながら叫ぶ。

「はぁん?」

「なんですかぁ?」

そして、すぐさま睨み合いを始めた。

二人の額には青筋が浮かび、今にも殴り合いが始まりそうな空気が生徒会室に漂う。

その時――

パンッ! パンッ!

シオンが手を叩いた。

「はーい、ストップだよ」

ニコニコと愉快そうに笑いながら、シオンが二人の間に割って入った。


「見苦しいところを見せてすまなかったね。セシリア、エマ」

場をなだめたシオンが、仕切り直すように俺たちへ向き直った。

「いえいえ!」

エマはニコニコと笑っている。どうやら、先ほどの騒ぎなどまったく気にしていないらしい。

(早く本題に入ってくれないかな……)

俺は若干の疲労と煩わしさを感じながらも、表情には出さずに答えた。

「とんでもございませんわ」

すると、

(ん……?)

シオンが俺を見る目を、ほんの少し細めた気がした。

「早速本題で申し訳ないんだけど、セシリアとエマには生徒会に所属してほしいんだ」

ありがたいことに、シオンは前置きもそこそこに本題へと入ってくれた。

(生徒会か……)

正直なところ、面倒なので即座にお断りしたい。

だが――

(エマとコイツの距離を縮めるチャンスじゃないか……?)

妙案が、俺の頭に浮かんだ。

生徒会で一緒に活動すれば、エマとシオンが仲良くなる機会も増えるはずだ。

(いや、待てよ。エマのダイエット計画を優先したほうがいいのか……?)

しかし、そちらにも懸念がある。

俺はどちらを優先すべきか決められず、黙り込んでしまった。

そんな俺をよそに、エマがもっともな疑問を口にした。

「生徒会って、選挙で選ばれなくてもいいんですか?」

「そうか。僕の説明が不足していたね。すまない」

「いえいえ、そんな!」

シオンは軽く頭を下げると、ロイドとエリオットに目配せした。

すると、ロイドが素早く窓際へ向かい、シャーッとカーテンを閉める。

一方のエリオットは、生徒会室の中央に置かれた長机の上に、水晶球を半分に切ったような透明な半球を置いた。

シオンがそこへ手をかざすと、半球の上に学園の映像が浮かび上がった。

(ホログラム?!)

現代日本ですら、まだ一般的ではない技術を目の当たりにして、俺の胸が高鳴った。

しかし同時に、異世界の技術力に負けているという、なんとも言えない敗北感も込み上げてくる。

俺は複雑な心境のまま、浮かび上がった映像を眺めた。

「まず、この学園の生徒会は、会長、副会長二名、会計、書記の五人で構成されているんだ」

シオンの説明に合わせて、映像の中に『会長』『副会長』と書かれた札のようなものが表示された。

(会長がシオンで、副会長がロイドとエリオットの仲良しコンビってところか?)

俺は勝手に想像を膨らませながら、シオンの説明に耳を傾けた。

「僕が会長で、ロイドとエリオットが副会長だ」

シオンはそこで、少し間を置いた。

(じゃあ、会計と書記はどうなっているんだ?)

俺は生徒会室を見回した。

室内には三つのカバンが置かれているだけで、会長と副会長以外の生徒の姿は見当たらない。

「席が空いていると言うと聞こえが悪いけど、会計と書記はまだ決まっていないんだ」

(決まっていない? 激務すぎて辞めたとかじゃないよな……?)

俺は不穏な想像を巡らせながら、シオンの話を聞いていた。

「どうして会計と書記がいないのですか?」

エマが、遠慮も配慮もない、実に率直な質問をしてくれた。

「この学園の生徒会選挙制度の都合上、会計と書記は一年生に担当してもらうことになっているんだ」

「選挙制度の都合ですか?」

エマが首を傾げる。

「そうだよ。この学園の生徒会選挙は三月に行われていて、二年生になる生徒の中から、次の生徒会長と副会長を選ぶんだ」

「受験が迫る二年生への配慮でございますか?」

シオンの説明から制度の仕組みを理解し始めた俺は、口を挟んだ。

「さすがセシリアだね。その通りだよ。でも、生徒会の動きを知らない一年生に、いきなり生徒会を任せるのは不安だろう?」

「一年生を会計と書記として生徒会に迎え入れ、運営方法を学んでもらう。そして、次の生徒会への引き継ぎ役になってもらうということですわね」

俺は、思いのほかよく考えられた制度に感心した。

(なるほどな。意外と合理的じゃないか)

(……でも、エマは新入生代表だから分かるとして、なんで俺まで選ばれたんだ?)

感心したのも束の間、新たな疑問が湧いてきた。

「理解が早くて助かるよ。問題は、どうやって入学したばかりの一年生から会計と書記を選ぶかなんだ。新入生代表は分かりやすいだろう?」

「ええ。入試の結果に基づく選出であれば、皆様も納得しやすいかと思いますわ」

俺は、先を促すように相槌を打った。

「もう一人は、家柄で選ぶんだ」

「分かりやすいですわね……」

確かに、波風は立ちにくそうな選び方ではある。

ただ、家柄で役職を決めるというのは、少々階級主義的な気もする。

(まあ、貴族社会ならそんなものなのか……?)

俺が内心で引っかかりを覚えていると、シオンがこちらを向いた。

「そういうわけで、新入生代表のエマと、財務大臣を務めるモンフォール家のセシリアに入ってほしいんだ」

(財務大臣?!)

俺は思わず固まった。

(モンフォール家って、そんなにすごい家だったのか?! そんな家のお嬢様の中身が、ただの庶民で大丈夫なのかよ?!)

シオンからさらっと明かされた実家の情報に、驚きと焦りが一気に込み上げてくる。

俺が立ち尽くしていると、エマが勝手に話を進め始めた。

「そういうことなら、喜んで引き受けます! ね、セシリア様?」

エマの純粋な瞳が、俺へと向けられる。

「え、ええ。そうですわね……」

その眼差しに抗えず、俺はとりあえず頷いてしまった。

(まあ、あれだ。エマとシオンの距離を縮めるためだ。これも必要経費だ)

頷いたことへの後悔がすぐに押し寄せてきたので自分を慰めているとシオンは話を進める。

「それならよかった。では、学園の規定に則って、セシリアには書記を、エマには会計をお願いしたいんだけど、いいかな?」

シオンは俺とエマを交互に見ながら尋ね、続けてロイドとエリオットにも目配せした。

すると、二人の表情がみるみる曇っていく。

(……ん? なんだ?)

不穏な様子が気になったものの、俺はひとまず返事をすることにした。

「はい。よろしくお願いいたしますわ」

「はい! 任せてください!」

俺とエマは、そろってシオンの頼みを引き受けた。

「うん……?」

「えっ……?」

ロイドとエリオットが、ほぼ同時に驚きの声を上げる。

二人は困惑した様子で、シオンへと視線を向けていた。

(俺というか、セシリアが生徒会に入るのが嫌なのか……?)

俺が疑問を抱いていると、シオンは二人に向かって、どこか勝ち誇ったような笑みを浮かべた。

「ね? 本当に変わったみたいだろ?」

(なんだ? どうなっている? 俺、何か変なことでもしたか?)

状況が理解できず、俺が内心で首を傾げていると、エマが代わりに尋ねてくれた。

「変わったとは、どういうことですか?」

「いや、書記をセシリアに、会計をエマに頼んだら、セシリアが反対して喧嘩になるんじゃないかって、ロイドとエリオットが心配していたんだよ」

シオンは、楽しそうに説明を続ける。

「『わたくしは財務大臣の娘、セシリア・モンフォールでしてよ! それなのに、どうしてこの平民が会計で、わたくしが書記なのですか?!』ってね」

(なるほど。セシリアはモンフォール家の令嬢としてのプライドが高くて、わがままな子だったのか)

俺はようやく納得した。

(……とはいえ、急に性格が変わったと思われて、怪しまれるのも困るんだよな)

中身が入れ替わったことを悟られないよう、この場をどうにか誤魔化せないものか。

俺は少し考え、ロイドとエリオットをキッと睨みつけた。

「失礼ですわね。わたくしは、もう子どもではございませんのよ。学園の規則を重んじ、無用な争いを避け、殿下をお支えする。それこそが、婚約者の矜持ではありませんこと?」

少しだけ以前のセシリアらしい高慢さを覗かせながら、俺は堂々と言い放った。

「悪かった」

「すみません」

ロイドとエリオットは、ばつが悪そうに足元へ視線を落とし、小さな声で謝った。

(よし。これなら不自然じゃないだろ……)

「はははは! この様子なら問題なさそうだね。じゃあ、手続きを済ませておくから、明日の放課後からよろしくね。二人とも」

「はい!」

「かしこまりました」

こうして、俺とエマの生徒会配属が正式に決まってしまった。

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