14話 護衛最終日生活
「早いもんだね、この調子だと昼前にビクセンに着ける。」
「後1時間ほどですからね。」
最後の馬車塚休憩である。
「快適な馬車旅も今日で終わりか。」
「ホロウさんにはいろいろレシピ教えましたから今後も快適な旅は続くはずです。」
きのうは、竈は作らずに焚火でできる料理をホロウさんに教えておいた。メモも渡したので大丈夫と思う。
「ケーキも食べ収めかと思うと…ね。」
う~んこればっかりは…普通、窯がないと焼けないからなぁ。
ダッチオーブンがないかこっちの支店で聞いてみよう。
そうだな、パンケーキのレシピも書き足しておこう。
「『もうちょっと』というところで失敗しないよう、気を引き締めて行こう。」
「ハイ」
…
クライフさん、フラグを立てないでくださいよ。
『もうちょっと』のところで出ちゃったじゃないですか、ウルフの群れが。
「レード~」
…
「呼んだ?」
文字通り後ろから飛んできた。
「2時の方向よりウルフ23頭接近。御者、代わって。ちょっと行ってくる。」
「うん、がんばって。」
「では、<ジャキン!>トォッ!…『波乗り』」
接敵前に『超加速特攻』で吹っ飛ばし、気絶しているところに止めを刺した。
『無抵抗なものに手をかけるなんて』などと言ってくる輩がいるが、害獣に情けは無用だ。
死体をほっとくと、それを食ってまた害獣が増えるので、とりあえず『収納』しておいた。
「ただいま。」
「ご苦労様。」
「苦労ってほどではないが…もう少しでビクセンだ。気を抜かず頑張ろう。」
「うん。」
ビクセンの大きな門をくぐると検問所だ。
レードは皆の身分証を持って窓口へ向かう。
「前の馬車はドゥーブル冒険者ギルド所属で、乗員は、冒険者レード、冒険者シルド、ギルド職員ドコウ、ギルド職員ニャルムです。
後ろの馬車はフィーン王国商業ギルド所属、乗員はクライフ=ローレンと妻ホロウ娘ミリとなります。」
…
「身分証に問題はないね。ようこそビクセンへ」
無事通過だ。
「この後、ギルドに寄って依頼達成の確認後、コウフィン商会ビクセン支店へ行きましょう。」
「レード様、シルド様。依頼達成、確認しました。この後ローレン様の護衛は次の冒険者に引き継がれる事になります。今現在、南方面への護衛依頼は入っておりませんので2,3日お待ちいただくことになると思います。レード様、シルド様は朝と夕方こちらに問い合わせに来ていただくようお願いいたします。」
「「わかりました」」
「ローレン様。予定等の変更はございませんね。」
「はい、ありません。」
「それでしたら予定通り、7時に北門でお待ちください。ギルド職員がその場で冒険者をご紹介いたします。」
冒険者との折衝はギルドで行っているのか、前もっての顔合わせはないようだな。(俺たちもそうだったが)
「お見送りします。」「私も」「私も」
「何から何までありがとう。君たちとの旅は私の宝物だよ。」
「まだですよ。」
「えっ」
「まだコウフィン商会へ行ってないじゃないですか。」
「私は聞いたことがある。『次の旅立ちまでがクエストです。』って。」
「だから最後まで護衛させてください。」
「君たち…本当にありがとう。」
「ローレン様、今回のご依頼ありがとうございました。この二人にとっていい経験になったと思います。」
やっぱりベテランは上手く締めるなぁ。
「こちらこそ。ギルマスに[本当は★10個つけたかったと]よろしくお伝えください。」
「わかってます。[★10個の件]伝えておきます。」
ベテラン同志、なんか眼で語ってるな。
「ドコウさん、俺たちはクライフさんをコウフィン商会に案内してきます。」
「ああ、馬と馬車は私がギルド裏手につないでおく。それと…ニャルム嬢はここに居残りだ。」
「ニ"ャ!」
「今回の報告書作成があるだろう。それとも徹夜するかい。」
「ニ"ャ~~」
「シルド君、レード君。もし明日暇なら、ニャルム嬢を連れ出してくれないか?」
「「了解しました。」」
「報告書、がんばるニャン!」
「クライフさん、行きましょう」
俺たちはコウフィン商会ビクセン支店の馬車置き場に馬車を止め、店内に入った。
「ごめんください。」
「いらっしゃいませ。どのよ…少々お待ちください。支店長~!」
おや、いきなり支店長呼びに行ったぞ。
と、どこかで見たような顔の人が現れた。
「いらっしゃいませ。そちら様はシルド=グロップ様、レード=グロップ様でお間違えないでしょうか。」
「はいそうです。あっこちらドゥーブル支店長からお預かりした紹介状です。」
「はい…確認いたしました。私、当コウフィン商会ビクセン支店の支店長を務めております ケイヨーク=テンシュ と申します。」
『契約店主』?
「お二方のご活躍は兄より手紙で聞き及んでおります。」
「兄?」
「はい、ドゥーブル支店長のヤトワールは私の兄でございます。」
どおりでどこかで見たような顔なわけだ。
「この度は当支店に立ち寄ってありがとうございます。して今回のご訪問は帰りの物資の補給についてでしょうか。」
「いえ、自分たちの帰還は2,3日は未定です。今日ご訪問したのは、こちらのクライフ=ローレン様に圧縮飼葉などの物資を融通してもらえないかと思いこの方を連れてきたのです」
「クライフ=ローレンと申します。行商人をしておりまして、今回護衛をしていただいたシルドさんレードさんとの縁でこちらの圧縮飼葉を知り、紹介をお願いしたのです。」
俺が強引に進めたのに…クライフさんやっぱりいい商人だな。
そうだこの事も伝えておこう。
「実はツワイスの宿場町で飼葉でぼったくられかけたんです。それで自分思っている予備の飼葉を使ってもらったんです。」
「ちなみにその宿場町の相場はいくらでした?」
「通常の飼葉の5倍。圧縮飼葉との比は倍以上でした。」
「それは…異常すぎますね。」
「それに質も大変悪かったのです。その点、圧縮飼葉は『うまいうまい』と馬たちが喜んで食べてくれました。」
「当商会の飼葉の良さを分かっていただき感謝いたします。してシルド様。『思いついた事』があると兄から聞いております。その『思いついた事』。成功なされたので。」
「その点についてはこちらのミリちゃん、ホロウさんに報告してもらいます。」
「クライフ父さんの娘、ミリと言います。シルドお兄ちゃんがね飼葉とシーツでベッドを作ってくれたの。そのおかげで馬車旅でもお尻痛くならなかったし、夜はぐっすり寝れました。」
「クライフの妻、ホロウと言います。普通、草のベッドですと虫などの心配があるのですが、御商会の飼葉には虫も居ず、その上紐を解くとフワフワで。その上へ立ってくればそのまま飼葉として馬たちが喜んで食べてくれますし。こんな素晴らしい飼葉を開発していただいてありがとうございます。」
「そこまで喜んでいただけるとは…お二方はさすが商人の娘、商人の妻ですね。商人にとって何が一番欲しいものかをわかっておられる。ミリ様。喜んでいただきありがとうございます。」
「えへへ。」
「なるほど、飼葉でベッドですか。良いご報告をありがとうございます。そうですね、ローレン様には当商会の銀級会員証を与えましょう。当商会を御見かけの際には、ぜひともお立ち寄りください。」
「そんな、一介の行商人にそこまで…」
「いいですか。今回シルド様、レード様がご同行されたのは紛れもない幸運なのです。私どもはその幸運が続くように手を貸しただけ。その幸運を続かせるかはあなた様次第です。」
「ッ!ありがとうございます。」
いろいろ便宜図ってもらって悪いなぁ。そうだ、
「便宜を図っていただきありがとうございます。これ、皆さんでお茶休憩の時にでも食べてください。」
「おお!これがグロップ家のパウンドケーキですな。」
[そんないっぱいいつ焼いたの!]
「そんな大層なものでもありませんよ、旅の途中で焼いたものなので味は落ちるかもしれませんが。」
「いえいえ、ありがたくいただいておきます。ではローレン様、必要な物資の確認をいたしましょう。」
「それでは俺はこの辺で。自分たちの出立の日が決まれば物資の相談させていただきます。ミリちゃん、明日朝、魔石の袋渡すね。」
「うん、お兄ちゃん。」
「ローレン様に渡した会員証に『特G』のマークは入れましたね」
「はい、抜かりなく。」
さすがにソロの行商人へ金級以上の会員証は渡せませんでしたが『グロップ様の縁者』として便宜が図られる事でしょう。
シルド様は兄さんが書いてた手紙の通りのお人柄でしたね。
ビクセン出立までにまた立ち寄っていただけるといいんですが…
しかしグロップ家のパウンドケーキ。兄さんからの自慢話に羨まけしからんと思ってましたが…
シルド様が旅先で焼いたケーキなんてレアもの。どう兄さんに自慢しようか。




