2話 王都での騎士団訪問生活
「シルド~、頭痛い。」
「シルドさ~ん。つらいニャ~。」
「昨日は打ち上げだからって飲みすぎるからだ。」
まったく、昨日の酒癖の悪さにはたまったもんじゃない。
レードなら肝臓のあたりに治癒強化術をかければ二日酔いは解消されるのだが、あまりにもひどいので集中できないらしい。
俺が外から強化術掛けたところで魔力色不一致で不快感が増すだけだしな。
「とりあえず果実水を置いておく。それを飲んで寝ていろ。」
「シルドさんは…どこ行くニャ~」
「一人で町散策しても面白くないから、ギルド寄った後、コウフィン騎士団かルーフィン騎士団に寄ってくる。」
「いってらっしゃ~いニャ」
「り…姉さんケ…兄さん…によろしく。」
「ああ、行ってくる。」
ギルド本部では…いたいた、昨日の受付嬢さんが。
「おはようございます。ルキューデさんでしたっけ。」
「おはようございます。シルド様。今日はどのようなご用件で。」
「昨日は宿の手配ありがとうございました。」
「え?[冒険者から『ありがとう』の言葉が聞けるなんて]いえいえ、とんでもない。これも業務の一つですので。」
「あと、俺たちあてに連絡等入っていませんか?」
「えーと、今のところ入ってませんね。」
「そーですか。あっ、これ俺が焼いたクッキーです。後で皆さんで休憩の際に食べてください。」
生地は前もって作って『収納』してあったので、厨房を借りて焼いたものだ。
型抜きクッキーは時間がかかるので、棒生地を切っただけの簡単なやつだ。
「へ?[贈り物なんて初めてよ!どうしましょ!シルド様ったら私にひとめぼ…]<チョップ>あいた。」振り向くと[先輩!]
「お気遣いありがとうございます。後ほど頂きます。」
「はい。時間があれば夕方にでもまた顔を出します。」
広場には都市地図があり公爵家の場所が描いてある。
ドゥーブルと同様、貴族街は詳細は機密となっているが公爵家だけは別格らしい。
確かに騎士団がいる場所に突っ込むバカは居ないということだ。
本来は馬か馬車で行く距離なので路地に入って『空歩』で屋根伝いに走っていった。
コウフィン公爵邸に到着。したのはいいがどうしよう。本来なら『先ぶれ』を出しておくものなんだろうが。
まあいいか。門前払い(文字通り)食らえばルーフィン公爵邸へ向かえばいいんだし。
「門番さん、すいません。」
「ん?なんの用…その青いジャケット…もしかしてシルド様でしょうか。」
「は、はい。シルドですが。」
「ウェドゥネス卿より聞いておりました。修練場までご案内いたします。だれか、御当主様への連絡と門番の交代を頼む。」
『御当主様への連絡』?ケル兄さんに会いに来ただけなんだけど。
「さあシルド様。ついて来てください。」
『様』付けは落ち着かないな。
ギルドでも『様』付けは最初の挨拶だけだし。
「テイヤ!」<ガンッ!>「ハイハイハイ!」<シュシュシュ!>「エイ!ヤー!」<カキン!カン!>
掛け声と剣戟音が聞こえてきた。
「マイケル=ウェドゥネス卿!シルド=グロップ様をお連れしました!」
それを聞いた団長らしき人が
「全員!修練中断!シルド様前に整列!」
なんだなんだ? 一気に俺の前に整列したぞ。
「シルド様にー敬礼!」
騎士さんたちの動きに対し、俺も神父様から教わってた騎士の敬礼で返礼した。
「直れ! 散開して修練再開!」
皆、元の位置まで戻って修練を再開した。
「コウフィン騎士団へようこそ。シルド君。」
「ケル兄さん、あれは?」
「あれも訓練だよ。騎士団としては集団行動が求められるのでね。」
俺の訪問を訓練に利用したということか。
「ほほう、そ奴がヒロのとこの坊主か。」
普通のおじいさんが現れた。
いや、普通じゃないぞ。気配が全くないし、魔視力でも魔力が見えない。
「どれほどの腕か楽しみじゃw…」
消えた!次の瞬間警鐘が!間に合わ…
<ガッキーン!>
「ほほう。それがヌシの神器か。」
無意識に『収納』から盾を取り出し背後を盾で防御していた。
よく見ると爺さんは真剣だ。こえ~。
「師匠!いい加減新人を見ると切りかかる癖止めてください。」
「かーかっかか。そう言う出ない。こ奴『クロックアップ』もせずに儂の剣を受けよったぞ。」
『クロックアップ』?。パソコン用語ならクロック数をあげ演算スピードを上げることを意味するのだが、この世界には『クロック』という言葉も『アップ』という言葉も存在しない。
「なんじゃその顔は。『クロックアップ』を養父から教わってなかったんか。」
ということは神父様も『クロックアップ』が使えるということか。
言葉のニュアンスからして思考加速術、もしくは、仮面の戦士のように異なる時間流での戦闘術か?
爺さんは剣を治めたのでこちらも自然体に戻した。
「儂はゴーシュ=ライヤーンという。こことルーフィン騎士団で剣術指南をしておるただの爺じゃて。」
どこが『ただの爺』だ!
「俺はシルド=グロップと言います。養父の事をよく知っているご様子ですね。」
「ヒロは儂の弟子の一人じゃて。それ以上はあ奴がヌシに教えていない以上教えられんがの。」
もしかして神父様は騎士だった?
この爺さんからはこれ以上は聞けそうにないな。
「それよりシルド君。盾をどこから出したんだい?」
「これ、マイケル。無粋なことを聞くもんじゃない。これは神器じゃよ。」
「そうですか。[神器ならそういう機能もあるのか]わかりました。」
「ここで立ち話もなんじゃ。あっちで儂と遊んでくれんかのう。」
なんか『遊び』と書いて『ガチ勝負』って言ってそうでやなんだけど。
断るのもなんだ。
「胸をお借りします。」
対人戦の練習と思ってやってみよう。
盾を『収納』して、木剣と模擬剣盾を装備する。
爺さんも準備できたようだ。
で、真ん中にはケル兄さん。
「ではこれよりゴーシュ指南役=シルドの模擬戦を行う。」
やっぱり『ガチ勝負』じゃないか。どこが『遊び』だ。
腹をくくるか。
「かまえ…」
さっきは動きを目で追えなかったんだよな、ならば『心眼』
「始め!」
俺は目を閉じ、爺さんの動きを黒魔力感覚だけで追うようにする。
スピードは眼で追えない。
魔力は偽装される。
となると後頼れるのは、黒魔力の支配下にある空間だ。
そうすると爺さんの動きが…見えた!
<カーン!>
「さっきもそうじゃが、こ奴。反応が早いぞ。」
『クロックアップ』の魔法名からの推測。思考加速を試してみた。
脳の神経系に強化術をかけ1.5倍速での思考となるように調整した結果だ。
おそらく一定以上に加速をかけると、パソコンと一緒でオーバーヒートするだろうから低倍率からのお試しだ。
<カンカンカンカン>
なんとかついていけてる。
が、この爺さんだと『なんとか』程度じゃ満足してくれそうにないな。
「展開型『ソニックブレイド!』」
直線ではとらえきれそうにないので範囲攻撃してみた。
「なに!緑では、無い?!」
横なぎなので避けるにはしゃがむかジャンプするしかなく。
<ガキン!>
「おーーーーーーー!」
黒魔力=空間の刃なので受けても受けきれるものではなく<ズズズズズ>と押されてゆく。
「2連目『ソニックブレイド!』」
だめ押しで、もう一撃追加だ。
もし上下に避けていれば、2連目はそちらへ繰り出す予定としていた。
また横なぎではそのまま剣速を落とすことなく、2連目、3連目と続かせることもできる。
<ズズズズズ>
「ゴーシュ指南役、場外! シルドの勝ち」
へ? エリア設定なんてあったの?
「いやぁ久々に負けてしもうたワイ。」
「いやいやお爺さん。結構手加減してくれてたでしょ。」
爺さんが本気出したら俺なんて瞬殺される。
「それが解るぐらい冷静な眼をもっとるっちゅうことじゃ。」
「俺目をつぶってましたけど。」
「何らかの形で『見えて』いたんじゃろ。」
「…はい…目では追えず、かといって魔力は隠ぺいされてたので…空間内に俺の魔力をまいてその動きを見てました。」
「なんとも斬新な方法じゃの。それにお前さんの『ソニックブレイド』。あれはなんじゃ? 『ソニックブレイド』は直線攻撃だったはずじゃが?」
「お爺さんの動きは追えてもそこに剣戟を合わせるのは至難の業でしょ。範囲攻撃で当てにかかったんですよ。」
「あれで避けてたらどうするつもりじゃた?」
「そんなの簡単ですよ。2連目をよけた方に放つだけです。」
「よう考えとるのう。じゃがその『ソニックブレイド』はなぜ緑魔力ではなかった?」
どうしようか。う~ん、神父様の師匠なら、ばらしてもいいか。
「お爺さん。ちょっと耳を拝借」
爺さんに近づき耳もとで、
「俺の基本魔力色は『黒』です。俺の『ソニックブレイド』は『切る』意思を持った空間を飛ばしているものです。模擬戦では『押し出す』としましたが。」
…
…
「なんともヒロは面白い子を拾うたもんじゃのう。儂が直々に鍛えちゃろうかと思うておったが…。マイケル。」
「はい、師匠。」
「部隊長クラスの猛者をこっちに連れてこい。こ奴と模擬戦をさせる。お前さんも含めてな。」
「師匠。呼んできます。」
「えっ。俺は了承してない。」
「つべこべ言うでない。それに…言葉と裏腹に顔がにやけとるぞ。」
た、確かに…面倒臭いとは思ってはいるが、いろんな人との対戦が面白くもある。
「ヌシは基礎は出来ておる。あとは経験を積みそれを自分のモノにしていくだけじゃ。」
高評価はうれしいが、部隊長総当たりだと…俺…生きて帰れるかな。




