17話 ギルドでの馬車整備生活
「「「ただい戻りました。」」」
「お帰りなさい。ニャルムちゃんはこれから報告書書いてね。で、二人はいい話聞けた?」
「全部、シルドに任せました。裏方仕事は全部シルドがやってくれる。」
「こらこら、相棒がそんなんじゃいけないわよ。」
「大丈夫、これからは私の時間。」
「そういうわけにもいかんだろう。馬車の確認もあるし。」
「でも馬は私に任せて。」
「その前にレニーア姉さんに確認だろ。」
「そうだった。レニーア姉さん明後日から使う馬車と馬見せてもらえる? あと明日その馬車借りれる?」
「いいわよ。ついでに同行する職員も紹介するわ。ついてきて。」
ギルド裏の厩舎にやってきた。
「ドコウさん、居る?」
「レニーア嬢、こっちだ。」
「もう『嬢』はやめてって言ってるでしょう。」
厩舎なのでつなぎを着ているがギルドジャケット(職員専用の茶色の物)を着た壮年がいた。
「君たちが今度、昇級試験を受ける二人だね。」
「シルドと言います。」「レードです。」
「私はドコウという。ギルマスから説明があったと思うが元冒険者だ。C級まで行ったところで引退し、馬の世話と若手への指導を行っている。」
「私たち指導は受けていませんが。」
「ニャルム嬢の報告書を見れは、私の教えが君たちには必要ないのがわかるよ。それに前代未聞の★10の冒険者だからね。」
俺たちミシュランには載ってないよ。
「で 今日こっちに来たってことは馬と馬車の確認だね。」
「そうです、あと、馬の操り方を教えてもらえますか。」
「君はレード君だったね。シルド君は?」
「俺も後で教わりたいのですけど、それより馬車を確認させてください。」
「おう、こっちだ」
倉庫で見せてもらったのは幌付4輪馬車だ。
側面には幾何学模様と意味不明な文字で装飾された、黒光りする鉄板。
車輪は板バネに軸受けが付いた簡単なものだ。
でも…
「すいません。この馬車、俺が整備してもいいですか」
「馬車の構造を理解し現場で応急修理する技術も必要だからね。許可しよう。必要なら分解してもいいが…元に戻せよ。」
「わかってますよ。」
「じゃあレード君の練習はこの馬車ではなく厩舎に置いている方の馬車を使おう。レード君ついてきなさい。」
「ハイ。シルド。頑張ってね。」
「ああ、レードもな。」
実をいうと、前からこのタイプの馬車が魔力を垂れ流すように走っているのが気になってたんだ。
やっと触れる機会が巡ってきたぞ。
さて、あの垂れ流し魔力の元は…今は見えない。
さっき出入りした際に揺らぐのは見えたんだが…
今は俺一人ということは、近くにいる人数?
とりあえず一人で出入りしてみよう。
出入り口を開ける。⇒揺らいだ。
閉じる⇒止まった。
その違いは…明るさか。ならば開けた状態で魔力の動きを確認しよう。
馬車に近寄ってよく観察すると、この鉄板が受けた光を幾何学模様と文字が魔力に変換している。
魔力版ソーラーパネルだ。そんな技術があったんだ。
で、その魔力だが…馬車下面へ放出している…だけ?
魔力粒子が立方格子を形作りそれによって反重力状態を…のようなミ〇フスキークラフト…ではなく垂れ流し?
もったいない。
何の意味があるのだろう?
怪しいのは車体底面か。車軸受けだ。
もしこの馬車が魔道具なら魔法陣が書き込まれているはず。…底面には何もなし。
となると車軸受けか。
まず車軸を挟み込んでいる前方車軸受下側の金具を両方外し馬車を持ち上げ太柱を噛ます。ジャッキがないので身体強化で持ち上げた。そして車軸を車輪ごと外した。
構造は…変哲もない車軸受けだ。車軸受け上方には、車軸中央が凹んでいてグリースケースとなっていた。
「かなり黒ずんでいるな。予備のグリスは…あった。まずはバケツを下に置いて『ヒート』」
<ボトボト!>
古いグリスは粗方落ちたな。中をきれいに拭いておこう。
「ウエスもあるな。」
ちょうどコロ付き台車があったので背中をを預け、いざ馬車下へ
『ライト』の魔道具で穴を覗き込みながらウエスでふいてゆくと奥に何か模様が見えた。あれは…魔法陣?
もう少し観察してみるとどこか見覚えが……神父様の蔵書からパクってきた『魔法陣学入門』を『収納』から取り出しページをめくる。あった。
===
『一定距離維持の陣』
この陣は魔力の質を黄魔力に変換。その黄魔力により対象(固体)と距離を一定に保つだけの効果を持つ。
また起動には少量の魔力を必要とするが、大量の魔力であっても効果は変わらない。
使用意図:不明
===
…こんなところで使われてたなんて…でも魔力供給されてないよな。
グリスケースからは板バネを貫通して2つの細い穴が開いている。グリスの注入穴かと思ったが、一つは魔導線用の穴?
予備のグリスはあったが、魔導線は見当たらなかったな。ここではそこまで修理しないのかな?
せっかくここまでしたんだから、魔力軸受けも直しておこう。
『転移扉』確認後にコウフィン商会近くに転移した。
「ごめん下さい。」
「いらっしゃいませシルド様。今日もお急ぎのご様子。何をお探しですか。」
俺の様子から、すぐ対応してくれる店員さん。助かるぅ。
「魔導線って取り扱ってます?」
「少々お待ちを。誰か、シルド様に魔導線持ってきて。」
「はい!ただいま!」
「シルド様、何か魔道具がお壊れに?なんでしたら私どもの方で新しいものをご用意いたしますが。」
「いえ、ギルドの馬車なので。それにつなげばすぐ直ると思いますので。」
「ギルドの?…馬車?」
「シルド様、ありました!お急ぎと聞いております。清算は後日で結構ですのでこのままお持ち帰りください。」
「ありがとう、助かるよ。じゃぁ」
「またのお越しをお待ちしております。」
…
「馬車に魔導線って…」「はい?」「必要だったかしら?…」「…さぁ?」
側面の模様は円形ではない…が…魔法陣なのか? 入門書には円形しか載っていない。 通常の魔法陣の働きとは逆だが魔力が動くのだから魔法陣としておこう。
魔力出力部の模様については入門書にも記述があった。。
『逆流防止回路』
なんで『回路』?『陣』じゃなくて?まあいいや記述からすると集めて出した魔力が戻らないようにするものらしい。
…
そうすると左右のソーラーパネルを魔導線で直結しても魔力にお低い方へ流れることはないんだな。
まず左右を直結しそのあと左右の軸受けに分配接続する。(接続は『スポットヨウセツ』で)
軸を取り付けようと軸受け近くに近づけると
<グン!>
と一気に軸受けにはまった。外れない…
『距離を一定に保つ』=接触しないし外れない。
まだグリス入れてないんだけどな…仕方ない注入穴から入れよう。
下側の金具を取り付けて。とりあえず前輪終了。
後輪も同様の処理をして、グリス注入。
結果は…身体強化してだが片手で軽く動くようになった。
あとはフットブレーキの利きを確認して…ここは要所要所に油を挿す程度で大丈夫だな。
「シルド。終わった?」
レードが馬車に乗ってドコウさんと一緒に倉庫に入ってきた。
「オウ、今終わったところだ。」
「シルド君、どうだった?」
「グリスがかなり黒ずんでいたのですべて新しいものに変えました。」
「全分解整備したんだね。」
「後、魔導線を使って軸受け機能を修理しました。」
「???…軸受けは壊れてなかったはずだが?」
「確かに軸受け自身は壊れてませんでしたが、軸受けと側板。これが本来、魔導線で接続されているべきところがされてませんでしたよ。あたりに予備の魔導線がなかったので自前のを使いましたが。」
「ちょっと待ってくれ。この軸受けは魔道具だったのか?」
「えっ違うんですか。軸受け内には魔法陣が書き込まれていましたし、この側板の模様も魔法陣らしいので。これでわかりました。」
「…わかるって…なにを?」
「『夜中に馬車を走らせるな』ってことわざ。あれって単に『夜道は危ない』って意味だけじゃなかったんですね。暗くなると魔道軸受けが働かなくなって軸受けの寿命が短くなる事もさしていたんですね。」
…
…
「シルド君。今回の整備した内容、および、そうした理由を報告書にして出してもらえないかな?」
「いいですけど。」
「私は少しギルマスと相談してから、今日は早退する。すまないが御者の事はレード君が完璧に覚えているから彼から教わるように。」
「…はい。わかりました。お大事に。」
調子悪そうだな。
「シルド。シルドには私が教えるね。あっこの二人は『サンダ』と『ガイ』」
紹介してもらった馬は、名前つけてもらってるのか。ここで可愛がってもらってるんだな。
「よろしくな。サンダ、ガイ。」
[[アニさん、よろしくお願いします]]
なでてやると手から馬の言ってることが伝わってくる。『アニさん』ってなんだ?『アニさん』って?
「シルドの事もちゃんと聞いてね」
[[イエス!マム!]]
レード、お前、馬に何したの?




