18話 元冒険者のお悩み生活
「ドコウさん、居る?」
ギルマスの娘のレニーア嬢がやってきた。
「レニーア嬢、こっちだ。」
「もう『嬢』はやめてって言ってるでしょう。」
若いころの癖だ、若い娘にはつい『嬢』を付けてしまう。
レニーア嬢が来たということは、明後日の昇級試験の同行の件だな。
「君たちが今度、昇級試験を受ける二人だね。」
「シルドと言います。」「レードです。」
「私はドコウという。ギルマスから説明があったと思うが元冒険者だ。C級まで行ったところで引退し、馬の世話と若手への指導を行っている。」
C級に上がった頃妻と出会い、安定職として転職したのだった。ちょうどギルドも冒険者としての経験者を雇いたかったという渡りに船な状態に乗っかったのだった。
「私たち指導は受けていませんが。」
「ニャルム嬢の報告書を見れは、私の教えが君たちには必要ないのがわかるよ。それに前代未聞の★10の冒険者だからね。」
二人はオーサン君の義弟だ。血はつながってなくとも本質はそっくりだ。礼儀正しく、人にやさしく、見る目を持ち、強くもある。まあ彼らの場合そこに『規格外』という言葉が付くが。
「で 今日こっちに来たってことは馬と馬車の確認だね。」
「そうです、あと、馬の操り方を教えてもらえますか。」
「君はレード君だったね。シルド君は?」
「俺も後で教わりたいのですけど、それより馬車を確認させてください。」
「おう、こっちだ」
二人とも、オーサン君がいなくとも自分で必要なこと考え、教えを乞う。
十分C級のレベルには達してると思うが、ギルドとしては『実績』が必要だからな。
「すいません。この馬車、俺が整備してもいいですか」
「馬車の構造を理解し現場で応急修理する技術も必要だからね。許可しよう。必要なら分解してもいいが…元に戻せよ。」
「わかってますよ。」
「じゃあレード君の練習はこの馬車ではなく厩舎に置いている方の馬車を使おう。レード君ついてきなさい。」
「ハイ。シルド。頑張ってね。」
「ああ、レードもな。」
シルド君は裏方を一気に引き受けてるようだ。そしてレード君はシルド君に絶大な信用を置いている。いいコンビじゃないか。
しかしシルド君は『盾職』と『役者』と聞いているが本当は『職人』なんではないか?
ケーキや弁当はプロ顔負け、大工仕事もすれば、オーサン君の初期の盾もシルド君制作の盾だという話。
今も馬車の整備をするという。
冒険者としては知っておいて損はないんだが…君は一体何を目指してるんだい?
厩舎に戻り
「じゃあまずはレード君に馬車の扱いを教えよう。まずは御者台に座ってくれ。」
「こうですか?」
「そのあとは、この手綱を握って、この手綱で指示を出すんだ。」
「こうですか」<パカパカパカ…>
手綱を振っていないのに歩き出した。
「ちょっと…止めて!」
思わず声で指示してしまった。こういう時は横から手綱を奪って引くべきなのだが…
「はい。」<ピタ!>
止まった!?
「普通は手綱を振ったり引いたりして指示を出すものなんだがどうやったんだ?」
「この手綱って魔導線のような素材でできてますよね。ですから馬さんに『歩いて』『止まって』って魔力で指示したんですが。おかしかったですか?」
この操馬術。初代コウフィン公の伝記で読んだことがある。
「君はコウフィン公爵の末裔か?」
「いえ、私はグロップ神父様の養子ですが。」
いくら何でも公爵家縁者が孤児になることはないだろう。
「操馬術は誰かに習ったのですか?」
「神父様から、若いころ祖父から馬をもらった話で、手綱で馬と会話した事を聞いていたもので。試してみたらうまくいきました。」
この子はコウフィン公の再来か?
確かに手綱にはこちらの意図を伝える機能があるにはあるが…それを父の話だけで使いこなしてしまうとは。
「操馬術については問題ないでしょう。後の注意点は、停止と後退ですね。先ほどのような低速時の停止はいいのですが、ある程度スピードが出ていると停止の際には馬に負担がかかります。それを御者台についているフットブレーキで馬車自身を止めてください。」
「わかりました。」
「ではこの馬場を歩いたり走ったり止めて感覚をつかんで下さい。」
今まで教えてた子たちは何だったんだろう?
この子は1時間で操馬車術と馬と馬車の連結をマスターしてしまった。
ちょっと気になるのが、レード君が指示を出すたびに馬たちが<ピシ!>としていることだ。また嘶きも『ヒヒンッ!』とまるで敬礼しているしているような…
ちゃんと馬は従っているのだからこのことは様子を見ておこう。レード君の操馬術に起因するものかもしれませんし。
次はシルド君の指導だ。
「シルド。終わった?」
「オウ、今終わったところだ。」
整備は終わっているな。
「シルド君、どうだった?」
「グリスがかなり黒ずんでいたのですべて新しいものに変えました。」
「全分解整備したんだね。」
ほんとに君はどこを目指してるんだ?
「後、魔導線を使って軸受け機能を修理しました。」
「???…軸受けは壊れてなかったはずだが?」
「確かに軸受け自身は壊れてませんでしたが、軸受けと側板。これが本来、魔導線で接続されているべきところがされてませんでしたよ。あたりに予備の魔導線がなかったので自前のを使いましたが。」
…馬車が…魔道具?
「ちょっと待ってくれ。この軸受けは魔道具だったのか?」
「えっ違うんですか。軸受け内には魔法陣が書き込まれていましたし、この側板の模様も魔法陣らしいので。…これでわかりました。」
「…わかるって…なにを?」
「『夜中に馬車を走らせるな』ってことわざ。あれって単に『夜道は危ない』って意味だけじゃなかったんですね。暗くなると魔道軸受けが働かなくなって軸受けの寿命が短くなる事もさしていたんですね。」
…新事実に考えが追い付かない。
「シルド君。今回の整備した内容、および、そうした理由を報告書にして出してもらえないかな?」
「いいですけど。」
…とりあえず今日は暇をもらおう。一度寝れば『夢』だった…事になるのを期待しよう。
「私は少しギルマスと相談してから、今日は早退する。すまないが御者の事はレード君が完璧に覚えているから彼から教わるように。」
「…はい。わかりました。お大事に。」
「あ~あ、今日も馬車引きかぁ。」
「文句を言うな。おれたちゃ輓馬だ。馬車引くことでおまんま食ってるんだから」
「手綱強く引っ張られるの嫌なんだよね。」
[ちょっと歩いてくれる]
「えっお前聞こえたか?」
「ニーチャ、聞こえたよ。すぐ歩かなきゃ」「おう」<パカパカパカ…>
…
[止まって]<ピタ!>
…
「なんなんだ?優しいのに有無を言わせねぇ声は」
「きっとあれだよ。トーチャが言ってた僕たちと会話できる人だよ」
「トーチャもそのまたトーチャに聞いたと言ってたけどほんとにいたんだな」
「とりあえず指示に従っておこ。従わなくって手綱引っ張られるのやだもん」
「そうだな」
…
…
…
一通りいうことを聞いた後は
[じっとして]
「おっ馬車を外してくれるようだぞ直立不動だ。」
「わかってるよニーチャ。」
「どうも娘っ子に見えるな。そんな時は『アネさん』で返事は確か」
「『イエス!マム!』…そうトーチャから聞いたよ。」
[少し前に出て]
「「イエス!マム!」」
…
「アネさん笑ってくれたよ。」
「返事はあってたようだな。それに…なでてくれる手が気持ちいいなぁ」
「そうだねぇ。気持ちいいようぅ。」
…
…
「えっなでるのやめちゃうの?」
[これから馬車を繋ぎなおして私の相棒の元へ行きます。]
「「イエス!マム!」」
[君たちの名前は]
「サンダだ」「ガイです。」
…
「アネさんお相棒だったらアニさんだな」
「アニさんとも話せるといいね。」
「シルド。シルドには私が教えるね。あっこの二人は『サンダ』と『ガイ』」
「よろしくな。サンダ、ガイ。」
「アニさんの言ってることも解るね」
「それよりも返事だ」
[[アニさん、よろしくお願いします]]
「シルドの事もちゃんと聞いてね」
[[イエス!マム!]]




