クソデカ目玉
深夜、また私は釣りに来ていた。人がいない時間を見計らうとそうなるのだ。だというのに、今日は先客がいるようで。
その波止場は段になっていて、外からの波を受けるようになっている。その段の上に登って、恐らくコウイカ辺りを狙っているだろう餌木(イカ釣り用のルアー)を竿に着けた人物がいた。
「こんばんは」
そう声を掛けると、相手も返してきた。それ以降の交流はない。
こちらはこちらで準備をして、ゴカイ(海釣りのエサの海版ミミズのようなもの)を針に取り付け鱚釣りを始める。
釣果は上場だった。腕がいいのではない、場所がいいのだ。
暫くすると、空気が変わった。まるで近くをバカでかいタンカーでも通りかかっているような、重い感じがしてきたのだ。
私は気にせず釣りを続けていたが、件の人物はそうしなかった。いやできなかったのかもしれない。
彼は突然私の近くに足早にやってくると、
「あの、変なこと言いますけど、今海の中の目玉が、クッソ大きい目玉が二つこっち見てたんです」
そう言った。
私は引き気味にそうですか、とだけ返して釣りを続ける。そんなことよりも切実な問題があった。ゴカイを使いきってしまわないと保存が面倒だからだ。わざわざ買った物を海に捨てるというのにも抵抗がある。
彼はまだ何か言いたそうにしていたが、そのまま帰っていった。私は一人釣りを満喫していた。堤防にキャンプ椅子を置いて座っており、段差があるので海面は視界に入らない。
釣りあげている途中、一回だけもの凄い力が掛かって糸を切られた。多分釣れていた鱚に大物が食いついたのだろう。よくあるよくある。
私は仕掛けを繋げ直して釣りを続けた。
陽が上る頃には気配は消えていた。鱚は親戚にも配った。




